第26話 お前、なんでまた引きこもってんだよ!


 とりあえず私は、この馬鹿共に何をしに来たのかを聞いてみる事にした。


「お前ら何しに来たんだ。本当に私の首を取りに来ただけなのか?」


 するとスライトは眉を八の字にして私を見上げ始める。


「んまぁ、それもあるけどよ……なぁ?」

「ええ、私たちはある共通の疑問を持ってここに押し入りました」

「……押し入るなよ」


 やはり何やら他にも目的があるらしい彼等。するとそこで、二階でクルミとゲームをしていた筈の風香ちゃんが騒ぎを聞き付けてやって来た。

 開口一番オークは笑う。


「ぷっはぁああ!!! みんな見るど、元〈修道女シスター〉の無職借金女だど〜!」

「この甲斐性かいしょうなし女が! この前は良くも邪魔だてしてくれたな!」

「下民の豚め!」

「なにぃっ!! 久しぶりに会ったと思えば……お前ら、私が聖魔の女じゃ無くなったからって舐めてるだろう!」

「へっへ〜んだど〜」


 ――私の風香ちゃんを小馬鹿にした3人に拳骨をくれてやった。さらに風香ちゃんもコイツらを蹴った。

(ウホッ、パンツ見えた。紫)


「で? 私への疑問ってなんな訳よ?」


 頭から煙を上げた彼らは、薄めを開いてたどたどしく話し始める。


「白狼よ、お前……

「――――ぅっ」


 疑問というのはそれか……なかなか痛いところを突いて来やがる。お前のなまくらナイフよりずっと鋭いじゃねぇか。

 舌を突き出してひーこらしたルディンが続く。


「アナタ町に現れたあの日から、一度も外に出ていないでしょう? あれからもう二週間も経ったんですよ?」

「べ、別に……アンタたちに迷惑かけてないもん。なんなの、そんな事言いに来たならほっといてよ」

「生活に必要なもの、全部ママゾンとデリバリーで調達してるの知ってるど。オラたちずっと見てたんだど」

「おうよ、せっかく町で暮らしていく許可も貰ったのに、あれから一歩も外に出ようとしないなんておかしいぜ。これじゃあまるで引きこもりみたいじゃねぇか」


 ギクリ……。

 ――こいつらの言うように、実はあの日以降、私は再び引きこもった。

 数年ぶりに外に出て、思いっ切り走り回ったのは正直快感だったけれど。やっぱりこんな体じゃあ、外になんて出られっこ無かった。

 気付けば元のルーティン通り、全て自宅で完結するインキャ生活をしてたって訳だ。


 ――え、それなら目的が達成されて良かったじゃないか、だって?


 チッチッチ……甘いな諸君。

 考えても見ろ。私のオタクルームには、私の顔をした暴君が居座っている。ゲームもフィギュアも我が物顔して支配してんだ。

 しかもルックスだけは超絶美少女の暴君は、風花ちゃんにも気に入られてしまったらしく、毎日(私のものの筈の)爆乳おっぱいに飛び込んでいく羨ま死刑な光景を、指をくわえて眺めている事しか出来ねぇんだぞ!

 あぁ……私の楽園は何処に行ったことか! 今や私の楽しみといえば、風花ちゃんの入浴シーンに偶然を装って鉢合わせる。ラブコメ伝統芸能ごっこしか無いんだ!(毎回本気で殴られる)


 まぁ正直、この生活を変えたいとは思っている……

 だけど、それを実行に移す勇気と行動力が私には無かった。白狼の体になっても、引きこもりはずっと引きこもりのままだ。


「別に……外に出たってやりたい事ないし」

「やりてぇ事が無いだ〜? それ本当かよ」

「……ぅ……っ」


 ――本当は……ある。家に居辛くなって、余計には増すばかりだった。


「言ってみてくださいよ白狼さん……もしかしたら、私達に何か手伝えることがあるかも」

「…………お前ら……」

「また一緒に遊ぶど〜白狼」

「バカオーク……――いや、でも……」


 こいつら以外と、心は純真で良い奴なのかも知れない。でも……長く心に秘めたこの思いは、おいそれと口にするのがなんだが恥ずかしい。

 私が言いあぐねていると、今度は二階からクルミがズカズカ下りてきて、腕を組みながらせせら笑った。


「くくく、こいつみたいになーんにも考えずに生きてきたカスはなぁ、傷付けられる事にも期待される事にも耐えられず、自分の殻に引きこもって一生生きていくんだよ」

「んぁ? あの時のロリガキだど」

「あの白狼に、こんな口を利く少女が居るとは驚きですねぇ」

「悪いのは自分じゃねぇ、全部周りの奴らのせいだっつって、自らを変えようとは微塵みじんも思わねぇ……」


 クルミの言葉が胸に突き刺さり、私はムッとした極悪ヅラで詰め寄った。

 クルミは私に至近距離から見下されても、少しもその視線を逸らさず、口の端から嘲笑ちょうしょうの息を吐き出した。


「自らの欠点を見つめ、成長しようとする努力さえ、こいつには恐ろしいんだ」


 ――プツンと何かが切れて……

 私は思わずクルミの側の壁を殴っていた。

 ……だが、未だ顎を上げて勝ち気に私を笑うクルミ。


「ちょ、ちょっとクルミちゃん、白狼! 喧嘩するな、私の家が壊れるだろう!」

(風花ちゃんの家じゃないよ)


 慌てふためいた風花ちゃんが私達の間に割って入ると、クルミは「フン」と言いながら風花ちゃんの胸をはたいて二階に戻っていってしまった。(そんな気軽に触れるなんて、悔しい!)


 物々しい空気に顔を見つめ合わせたスライトたち……


「……て…………るよ……」

「お、おい白狼、どうしたど? なんか禍々しいオーラが出てるど」

「やって…………るよ」

「おいおい、お前が本気でブチ切れたらどうなっちまうか……」

「私にも……出来るって――ッッ」

「こ、ここは怒りを抑えて下さい白狼! 子どもの言ったことなど気にしないで!」


 ――そして怒りに満ち満ちた私は、二階に帰っていったクルミにも聞こえる様に、全力で絶叫してやったのだ。


「やってやるよ!! あぁやってやるとも!! 町で悠々自適ゆうゆうじてきにオタ活して来てやるよオラァァアア!!!」

「え、なに……オタ活?」


 顔を引きつらせた風花ちゃんに向けて、私は決死の形相で拳を握り込んだ。


「オタ活だぁあ、オタ活オタ活! オタク活動だよぉおお!! フィギュアにゲームにアニメショップ! 声優イベントに聖地巡礼、コラボカフェにメイド喫茶ぁあ! 私でも外の世界で生きていけるって事を、お前らに見せてやるんだよぉおお!!!」

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