お金が好きで仕方がない地球連合女性准将が借金を背負ったので自分を救うために職権乱用の限りを尽くすスペースオペラ

むーんしゃいん

さらば地球よ。35億の旅立ち

第1話 さらば、地球よ。35億の旅立ち

「人々はお金では貴いものは買えないと言う。

   そういう決まり文句こそ、貧乏をしたことがない何よりの証明だ。」 


                    ジョージ・ギッシング(作家)


《地球上空4千kmHEO付近。巨大軍事衛星エリア・リスALPHA》


---LIVE 第1機動艦隊観艦式【Earth Salf Defance Force】---

 派手なテロップ。左側を支配するL字画面に株価速報値。


『はーい。全宇宙の皆様、こんにちはーっ』


 雄叫びにも似たハツラツな声を上げた広報担当官が、全宇宙ネットでの放送開始を告げる。


 『『おはよう』から『おやすみ』まで。アナタを見守るEDF-NET防諜管理局の提供でお送りしまーすっ!』

 テンション高めの広報官と、お偉い方々のありがたき演説という。コミカルでシリアスなごちゃ混ぜ闇鍋みたいな放送が始まった。


 ディスプレイのL字画面では、開会式の放送なのに株価速報値のテロップが流れ。この界隈へ対する放送局側の気遣いが感じられ、この闇鍋は金の香りしかしない。


『さて、第一機動艦隊司令部の様子をお見せしましょう!』


 地球軌道コロニー観艦式典の放送が始まり。第一地球艦隊の多数の艦影ハイバックから。「私達共。皆、清いですよ」アピールの白一色の壇上のエリート軍服集団が映し出された。


『国連世界憲章が制定されて1000年の節目に…』


「国連世界憲章が制定されて1000年の節目に…」

 第一種軍服の白美で着飾ったシャロン准将は、スピーチ壇上の第一貴賓席2列目に鎮座し、当事者として参加していた。 


 白すぎて照明が逆反射してる。JKのプリクラだって、もう少し大人しいでしょ。

もう、ちょっとステージング出来たんじゃないの。シャロン准将は、隠し見ているディスプレイの放送画面を閉じて株価チャートに手早く切り替える。


『…広報局のわたくし、報道官シャリーが第一艦隊観艦式の様子をお送りしておりまーす』

 エンジン不良の急降下爆撃機のような乱高下を繰り返す株価相場の光線の行く末は、この式典の出来にかかっている。


 シャロン准将はじっとりとした嫌な手汗を、隣にいる軍服の裾でこっそり拭った。


『…のように、新型巡洋艦の紹介もぜひ、ご期待下さい!』

 素晴らしい未公開情報を全宇宙に公表する絶好の晴れ舞台として仕組まれたに観艦式典だ。新型巡洋艦が全宇宙ネットで紹介されれば、この艦で採用されている革新的な気密ドアを制作している企業の株価がバク上がりする。


 実に素晴らしい。やはり、幸せを感じるには金融資産に限るよ。私は、晴れて大金持ちだ。こんな、ブラック軍隊なんてやめてやる…!

シャロン准将は、不気味な笑みを浮かべ将来の安定収支プランを夢見た。


 軍国主義バンザイのこの地球においても汚職や腐敗はたしかに広がっていた。


 それに輪にかけてシャロン准将は、今や 内部者Insider取引Trading生配信LIVE時代の幕開けぞ。と言わんばかりに、この醜態しゅうたい を刻々と全宇宙ネットで放送し続けている。


 壇上では、式典ではスピーチが始まり首相に始まり政治家、高官たちが代わる代わる演説していった。


『…はーい。とても、素敵な話でしたねー。最後は地球防衛宇宙軍EDSF第一方面軍総監ヤマモ大将の演説でーす。ぱちぱちー』


 シャロン准将は、この株式取引にすでに35億もの借金を注ぎ込んでいる。

 この暴走機関車に乗り込んだシャロン准将は、嫌な時間が続き思わず生唾を飲み込む。もうあとには引けない。


『…旧道徳は危険を回避することを命じた。だが新道徳は危険を冒さないモノに何も与えない!』


 この時間配分だと新型艦の放送はされない可能性が出てきた、界隈関係者が売り注文に走り始める。砂上の城が瓦解しつつあった。


 シャロン准将これを好機と焼け石にハイオクのごとく。愚か共め!ここで勝負に出れないと二度と浮かべぬわ!と買いボタンを押しまくる。


 金持ちのタワゴト、格言で通る。って知ってるか。早く終わらせろ。じゃないと危険にさらされているのはお前だ。シャロン准将の手が、フラストレーションから、かすかに震えは始めていた。


『ああ…、今も思い出す地球の美しき日々。この世界を守るのは我々の責務…』


 大丈夫よシャロン。貴方じぶんは強い子なの。ストレスは3時間経過すれば無くなるわ。ただし、3時間後には、お金も無くなっている可能性もあるけどね。


 ヤマモ大将の長いスピーチが終わりを告げ、軍用携帯情報端末PDAの株価下落が持ち直し。その光る線が不死鳥のごとく、遥か空へと頭をもたげる。


『あー、時間になっちゃいましたー。えーん、えーん。じゃあまたの…』


 会社の株価は地に堕ち。35億ドルがシャロンの飛び去った。



 シャロンは激怒した。


 かの粗略不精の将官を排除せねばならぬと決意した。


 シャロン准将は持っていたPDAを、ヤマモ大将に向けて振り投げる。

 ヤマモ大将は大満足の笑みを浮かべ席に戻ろうとすると同時に、顔面に頑強な軍用 携帯情報端末がのめり込む。

 ヤマモ大将は大の字になって床へとノックアウトされた。


 大きく肩を揺らし息を切らして、シャロン准将は激怒した。壇上のマイクにも届くような怒鳴り声を上げる。


「…口先だけの出来損ないがぁ…ッ!」『…口先だけの出来損ないがぁ…ッ!』


 EDF-NETの画面と壇上のシャロン准将の声がシンクロし、式典全体どころか宇宙全体に配信されていった...。

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