藤の声

ふわりたずねた小春の日

おもてを上げれば降る薫り

微かな紫 花時雨はなしぐれ


踊らず なびかず 振り向かず

ただ静粛に胸を張る

ここに居たのか 藤の花


おまえに声があったなら

それは彼女の声だろう

小春と一緒に咲いた朝

くすぐるようなつむじ風

嗚呼ああ 笑ったんだなと私も笑う


薫りがふわりと囁いた

覚えず吹いた口笛と

どこかで聴いた旋律と

刹那の陰に立つ人と


歌にするなら何がいる

ピアノかチェロか この喉か

それでもきっと足りはしない

私はきっとえがけまい


今日もどこかで本を読み

どこかを歩いているのだろう

どこかで咲いた花を見て

どこかで不意に笑うだろう


そうして陽は落ち夜が来て

どこかのあなたが語り出す

さみしい夜の海の底

あなたの声が波になる


確かな吐息の律動りつどう

あなたが伝えた物語

どこかの私が聴いた音

語り笑えよ 藤の声

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