第19話 無力てはない


 「っておいおいおいおい...この村は、奴隷がいるのかよ。それも、人間の奴隷ではない。亜人、獣人...。はぁぁ。やってくれるニンゲン。なぜ、排他的になるのか。理解に苦しむ。」


 奴隷の扱いは、言葉にするのが烏滸がましい。ただただ酷い。死んでも良い扱い。

 その扱いを受けていたフレアさんやカーラちゃんたちを見ると、目に増悪を宿し、握りしめた手から血が流れ落ちる。


 「今すぐ、この村を潰したいわ...」


 「気持ちは分かる、分かるが堪えろ。俺が命令するまで敵に剣を向けるなよ。」


 「分かっているであります。ありますが...」


 「それに、俺は彼らを救わない。エタンセルまで辿り着いたのであれば一考するが。俺でも、助けられる数が限られる。悪いが、それを理解してくれ。」


 「くっ...。歯がゆい。力を得ても無力を感じる。」


 「無力?無力ではないさ。時間はかかるが、気づく者が現れる。頭がよく、状況を見極めている者が必ずいる。我らの反逆を利用する。もしくは便乗する。」


 頭に血が上り、深く考えることをやめてはいけない。

 頭は冷静に、心は熱く燃やせ。

 俺は、常々考えていた。なぜ、奴隷の反乱が起きないのか。いくら心を壊されていても、憎しみは消えない。では、どうして声を上げ立ち向かわないのか。

 キッカケがない。覚悟がない。そう言うのは簡単だ。誰だって怖い。死ぬのは怖い。


 「くふふふっ。戦力が足りないなら、現地で調達。これなら...」


 「?どうしたの?」


 俺の呟きに、耳が良いハーフエルフのフレアさんが反応する。


 「ごめん。色々と仕込みがいがあってね...」


 検問前に話していたおじさんの言葉、発展してきたというのは本当みたいだ。村に活気があり、食べ物や小物の商売をしている出店が多く並んでる。しっかり経済が回っているんだろう。


 出店を見つつ、宿探しを始める。

 お金は、そこそこある。出店でなんの肉か分からない串焼きを購入する際、少し店主と話した。村に宿があるなんて少し驚いたが、交易が盛んになってからは、宿を建て、経営する者が多くなったそうだ。


 「カーラちゃん、串焼き美味しい?」


 無表情で串焼きを食べているカーラちゃんの味の感想を聞く。


 「クッソ、不味いであります...。味付けと焼き具合が悪いでありますね。」


 「そ、そう...。異世界料理に期待していたんだが、はぁ。やはり、日本の食事は、世界一だね。」


 俺が持っていた串焼きを物乞いしている浮浪者に渡し、5人で1部屋1泊素泊り銀貨10枚の宿に入る。5人、横になるだけで部屋が埋まる広さ。狭い、狭すぎる...。


 「フレアさん、風の魔法で防音をお願い。」


 魔法。ハーフエルフは、魔力を体内に宿しており魔法を使うことが出来る。獣人にも魔力が体内に宿っている。体内で巡らせ身体強化を行うことが出来る。

 無詠唱で魔法を展開し、防音を施すフレアさん。本来、無詠唱で魔法の行使は、魔力を多く消費するらしい。俺には、魔力が宿っていないから分からない。キメラの戦闘では、隙を見せると死ぬ。文字通り身体を引き裂かれ、即死。

 その為、生き残るために、魔力を効率的に放出できるよう試行錯誤し、無詠唱での魔法行使が出来るように全員なる。


 「フレアさん、ありがとう。さて、この村を地獄に変えるわけだが...1つやりたいことがある。それは、奴隷の解放と暴動。確か、主人がいなくなれば、奴隷の首輪の効力がなくなるんだよな?」


 「そうであります。串焼きの店主の話しが本当であれば、この村の長を殺せば首輪の効力が消えるであります!」


 この村では、村長を主人として、奴隷を現場に流し、肉体労働をさせているらしい。


 「解放に、暴動...。奴隷をそそのかすの?」


 「だめ?」


 フレアさんの目から離さず、問い返す。数分間の沈黙ののち、口角を上げ笑みを浮かべるフレアさん。


 「最高よ。私、いえ...私たちは、仲間の幸せだけを望んでいる。それでも、過去の私たちと同じ境遇にあっている奴隷を見ないふりは出来ない。解放させることが出来るのなら、少し心が軽くなるわ。ふふっ。ありがとう、ナイン様。」


 フレアさんと同じ気持ちなのか、大きく頷くカーラちゃんたち。

 俺は、奴隷たちを捨て駒にするつもりだ。まぁ、そんなこと、フレアさんたちも理解していると思う。

 情報収集に、ゲートの設置など、やることは多い。今後の国を落とす練習台になってもらおう。

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