第4話 黒縄地獄
非常にまずい。
これはとても単純な話で、時間が無い。
[転換〔紫〕]は、〔蒼〕より制限時間が長くなったが、それでも10分。
先程の戦闘と移動含めて、残り3分ほどだろうか?
控えめに言って、このレベルの強敵を相手取るには短すぎる。
それに場所も悪い。
ダンジョンと違い、冒険者では無い一般市民が生活する中、攻撃力でゴリ押しする技はいずれも使用するわけにも行かない。
尚、普通に殴るのは論外だ。
そんな事をすれば、まず間違いなく相手が死ぬ。
例えスキルに関しての罪を堂導の手で紛らわしたとして、殺害の罪で処刑されてしまっては意味がない。
今求められる俺の行動は、ダンジョンのように閉鎖的な空間で拍手をぶつける事。
ならば簡単な話だ、ダンジョンに逃げればいい。
「一瞬でケリを付けさせてもらう」
「それは不可能です」
「[高速移動]」
「“伸びよ” “分裂せよ” “串刺しにせよ”」
クロエの鞭は、命令通り伸び、6本に分裂した後その6本全てが各々又6本に分裂し、それが繰り返され100を超える本数になる。
そしてそれはクロエの頭上に集まり、クロエの周りの地面へと、槍のようになって突き刺さる。
亮が攻撃を仕掛けてくると予想して放った一撃だろう。
しかしそれは当たらない。
何故なら亮は、ダンジョンの入り口に移動したからだ。
「予想通りですね」
亮の第六感が言った、後ろに跳べと。
それに従った0.1秒後、ダンジョンの入り口に無数の鞭が地面に突き刺さった。
「馬鹿正直に突っ込んで来るような人が二人の執行部を退けられる訳がありません。その為私は、ダンジョンの方が技の選択の幅が増える為逃げると言う判断をするだろうと判断し、入り口に攻撃を仕掛けました」
「退路を塞いだだけで勝負は何の進展もしていない、作戦まで語って、まるで優勢みたいな態度だな?」
「ええ、優勢ですから。勝負は、私が圧倒的にリードしています」
「っ!?」
「私の今持っている鞭、[黒縄]は相手を殺せば殺すほど進化します。いままでお見せした分裂等も全てこの進化によって得ました。執行部として犯罪者を何千も殺した事によって、[黒縄]は遂に最終進化を果たしました。その進化の果てこそが、今からお見せする[黒龍]でございます」
次の瞬間、地面が黒く光る。
それは、気づか無い内に張り巡らされた黒縄による物。
いや、これは先程の攻防があった時に仕掛けられた物だ。
優勢とは、この事を言っていたのだ。
入り口を塞いだのは退路を断つためではない、地面のこの仕掛けに気付かせないための舌戦。
やがて黒い光は消え、唐突に地面がなくなり、謎の浮遊感を味わう。
「[黒龍]は黒縄が何重にも折り重なり作り出された外部と断絶された空間。竜の体の中。この中ではスキルの発動が出来ず、無数の縄が貴方を絶え間なく襲う。さぁ、死んでください」
先程のような攻撃が無数に続く事に絶望を感じたと同時に、亮はクロエの発言に一つ引っ掛かりを覚える。
クロエの発言の中には、亮がダンジョンに逃げ込みたかった理由があった。
それは——
「おい、お前今なんて言った?」
「? ですから、スキルの発動ができず無数の縄が貴方を絶え間なく襲うと」
「その前、外部と断絶された空間の部分だ」
「それがどうかしましたか?」
「つまり、ここで思いっきりスキルを使っても言い訳だよな?」
「ですからスキルは使えないと——」
次の瞬間、龍が爆ぜる。
クロエの意識の消滅により、強制的に消えたのだろう。
「拍手は出来るだろ?」
[転換〔紫〕]の制限時間も残りわずかになり、亮は倒れたクロエをそのままにして逃げ去った。
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