第20話 人の温かみに触れて、私は決心する「この人たちと、私たちの町を守りたい」
「このままだと、私たちの町がなくなっちゃうのよ?」
ていうか風香ちゃんだけじゃない。聖魔教会の人とか町中の人が武器を構えて私を睨んでいる。
答えに
大きなため息をついた私は、ダメ元で一つ提案してみる事にした。
「どうなんだ白狼!」
「じゃ……じゃあ、私からも条件が」
「条件?」
「私は別に、町で悪い事はしないし、今後またこういう事があったら、聖魔教会に手を貸してもいい」
「おんどりゃあ白狼! うちの本部ぶっ壊しといてくれて、何が悪いことはせんだぁ!」
「待て、話を聞こう。実際私たちの命運はこいつに掛かっていると言っても過言ではない――それでお前は何を求めるんだ……?」
「だから……うん、だから――」
私は大きな声で、その場のみんなに聞こえる様に、たった一つの無理な願いを言い放った――
「私が町で、静かにインキャ生活する事を許してくだしゃあぁあい!!!」
シンと静まり返った後、声を上げたのは聖魔教会の荒くれ信徒たちであった。今に食ってかかって来そうな勢いで、私の耳元でがなりたてて来る。そのうちの一人、黒いサングラスをしたリーゼント頭の奴に至っては、どこの方便かも分からない、どっかの任侠映画みたいな話し方をしてて怖い……
「出来るかぁあい! お前は天下の大悪人なんじゃぞ!? 悪を
「ふ、ふん……じゃああのタコぶっ飛ばさないもん」
「んなぁにぃ〜ッ!! この極悪オヤジめが、そんな提案、嘘でも聖魔教会が首を縦に振れる訳ねえじゃろがい! こちとら世間体っつうもんがあるんじゃ!」
「う、うるさい! じゃ知らないもんフン!」
するとそこで、多くの町人たちが声を上げて聖魔教会の人たちに詰め寄り始めた。
「そうは言うけどねぇ、背に腹は変えられんでしょう」
「んなに……」
「白狼さんの言い分を飲まなきゃ全員ここで死ぬんだ。ほんならどんな条件でも飲むしかあるまい」
「お、お前ら……だ、だが、こんな極悪ヅラの凶悪犯罪者が町でのうのうと暮らすとなると、困るのはお前らなんじゃねぇのかい! こいつは知っての通り、何するかわかんねぇ奴だぞ。お前ら自身がこいつと一緒に町で暮らす事を、許容出来るって言うんかい!」
「みぃ……みなさんん〜」
人の情という奴に触れ、私の目頭に涙が溢れて来る。
「まぁ確かにな……この白狼とかいうオッサン、今日うちに突撃してきて家を半壊させたし」
「うちのポチの犬小屋も壊しおった。馬鹿者が、かわいそうなポチ」
「あれ」
「うちの店のショーウィンドウなんて粉々よ! もう商売にならねぇってんだい、どうしてくれる!」
「こいつの走っていった道筋は壊滅状態だし」
「え、みなさん……?」
「わたしゃ、パンティ盗まれたわい」
「お、お婆さん……それは濡れ衣」
お婆さんがぴしゃんとパンティ泥棒の背を杖で打った後(いや盗ってねぇよ、ふざけんなババア)
前に出てきたスーツ姿の町長が、銀縁メガネの前で――パチンと手を打って町人の声を代表した。
それは意外にも、沈み込んだ私の心に一筋の光を灯す言葉だった――
「ですが不思議な事に私達は、彼から悪意や害意というのを一切感じなかった」
「町長さん……」
「皆がそう口にするので、どういった男なんだろうと私も不思議に思っていましたが……ほらご覧ください」
私の顎をグイと掴んだ町長は、聖魔教会の信徒たちへと見せつける様に、眉間にシワの寄った極悪非道ヅラを向ける。
「ゔぉ……っ」
「ほら、目が綺麗だ。こんなに綺麗な目をした男が、悪人であるはずが無い。少なくとも、今後悪さをしないという彼の言動には、真実味があると考えられるでしょう」
「……そうかなぁ、すごい凶悪そうに見えるが」
「でも町長がああ言ってるしなぁ、俺たちの目が節穴なのかも知れねえ」
「あっ、本当だ、急に可愛く思えてき……あぁいや、そんな事なかった」
ニコニコと晴れやかそうに笑い、町長はまた掌を打った。
「私達は、彼がこの絶望よりこの町を救ってくれるというのなら――彼の言う、悪い事はしないという言葉を信じ、共存していく事も辞さない所存です」
「町長さん……ありがとう」
「じゃ、じゃがぁ、ワシらとしても、この大悪人を捨て置く事も出来ん……もしこの場は譲るにしても、町で見かけた時には然るべき措置を――」
そこまで語ったリーゼントグラサンの肩に、風香ちゃんが手を乗せて首を振った。
「ここは私が責任を持とう……」
「シスター……っわかりましたよい」
「くく……居場所さえ割れていれば、後から私がこっそりと……」
去っていったグラサンの背後で、風香ちゃんが何か悪巧みしていたのに気付いたけれど、今はそれよりも、私を信じてくれたみんなにお礼を言うのが先決だった。
風香ちゃんが手枷の鍵を持って来たけれど、私は待ちきれなくってそれを破壊した。ちょっと力んだら粉々になった。
「みなさん本当に、こんな私を信じてくれてありがとうございました!」
「頼むぜ白狼。俺たちの町を救ってくれよな!」
「はい!!」
「まぁ色々言ったが、あのタコを倒すのが前提条件だからな、そこん所わかってんだろうな〜」
「うん! アイツを倒して、早く私たちの町に帰りましょう!」
みんなの笑顔を背に、私は力一杯に
「フン――――っ!!」
その脚力は物凄い衝撃波を周囲に残し、私の体は雲を割って空を突き抜けていった。
「この体なら……きっと――」
見よう見まねで拳を握り締めてみると、異様に思う位にすんなり体に馴染む感じがした。
――ああ白狼。お前は何千、何万回とこの拳を握り締めて来たのだろう……
私は今この時、初めてまともに
「きっと、出来る――――ッッ!!!」
巨大獣の触手を掴み、思い切り引き寄せると、山の様な図体が私に引き込まれてバランスを崩した。
そして迫り来るタコの頭部目掛け、私は渾身の拳を引き絞る――そしてッ!!
「うおおおおおおおおあああああああああ、ぶっ飛べ化け物!! 私のインキャ生活を返しやがれぇええ――ッッ!!!」
雲を割る拳の衝撃は空の彼方にまで届き、凄まじい風圧が眼下で見上げる人々の髪を舞い上げた――!
「ぉお……ぉぉ、ぉ…………」
私たちの町に影を落としていた円盤は、触手に捕らえていた人々を手放し、
「おおおお白狼すげぇぞ!」
「化け物だ! 魔王軍四天王の『町喰い』を一撃でぶっ飛ばしやがった!」
大地に着地し、人々の歓喜の声を聞いていると、なんだか照れ臭くなった私は小鼻を掻いた。
「へ、へへ……っ」
私の快進撃に、人々は揉み合いながら笑い、肩を組み合って喜び合った。
「白狼、お前最高だぁ! シロちゃんって呼んでいいか!?」
「おうよ、今日から俺たちの家族だぜシロちゃん!」
「えっ、家族? ……へへ」
「今日の事は全部水に流して、たこ焼きパーティとでも行こうぜブラザー!」
「あっははははは」
まるで青春映画のワンシーンみたいに、私は
「んぁ、まだ生きてるみたいだど」
「は……」
「……ぇ」
「ブモォオオォオオオオオオオオオオオオオオオオ――!!!!!!」
「「「「――――――エっ!!!!!!!?」」」」
空を見上げると、さっきの一撃でカンカンに怒っているらしいタコの巨大獣が、目を真っ赤にして、体ごと町に墜落して来ている所であった……
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