第7話 捜索任務④
ドアの向こうに広がっていたのは、暗黒に包まれた目の通じない空間であった。
静寂が支配するその空間において、亮は立ち尽くす。
目を閉じて、耳に全神経を集中させる。
「…………、っ!」
いつでも返せるように構えたその次の瞬間、首にチクリと痛みが走る。
激しい激痛が暴れ、体全体に進行しようとするがそれは途端にに消滅する。
それと共に物理的に癒されたような感覚がした。
間違いない、今刺されたのは毒だ。
もしやと思い鑑定をすると、そこにはスキルが追加されていた。
「今のは[毒針]か、毒無効がなければ今ので即死だったかもしれない……」
注意してたにも関わらず、気配すら感じさせない致命的な一撃を素早く行う。その攻撃は、たった一撃であれどA級ダンジョンの恐ろしさを再認識させるには十分だった。
「[暗視]に[高速移動]、全くモンスターってのはなんで何個も固有スキル持ってんだろうな、俺が言えた話じゃねぇけど」
「[思考加速]」
先程察知できなかった毒針、しかし今回は、驚く程良く分かった。
「ステータス提供ありがとよ、[暗視][高速移動][毒針]」
空気抵抗など皆無であろうまさに瞬速の針を、亮はいとも簡単に避ける。
どころか、ボスに対して毒針を返してみせた。
「っ!?」
「毒針に高速移動、まさかとは思ったけどまんま蜂かよ」
亮は暗視によりしっかりと見えるようになったその目で、ボスをしっかりと捉えていた。
ボスはスズメバチをそのまま大きくした様な姿をしていた。
ボスに対して、亮は狙いを定める。
「[毒針]」
それは発生するだけで、まだ発射されない。
来ると読んで予想攻撃地点から右にずれた蜂は、まさかの行動に動きがブレる。
「俺の勝手な予想なんだが、こいつら、組み合わせられると思うんだ。[毒霧]」
現れた紫色の霧は蜂には向かわず、ただ一点に集中して集まる。
それは毒針。
極限まで濃縮された毒は禍々しいほどの色となっており、それが包み込んだ針の色、そして凶悪さは語るまでも無い。
瞬間、自分の中から何かが湧き上がる様な感覚がした。
『スキルの構築に成功しました。[毒霧]と[毒針]を融合し[暗黒弾]を生成しました』
[暗黒弾]
黒色に染まるほどに毒を極限まで濃縮したひし形の塊を放つ。
ー毒は自身の攻撃力80%のダメージを1秒毎に与え続ける
ー効果は30秒間
「やっぱりな、[暗黒弾]ッ!!」
スズメバチはそれを避けない。
そうしてそれはスズメバチに直撃し、その激痛が一切の行動を封じた。
1秒……3秒…………10秒。
「レベルアップした感覚……もう、終わりなのか?」
A級ダンジョンなのに簡単すぎる。
何故だ。こんなにも簡単なはずが無い。
そう思っていた矢先、後ろかな嫌な予感がした。
だから右によけた、しかしそれでも嫌な予感は拭えない。
どころか、どこへ移動しても嫌な予感がするのだ。
「……まさか」
嫌な予感は恐らく当たっているだろう。
その事を覚悟し、その上で後ろを振り返る。
そこには——
「おいおい、これ100は居るだろ……」
夥しい数のスズメバチがこちらを向いていた。
これまた嫌な予感がした為前を向くと、そちらの方にもスズメバチが居た。
同じく100はいる事だろう。
上からも来ていることは言うまでも無い。
「これがA級……うそだろ!?」
500を超えるスズメバチは一斉に針を飛ばす。
ここまで来ると、避けるよけないの問題では無くなる。
死ぬか、死なないか。
通常なら。
「数の暴力って言ったところか……最悪だな」
次の瞬間、針は一斉に亮に刺さる。
激痛が体全体から走り、意識が一瞬で吹っ飛びそうになるそれは、確かに亮に与えられた。
地面に立ち尽くす亮を見て、勝機と見たスズメバチは己の針を構え一斉に距離を詰める。
しかしそれはスズメバチにとってこの判断は——
「最悪の判断だ、まあ、こっちのスキルが分かってなきゃ最善だけどな」
いよいよスズメバチとの距離が0に限りなく近づいた所で、亮はそのスキルを発動した。
「[臥龍点睛]」
その一撃は、数百を超えるスズメバチの毒による激痛をまとめた超高火力の一撃。
範囲は当然広かった。
「「————————ッ!?!?」」
スズメバチ達は何が起こったのか理解できなかった。
わかるのは、刹那の間に自分は形すら残らず死ぬという事。
そしてその刹那の間は、残酷なまでにあっさりと過ぎてしまう物だと言う事。
僅か1秒、その間に残っているスズメバチは僅か1匹となった。
その1匹はこれまでのスズメバチとは大きさも、オーラも、全てが違かった。
さしづめ、女王蜂のようなものだろう。
「[暗黒弾]」
A級ダンジョンボスソロ攻略は、たった今スタートラインに立った。
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