第9話 無限地獄①

「[黒天]」


 スキルの発動と共に、六道の手の平の上に黒い球が発生した。

 黒い球は手の平の上で浮遊し、固定されたように静止している。

 

「我がスキルはこの虚球こっきゅうを操り、変形させることが出来る。例えばこんな風に」


 六道は虚球をぐしゃりとして、一度液体のようにしてから剣の形に変形させる。

 剣となった虚球は、球状の時と変わらず浮遊したままで、六道は決して掴もうとしない。


「宿した能力は、触れた物を。使用者である我が触れたとしてもその効果は容赦無く発揮されてしまう。その代わり全ての防御を無にしてしまう最強の貫通性能を持つ」

「へぇ、そんなに説明して、ハンデのつもりか?」

「ああ、ハンデその1だ」


 次の瞬間、六道は異次元の速度で距離を詰める。

 それは余りにも早く、ステータスがオール1の状態になっている事も関係し、亮はこの瞬間まで全く察知することが出来なかった。

 気づけば六道の剣は視界から消えていた、十中八九背中……、つまり俺の退路は右、もしくは左の左右どちらかしかないと言う事になる。

 どっちだ、どっちに行けば良いんだ!?


 六道から攻撃が放たれるその刹那の間、思考を回し続けた俺の選んだ選択肢は、右に思い切り飛ぶ事。


「貴様に攻撃を与えることなど——」


 しかしそれをまるで読んでいたかのように、六道はそっと左足を動かす。

 そして次の瞬間、それは不可避の蹴りとなり襲いかかる。


「造作もない」


 六道の蹴りは、絶望的なまでにどうしようもなかった。

 せめてステータスがオール1でなければ、抵抗出来たかもしれない。

 しかし[転換〈紫〉]によって、消え去ったステータスはもはやどうにもならない。

 どう足掻いても、必ず1ダメージは喰らう。

 ステータス吸収が行われてしまう。

 絶対に避けなければ行けないのに、しかしこれは——


「ハンデその2、ステータス付与。いやはや、なんとも気持ちの悪い感覚だな。

「くっ……」


 蹴りが頭に入り倒れ床に伏せた亮に対し、六道は嘲笑うかの様に言った。


「哀れな事だ、ここに至るまで攻撃を喰らわない様にと努力してきたのにも関わらず、こうも簡単に……なぁ?」

「……っ!!」

「がしかし、このまま終わってもつまらん。貴様にチャンスをやろう。我を下してみよ、さすれば貴様の猿芝居に付き合ってやらん事も無い」


 六道は攻撃と共に詰めた距離を一瞬にして戻り、亮が転移してきた時と全く同じ位置に移動する。


「さあ、もう一度だ。今度は殺す、全力で来い」

 

 

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