かつて最愛だったあなたへ

お元気ですか

病気はしていませんか

食事は取れていますか

眠れていますか

孤独になってやいませんか


あなたはとうに忘れたでしょう

私は覚えています


笑ったあなたのくしゃくしゃになった顔も

照れると斜め下へ目をらすことも

風が窓をきしませる音を怖がっていたことも

私が傷付けて流れた涙も


人は私を笑うでしょう

私を馬鹿だと言うでしょう

軽蔑だってするでしょう

哀れな人だと思うでしょう

情けないと言うでしょう


それでも構わないと思うのです

それでも良いと思うのです


そうして笑われたとしても

それは私にのみ価値のある宝石で

私のためのいましめなのです


あなたが教えてくれたことは

この手にあふれるほどあります


どれだって大切だけれど

とっておきがひとつある


それは

愛されることは幸せだけれど

愛することはもっと幸せなのだということ


青臭いでしょうか

格好つけすぎでしょうか

私はいつだって言葉が多い

嘘くさいと笑われる人生です


でも仕方がありません

だって本当だから


しかしながら

私はとっくに赤の他人

縁などとっくに切れている


どれだけ言葉を尽くしても

伽藍がらんのように空しくて

情けない一人の男の

呟きにしかなりません


それならそれもいいでしょう

情けなくってもいいでしょう


それでも祈って良いでしょうか

祈ることは許されるでしょうか


どうか、健やかに

どうか、憂いなく

どうか、穏やかに

どうか、お幸せに


かつて最愛だったあなたへ

すでに彼方かなたの私より

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