第16話 作戦
作者 武緒さつき♀
第3章 2つの顔
第16話 作戦
「ここに集まった皆様に、天書の智慧の降臨があらんことを!」
王立図書館の一室、私は今日何度目かわからないこの台詞を叫んでいた。
「ドリゼラ姉さん!サイコーだよ! マジでワタシより王妃様してるじゃんね!?」
「そっ…そうかしら? 正直まだ照れくさいんだけどね?」
部屋の中には、私とシーラちゃん……、そして遠目でコンサドーレ様が見守っている。
「ドリゼラ様、私も素晴らしいと思います。この短期間でよくそこまで王妃様らしさを身に付けられたものです」
「ありがとうございます、コンサドーレ様。皆さまのご指導の賜物です」
私は「王妃シンデレラ様」のつもりで、スカートの両裾を指先で軽くつまみ、優雅なお辞儀をして見せた。
――先日の総主教様と神官長様とのお話。
私は、王妃シンデレラ様の影武者を引き受けるにあたって条件を提示した。
「シーラ様を演じるには練習が必要です。その指導をシーラ様に直接していただくことはできませんか?」
キシーダ様とマッツオ様は、お互いの顔を見合わせていた。きっと予想していない返事が返ってきたのだろう。
私はこう考えた。
仮にシーラ様の公務の一部を私が入れ替わり、その間シーラちゃんが休めたとする。当然シーラちゃんの負担は減っていく。だけど、これを繰り返しては私とシーラちゃんが顔を合わせてお話する機会がないのだ。
自惚れじゃなく、シーラちゃんはきっとまた私とお話したいと言い出すはずだ。そして、私もシーラちゃんともっともっといろんなお話をしたい。だから、ただの影武者じゃなくて、お互い話をできる時間が欲しかった。
それを簡単に実現して、しかも影武者の完成度を上げる見事な作戦。それが、シーラ様の演技指導をシーラちゃん自身にやってもらおう作戦!
おまけにシーラちゃんと一緒ならきっとコンサドーレ様も一緒にいらっしゃるはず。まさに一石三鳥の完璧な作戦、自分の頭の良さが恐ろしいわ、ドリゼラ・トレイメン。
それにこの国の女性として生まれたなら少なからず、王妃様への憧れはみんなもっていると思う。私だってそうだ、運が味方すればシンデレラではなく私、ドリゼラがチャーミング王子にみそめられた可能性だってある。
影武者であっても、王妃様になれるなんて心躍らないはずがない。
瓜二つのシンデレラと再会した時から、家でひとり王妃様の真似をして遊んだりしていたのだ。これは恥ずかしすぎて誰にも言えないけど……。
ただ、そのおかげでシーラちゃんの指導がなくっても、私は十分「王妃シンデレラ様」を演じられるのだ。「演技指導」はお話する時間をつくるための口実に過ぎない。
あと、ここだけの話、宮廷からの報酬もけっこうな額なんです。運送屋さんとの掛け持ちは大変だけど、いっぱい貯金ができそうな予感。
「話し方だけでなく、立ち振る舞いも見事なものです。これなら民衆の誰もシーラ様が別人と入れ替わっているなど考えもしないでしょう」
「そっ…そうですか。お褒めに預かり光栄です」
コンサドーレ様に真正面から褒められるとさすがに照れてしまう。シーラちゃんはなんかにやにやしながらこっちを見ている。
「いやはやお見事です。ドリゼラ様」
コンサドーレ様が、声のした方を向き、姿勢を正して一礼をした。声の主は総大臣キシーダ様だった。その隣りには官房長のマッツオ様もいる。
「ドリゼラ様、貴女のお姿を見てもはやシーラ様ではないと疑う者はいないでしょう。早速で恐縮なのですが、本日いくつかの神殿に赴く公務がございます。コンサドーレを案内役として同行させますので、影武者を務めて頂けますでしょうか?」
ついに来ました! 私の「王妃シンデレラ」としてのデビュー戦(?)です!
「はい、承ります! コンサドーレ様もよろしくお願い致しますね!」
「心得ました。私がしっかりとエスコート致しますのでご安心ください」
コンサドーレ様は私の目を見据えて微笑んでみせた。
「ほっほっほ、2人ともしっかりと頼みますよ」
キシーダ様は左手で髭を撫でながら、右手で杖をついてこの部屋を後にした。
「そしたらワタシは休んでていいわけ?」
「ドリゼラ様が代わって下さる間、シーラ様はご写本をお願いします。ご写本の間まではこの私が案内致しますゆえ」
官房長マッツオ様はそう言ってシーラちゃんに頭を下げた。
「えー! それじゃドリゼラ姉さんに代わってもらう意味ないじゃんよ!?」
「たまっている天書の写本が無くなったら、余暇の時間に充てるように致します」
「わーったよ! ドリゼラ姉さん!がんばってね!」
シーラちゃんはマッツオ様に連れられて部屋を出て行った。去り際にまたウインクをして見せた。
「さて……、では私たちも参りましょうか、“シンデレラ"様」
「はい! 改めてよろしくお願い致します」
待っててね、お国の皆さん! 王妃ドリゼラが参りますよ!
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