第34話 全ての元凶となった男

「だ……だめだ、この人には勝てない……逃げないと――」


 ――逃げよう。

 そう決めた瞬間、私の体は矢の様に突っ走っていた。


 ――――だが、


「だがもう遅ぇ。オリを抜け出したテメェの首ねこぉ、もう捕らえてんだよぉ」

「ナニ――っ?!!」


 私の行手に着弾したミサイル――強烈な爆風にさらされ、何回転もしながらモルディの元へと引きずり戻されていた。


「うぅ……うっ……痛い……何で、私がこんな目に……」

「泣きべそかぁぁ? 初めて見たぜ白狼ちゃん」


 焼け焦げ、ズタボロになった私の頭をモルディは踏み付ける。


「クソォ――っ!」

「おおっとぉ、そのタフネスだけは健在かぁあ」


 振り払おうとした私の手を、モルディはひょいと避けて銃口を向けて来た――


 ――爆炎に飛び退いて距離を取るが、背後の大河がこれ以上の後退を阻んだ。そして正面の爆炎より、堂々顎を上げたモルディが歩いて来る。


「逃げ場がない……っ」


 怖い、本当に怖い。何でそんな目で私を見るの? 私が何をしたの?

 私がお外になんか出たから……みんなに言われてムキになって、慣れない事をしようとなんかしたから。


 ――やっぱり私は、お外になんか出るべきじゃ無かったんだ。

 みんなと一緒に過ごす、そんな資格さえも私には……


「観念しろよ白狼ぉぉ……」


 私の足に、コツンとおしり星人の残骸が当たった……

 このフィギュアを私に譲ってくれた、白髪バーコードじじいの顔が思い浮かぶ……


「――――!」

「んん……?」


 どうせやられるなら、最後に一度だけ――!


「ようやっと本気になったかぁぁ?」

「流れを、力の流れをイメージ……これを、私の拳だけじゃなく……!」


 破壊されたおしり星人と白髪バーコードじじいの魂の分だけは――


「きっちりお返しさせてもらう――!!」

「フクク……」


 拳に溜めた力の流れ――それを脚力に応用する!

 微かに瞬いた足下に、その目論みが付け焼き刃程度には成就じょうじゅされた事を実感する。


「いくぞモルディ――!!」


 もう小細工はなしだ。何をしてもこの男には通用しない。

 必要なのは、こいつの意識を凌駕りょうがし得る、瞬間的な爆発力――

 出来る……それが出来る筈だ――『力』の勇者、“白狼”なら。


「来いよぉぉ」

「――――ッッ!!!!」


 私の踏み込んだ足場が、強烈にひび割れ、大地が揺れた――!

 ――瞬間、モルディの意識さえ超えた私が、棒立ちの男の正面に肉薄にくはくして拳を握っていた――


「ウオオオオオオオ!!!!!!」

「――――」


 ――だが私はこの時、この瞬間、


「フッククク」

「は――……」


 ――『銃』の勇者モルディのを理解し切れてはいなかった事を知る。


といこうぜ……お祭りはよぉぉ」

「お前――まさか自分ごと?!!」


 次の瞬間、モルディが足下に解き放った大砲が爆発した――


「ハ――――カ……っ!!」

「――――っ!」


 己もろとも爆撃し、黒焦げとなって、大地に墜落した私とモルディ……


「う――ァ……ぁ――」

「ふうぅうう、効くなぁぁ……ええおい、白狼ぉぉ」


 想像を絶するダメージに、未だ動き出す事も出来ないでいる私。

 対してモルディはススだらけの体でヨレヨレと立ち上がり、燃え上がる襟元の炎で、懐から取り出してくわえたタバコに火を灯していた。


「はァァアア……お前も吸えよ白狼ぉ、ヘビースモーカーだろうがぁ」

「カ――ぅ…………っ!」


 炎を払ったモルディは、タバコを吹かしながら私に右腕の銃口を向ける。

 焼け焦げた私は、もんどりうつ事も出来ずに必死に呼吸を繰り返すだけになっていた。


「……なんだよ、ツレねぇなぁ」


 突きつけられた無骨な銃口を見上げ、私は側にあったおしり星人の亡骸を握り締めた。


「…………」

「じゃあなぁぁ、


 モルディが顔を斜めにした瞬間、今ここで本当に命が消し飛ばされると直感した。

 ……恐ろしい悪魔のような男の顔が、私の網膜に焼き付く――


 するとその時――――


「おい! 何やってるんだお前!!」


 聞き覚えのある声に、かすんだ視線をそちらに向けると、見覚えのある金色の鎧が見えた。


「ああぁ? どぉぉやってここに入ったクソガキぃ。人払いは済ませてあった筈だぁ」

「おい! お前聖魔教会の人じゃないのか! 正義ジャスティスじゃないのか!!」

「パラディン……後藤――逃げ、て……」

「白狼ぉ、お前は黙ってろ」

「ゔ――っ!」


 私がうめき、彼の名を呼ぶと、モルディは視線を落とし、私の頭を踏み付けた。そうして正体不明の少年へと声を発し始める。


「はぁぁ? お前もしかしてこの男をかばっているつもりならぁぁ、ガキといえども反逆罪で――ん?」


 忽然こつぜんと姿を消した少年に、モルディは一瞬呆気に取られて周囲を見渡した。

 ――だがすぐに、で起こり始めたその声に気付く……


「聖魔教会は正義ジャスティスじゃないのか!」

「お前……まさか転移魔法を――」

「これじゃあまるで、お前が悪モノだ――!!」


 パラディン後藤の魔法陣に飲まれた私は、そこで意識をブラックアウトさせた――

 

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