モンスターライフ——冒険者が私を狩ろうとしてくるので最強無双して抵抗します——

ぽえーひろーん_(_っ・ω・)っヌーン

生まれ落ちた怪物


初めに感じたのは異様な寒さだった


誰もいない氷の雪原にて

薄い毛布を頭から被っているような

心細く、縋る物のない絶望的な状況


私は何も分からず震えるしかない


「——」


ある時、音が聞こえた


それはまるで暗闇に差すひとすじの光

何かを伝えようとしているかのようで

私の知らないが含まれているようで


聞かなければいけない気がした。


私は気になって耳を傾けた、そのおかげで

まとわりつくような闇から少しだけ気が逸れた


「——!」


先程より鮮明になった音色は

どこか焦っているような、それでいて

怯えているような印象を受けるモノだった。


何を発しているのだろう

いったいどんな意味を含んでいるのだろう

私は気になって、もっと知りたいと思った


——色づく世界


比喩表現などでは決してなく

それまで私の世界は、文字通りの闇だった

暗い釜の底のような、救いのない無の温床


何も無く、何も感じず

誰からも認識されない狭間の領域


だが、


全身を引き裂くような孤独感を忘れ

外界に意識を向けた途端に、それが変わった

内から外に境界線が引かれて現実が拡張する。


自分の中の何かが

急速に膨らんでいくのを感じた


私は理解した

私はここに生まれ落ちたのだと


言い表しようのない気持ちが心を満たす

新しく生まれた自我の存在を噛み締める

私はもう、ただの暗闇ではなくなったのだと。


「——なんなんだいったい!?」


頭上から怒声が響く、ふと見あげようとして

私は自分が横たわっていることに気が付いた


うつ伏せになって倒れている


そういえば、おでこの辺りがジンジンするな

強めに打ち付けでもしたのだろうか?


床に手を着いて体を起こす


白い自分の腕が目に入った

足も、胴体も、視界に映るのは私の体だった。


……それにしても


先程から腕やら耳やらと

それら部位の名称や意味についてが

誰に教わらずとも分かるのは、何故だろう?


経験によって得られた知識でない事は分かる

私はついさっきまで無だったんだ

だから、何かを知っているのはおかしい事だ


自分の体だというのに

身に覚えのないモノが埋め込まれている

その事実に底知れぬ気持ち悪さを覚える。


「——じ、陣形を整えろ!」


またなにか聞こえた


音……音……声、言葉か


じんけい、とは一体何のことだろう?

なぜそんなに緊迫しているのだろう?


分からない


全てを与えられた訳では無いのか

誰が選んでいるにせよ、不便なものだ


腕の力で上体を起こす、膝を着いて立ち上がる

そして両目を開けて世界との対面を果たす。


そこで私を待ち構えていたのは

濁流のように流れ込む情報の数々であった。


「……」


剣や盾、杖などの武器を持った人間達

身に纏っている物も様々でバラツキがある

何か特別な理由があるのだろうか?


4人居ることを確認できる

他に気になるものはないだろうか?


辺りを見渡す


ドーム状の空間、パチパチという炎の音

高くは無い天井、踏み心地の良くない床


薄暗い、息苦しい、不快

しかし、何故だか安心感を与えてくれる

矛盾する感想を抱いたことに困惑していると


「……新手のモンスターなのか?」


聞こえてきたモンスターという単語


それに対し私は


と、感じた。


「——っ!」


突然、


遠巻きに私のことを眺めていた人間達が

一斉に距離を取った、まるでそうしなければ

自分の命が危ういとでも言うかのように


ザリッ……彼らは肩幅程に両足を開いた

膝を曲げて腰を落とし、明確なる敵意を放つ。


私は、遅ればせながら理解した

目の前に居る彼らは敵なのだと


世界に色をくれた恩人などではなかった

彼らは、私からそれを奪う者達だ

せっかく晴れた暗闇を元通りにする気だ


させてたまるか……!


「リーダー、やるんだな」


「あぁ……コイツは始末しないとダメだ

逃げる訳にはいかない、生かしちゃおけない」


「生まれたての所悪いとは思わないわね」


「さ、サポートしますっ!」


戦闘態勢に入った


——来る!


そう思って身構えた、次の瞬間

私の視界は真っ白に焼け付き何も見えなくなった!


「……!」


私は咄嗟に、後ろへ下がった


ヒュンッ!何かが鼻先を掠めていった

視力が回復する、男が剣を振り抜いた姿勢でいた


その状態を隙であると捉え

素早く踏み込んで殴り掛かろうとする


が、両足を何かに引っ張られる感覚があり

私の目論見は完璧にくじかれた


男は体勢を整え、そのまま

剣柄を私の顔面へと叩き込んだ


目から火花が飛び散る、平衡感覚が損なわれる

頭の中がグチャグチャになって足元が狂う

仰け反りながら両脚の拘束が外れるのを感じた。


私は足を振り上げて

男の持っている剣を蹴り飛ばそうとする


チャキ……男は剣を持ち変え

素早く私の足に振り下ろした


膝から下がザックリと切り落とされる

怯まず前に詰めて、体当たりを見舞う


「ぐ……っ!」


体当たりは

鈍重な音ともに盾によって防がれたが

勢いを殺し切ることが出来ずにノックバック


追い打ちをかけようとした

だがその瞬間、背後に気配を感じた

しゅるしゅるとお腹に腕が回される


気が付いた時には私は持ち上げられ

頭から、地面に向かって叩き付けられていた


——ゴシャァ!


今度は火花では済まなかった


一瞬だけ意識が飛んだ、何も分からなくなる

しかし、不思議なことに身体は動いていた!


床に叩き付けられると同時に

両手を地面に着け、クルッと回って受け身

未だ立ち上がる途中の少女に向き直る


頭がスッキリとしてきた


捨て身で放たれた投げ技は

それ故に後隙を晒していた


腰くらいの低い位置にある頭を

真横から蹴り抜こうとした、無いはずの足で!

私の脚は何故だか元通りの状態で付いていた!


「……再生能力!?」


誰かが叫んだ


理由は分からないが有難い

私はそのまま顔面に蹴りを叩き込んだ


ガッ!肉を打つ嫌な音と共に

燃えるような赤い鮮血が飛び散った!


——私の脚から


少女は私の蹴りに対し、4つ指を揃え

まるで槍か剣のように突き込んだのだ


結果、蹴りは止められた上

脚に大穴が開けられてしまった


彼女はそのまま私を引き込んで

お返しと言わんばかりのハイキック


バヂィンッ!体がひっくり返る

壁に激突してバウンド、受身を取り——


ドンッ!私の体は突然

物凄い力で地面に押し付けられた!

誰からも触れられていない、不可視の力


そうか!


最初のハジける閃光、繋ぎ止める拘束

そして今の押しつぶす圧力


度重なる妨害工作、その犯人が分かったッ!

後ろの方で杖を構えているあの女に違いない

アイツをどうにかしないとマズイぞ!


「——オラァ!」


男が飛び込んでくる

肩に載せた剣を振り下ろす


私は全身に乗っかる強烈な重みに抗って

ゴロゴロと転がり奴の剣を避ける


突然、押し潰すような重みが消えた

範囲外に出たのか?それとも効力切れか


とにかく、体の自由を取り戻した

すぐに体勢を建て直して——


起き上がろうとしたところを

別の人間に突き飛ばされた!


飛ばされた先に敵が待ち構えていた

剣を直線に構え、突き出してくる


無理やり体を捻って振り返り、剣の腹を蹴る

ガギィンッ!という音がして刃が砕け散った


男は驚いた顔をしながら後ろに退いた

私は着地すると同時に跳躍、奴を追いかけた。


男は腰に差していたナイフを抜き

私に向かって投げ打った


迫り来るナイフを空中で掴む

持ち替えて投げ返そうとして——


「起爆!」


ドォォォォン!爆炎!衝撃大熱風

灼熱の業火がこの身を焼き尽くす

続いて降りかった圧力が、骨や肉を粉砕した


「……今だ!」


男が、仲間に向かって叫ぶ


爆発に見舞われた私はぶっ飛ばされる

その向かった先に敵がふたり待ち構えていた

彼らはすれ違いざまに切り結んでいく


分かるんだ、これをまともに貰えば私は死ぬ


出し惜しみはするんじゃない

全部掻き集めろ、ありったけを振り絞れッ!

全身全霊、私の持てる全てを費やして動いた


——回転


ズタボロの身体を無理やり動かし

姿勢を変え、後ろに向かって両足を突き出し


「……なにっ!?」


トドメを刺しに来た人間を足場に使って

筋肉収縮、解放爆発、疾風の如き跳躍!


「ぐっ……!」


「がふ……っ」


胴体に抉りこんだ両足から

途方も無い推進力をもって放たれた私は


凄まじい速度で

私の体に酷いことをした男の元に迫った。


「早——」


そのまま地面に手を付き

更なる加速を行い、飛び込んで攻撃する


しかし、


「させない!」


私の攻撃は、杖の少女の必死な叫び声と共に

目には見えないによって阻まれていた


起死回生を狙った必殺の一撃は

見るも無惨な結果に終わり


「やった、間に合った……」


——水面下


「……!」


意識の隙間に通した、細く小さな糸


「ちがうッ!リティア避けろッ!!!」


これまでの傾向から推察して

必ずこのタイミングで妨害してくると読み

事前に仕込んでおいた不可視の一投


「……え?」


——パァンッ


リティアと呼ばれた杖の少女の頭部は

私が投げたによって破裂した


「リティアッ!!」


さっき地面に手を着いた時

加速と同時にこっそり拾っておいたのだ


「そ、そんな……いやぁっ!」


彼女は恐らく、仲間を守りすぎたんだろう


咄嗟のことで、反射的に過剰な防御を

彼に対して施してしまったに違いない

だから自分の身を守るのが遅れたんだ


肉体が再生する

杖の少女によって貼られていた結界は

術者が死亡したことにより、消滅した


「——貴様」


低く、小さく、冷徹な怒気を孕んだ声


鳥籠の中で守られていた男が

血が滲むほど強く剣を握り締めたまま

私に向かって真っ直ぐ突っ込んできた


見えてはいた、しかし

踏み込みがあまりにも鋭すぎた


反応が間に合わない

辛うじて防御姿勢を取るものの

大した意味は無く、両腕を失った


後ろから気配がした

次の瞬間、胸から剣が飛び出していた


タイミングを合わされた!

目の前の男が返す刀を振るおうとする

ももをあげて突き刺すような前蹴りを飛ばす。


ドンッ!男は大きく後退した

腹部に大穴が空いている


胸から飛び出た剣に力が込められる

左胸の辺りから肩に掛けて縦に切り裂かれる

傷から血が吹き出し、左腕が機能不全に陥る


素早く振り返って反撃

使えない腕の方に回り込まれる

追い切れないと判断しバックステップ


離れ際に右足を切り飛ばされる、肩が再生!

次の瞬間、私は後ろから羽交い締めにされた


さっき蹴り飛ばした奴だ、腹に穴が空いても

微塵も衰えを見せない戦意闘志、そして執念


私はすぐに男を振り払ったが

短時間とはいえ拘束は機能した


「……お前は許さないっ!」


両手にガントレットを装備した

女の戦士が飛び込んできたかと思うと

目にも止まらぬ早さで3発、打ち込んできた。


ゴッ!!


「がは……っ!」


あまりの衝撃、あまりの痛さに声が漏れる

体がくの字に折れ曲がる、しかし

逆にその勢いを利用し頭突きをぶちかます


がんっ


という鈍い音がして

女は頭から血を吹き出してよろめく


追撃を行うとして


横から髪の毛を捕まれ、引っ張られ

首に冷たい物が差し込まれる感覚を味わう


剣の持ち手を掴み、侵入を阻止する

そのまま万力を以て腕の骨を砕いた


筋肉や骨、神経をめちゃくちゃにされては

もはや剣を握ることなど出来はしない

私は首に刺さっている奴の獲物を引き抜き


そして力任せにぶん回すッ!

全方位に対しての広域攻撃


サク


「ぎゃああああーーっ!!!」


悲痛な叫び声が後ろから響く

どうやら両目を切り裂かれたらしい


後ろに立ってたせいで背中に遮られ

私の行動がよく見えなかったんだ!


——好機ッ!


目の前のふたりは

攻撃を避けるため距離を取っている


私は振り返り、手を伸ばし

視力を失って怯んでいる男を捕まえ

背中に回って盾とし、彼らに向ける


「フィア……!」


「な、なんだ……っ!?やめろ……

どうなってるんだ、クソッ!離せ!」


「私の仲間に触れるなモンスター!」


右手に持った剣を背中から突き刺す


「うぐ……っ」


早急に治療しなければ助からない傷を負わせる

味方ごと巻き込んで攻撃するか?

左右のどちらかに回り込んでから仕掛けるか?


どっちにしろ彼らは仲間意識が高い

見捨てるような真似は出来ないだろうと見た!


この状況は私にとって

限りなく有利に働——


「たの、む……」


「……すまない」


短い会話が、彼らの間で交わされた直後

視界を埋め尽くす眩い閃光が迸った。


「う……っ」


目を開けてられない、認識が阻害される

音と光の二段攻撃により五感が麻痺する


再び視力が機能を始めた時には既に

彼らはここから姿を消していた

仲間と仲間の死体を置き去りにして。


当然、私はすぐ追いかけようとした


——だが!


「行かせて、なる……ものかァッ!」


致命傷を受けているにも関わらず

最後に残されたフィアという名の男が

他の仲間を生かす為にしがみついてきた!


ギリギリギリッ!!

締め付けられる、骨が肉が砕かれるッ!!


抜け出せない!どれだけ殴ろうとも

何度蹴ろうとも、壁に打ち付けようとも

腹に刺さった剣を捻り傷口を広げても!


「城壁のフィアを……なめるな……ッ!」


離さない、振り解けない

何をしても力が緩まることがない

この男の心を折ることが出来ない


やがて


彼が最後の力を使い果たし

ゴミのように地面に崩れ落ちた時


もう既に

後を追うのは不可能になっていた


なぜなら


「……傷、が……再生、しな、い」


私はもう、その場から動くことが

1歩たりとも出来ない状態だったからだ。


「まずいことに、なる……」


そんな覚えたての言葉は

誰もいない薄暗い空間に消えていった。

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