2023/05/12埼玉県加須市指定史跡小田熊太郎生地
希望の象徴たる太陽を覆い隠す不吉な曇り空の下、俺は出発した。
今日、俺が目指したのはある偉人の生地だ。勿論、並大抵の道程ではなかった。地獄と隣り合わせ、命懸けの冒険であった。
静かに、緩やかに流れる一本の川。一見なんの変哲もない只の川だと、舐めてかかった探検家の多くが河童に拐われて帰ってこないのだと、現地のガイドは語った。そしてこの話をしてる最中にガイドも河童にやられた。
ここは危険な川だ。俺は確信した。
細心の注意をはらい、河岸を進む。目的地に辿り着くには、この河岸を通るのが必須だった。河童をなるべく刺激しないようにする為、どうしてもペースは落ちてしまう……ここには食料はなく、川の危険度から水も手に入らない。時間との勝負でもあった。
緑色に鈍く輝く何本もの塔。
碑文の一部が潰されて名もわからぬ寺院。
かつて獣と暮らす賢者たちが住んだ秘境。
道中、幾つかの遺跡に遭遇した。どれも伝説に語られる考古学的に大変貴重な……ここまで考えて俺は首を横に振る。
俺の目的は偉人の生地のみ。覚悟を改めて俺は石の道を進んだ。
河岸から離れ、ようやく河童の脅威から逃れた。更にオアシスまで発見し、一旦緊張を解くことが出来た。自販機でジンジャーエールを買って飲みながら地図を広げる。河岸、数々の遺跡、そしてこのオアシス……俺の辿った道のりを照らし合わせる。
ここだ。ここのはず……そのはずだが。
オアシスから南下したその先に開けた場所。そこにあったのは、白い遺跡だった。そしてこここそが、地図が指し示す目的地である、はずなのだが。
おかしい。
この遺跡の建築様式が、偉人の時代と全く会わない。新しすぎるのだ。
今一度地図を確認し、懐から取り出した六分儀とコンパスで自身の位置を測る。結果はここが目的地だと告げている……どう言うことだと、俺は呟いた。
誰か……先にここに来た何者かが後から建てたものか?あるいはそもそもこの地図が偽物か?
俺は観察のために白い遺跡に近づく……あまりに不用心だった。
突如、死角から何かが飛び出してきた。老人だ。口髭を湛えた老人が恐るべき速度で真っ直ぐこちらに突っ込んできたのだ。俺はバックステップし、ギリギリそれを回避する事が出来た。
紙一重……あと一瞬、反応が遅れたら俺の胴体は……ボンッ!だった。
「ゴメンヨーゴメンヨー」
老人は謎の文言を発しながら何処かへ消えていった。あれはここの守護者だったのだろうか?謎のままだ。
だが、あの老人を見て確信した。ここには何か隠されている。だからこそ近づいた俺に老人
は襲いかかった。もしかしたら俺は試されたのかもしれない……そして、どうやらお眼鏡にかなった。
俺は老人が現れた方角を探索した。一縷の望み、というやつだった。学術的な根拠は一切なく、ただ感覚に身を任せたのだ。
たどり着いたのは、白い遺跡の裏手。あの遺跡とは明らかに様式の違う建造物の一部が厳かに佇んでいた。
俺はその場にへたり込み、涙の流れる目頭を抑ていた。
あぁ、着いた、着いた。
他の言葉が出なかっか。俺はしばらく泣いた。泣き止むと、眺めた。時間を忘れて眺めた。夢にまでみたこの場所は、この場所こそが!
加須市指定史跡 小田熊太郎生地。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます