第2話
個展の当日、私は長い行列のひとかけらとなっていた。
資料に書かれた『プロセルフアート』の説明に関して、今一度目を通す。
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プロセルフ・アート(Proself Art)。自己を投影した新しい芸術の形。
プロセルフには3つの意味が備わっている。
1つ目は自己を観察する一流を意味する『プロ・セルフ』。
自分の思考・想いを言語化し、作品を制作する際の基盤とする。
2つ目は作品を制作する過程での自己の想い・考えを意味する『プロセス・セルフ』。
どうしてこの構図に至ったか、どうしてこの塗り方にしたのかというのを言語化したり、他に出た構図のアイディアも紹介する。
3つ目は基盤・過程・完成品を通して、他の人に想い・考えを紹介する『プロデュース・セルフ』。
元来の完成品だけという二次元・三次元の作品ではなく、時間軸を加えた四次元で作品を制作することでこの作品を通して、自分の考え方の変化等を他へと見せる。
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太陽が強く照る快晴の今日、いつもなら暑さで疲労感溢れる私の身体だが、今は全くそれを感じない。それだけ私はこの『プロセルフ・アート』が作り出す世界に興味が注がれた。
AIが台頭し、私たち芸術家の立場が危うい今、唯一残された道として描かれたのはより『自己』を強調した作品。自分の想いを全てぶつけた新しいアートの形。
「まもなく開場です。前の人を押さず、ゆっくりと前に進んでください」
案内人のスタッフの声が聞こえると、建物の扉がゆっくり開く。同時に私の並んでいる列もゆっくりと進んでいった。
鼓動が早まり、自分の気持ちが高揚していることを実感する。
建物に入ると、薄暗い空間に局所的な光がさす。赤色の絨毯が光を反射し、華やかさが増していた。
所々が白い板で仕切られており、作品ごとに空間を設けていることがわかる。
私は人があまりいない奥の方の空間に入ってみた。最初に目に入ったのは完成品だ。この空間には二つの完成品が展示されており、それぞれ隣同士に横並びになっている。
モチーフは『時代の流れ』。右側には版画で描かれた絵が展示され、左側には大きなスクリーンに絵が映し出されている。アナログとデジタルの対比のようだ。
二つの絵は同じ構図で書かれており、真ん中から左右に広がっていくような構図で、真ん中の建物を境に道が二手に分かれている様子が描き出されている。その建物の前には男性と女性が立っている。互いに背を向けつつ、顔だけこちらを向いている様子だ。
浮世絵では、男女ともに着物を着ている。男性は腰に刀を携え、柄の部分に手をかけていた。それがデジタルになると、男女ともに今の私服姿へと変わり、男性の携える刀は取り払われ、握りしめていたのは柄からスマホへと変わっていた。
また、浮世絵で書かれた建物や道に映る人や馬車もデジタルでは今風に置き換えられている。各素材も合わせて、二つの絵で過去から未来という時代の流れを描き出しているようだ。
左を向くと作品を作るにあたっての最初の構想が書かれていた。
『時代の流れというモチーフを描くことに至った背景は、AIが台頭して自分の立場が危うくなった今、新しい芸術性について見出す必要性が出てきたことにある。
過去の我々がどのような形で絵を進化させていったのかをみていくことで自分の中で新しい芸術性を見出すため、そのはじめの一歩として本作を作り出すにあたった』
その横を見ると、完成品が出来上がるまでのプロセスが記載されている。
最初に作った構図が何パターンかそのままの形で展示され、なぜ完成品の構図を選択したのかが記述されていた。構図のパターンを見ると過去と未来で絵面を変えているパターンも浮かんでいたみたいだ。
過去と未来で構図のパターンを同じにしたのは、『時代の流れにおいて変わったものと変わらなかったものの対比を強調したかったから』のようだ。建物を真ん中にし、左右二つを分岐するように配置したのは『時代の選択』を想起させるため。
構図の選択が終わったら、次にどのように二つを表現するか。過去と未来を絵だけではなく、絵の形そのものにも反映させることで、立体感を与えるためにアナログとデジタルという形で作成されたようだ。
また、男女を取り巻く背景についても事細かに書かれていた。どうしてそれを書くに至ったかや過去と現在の建物の建て方の豆知識など、プロデュースするために自分の作品に描いた全ての事柄に対して、全てを果敢なく記載してある。
プロセスの流れは空間を一周するように作られており、終着地点が完成品のあるところとなっていた。着想から始まり、一周することで想像が現実となる光景は、まさにその絵の世界観に浸る構成となっていた。
きっと、これひとつ作るのに何ヶ月もかかったのだろう。それだけ、一つの作品にかける作者の想いを強く感じた。これこそが、今自分たちが目標にするべき人間が作り出す新たな芸術の世界なのだろうか。
他のところはどういった創作がされているのだろうか。
たった一つだけでも、大いに満足できたのにこれがあと十数個も見られるというのはなんて素晴らしいのだろう。
私はウキウキしながら、出口にはけ、次の世界へと渡っていった。
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