第62話 まどかの剣
「おい! 全然良いアイテムねェじゃねェか!」
アイテムショップに戻ると、お怒りの髭モジャ店長が待っていた。
「はは……ま、まあ俺たちが使わないアイテムを持ってきたんですから……」
「ったく、もっとマシなアイテム持って来いよ! 唯一良かったのはこの『脱出の羽』くらいだな」
『脱出の羽』は以前、ダンジョンガチャでたまたま手に入れたアイテムだ。
「お? それ買い取り高いんですか?」
「まあこの中ではな。ダンジョンで事故が起こった時なんかに1回だけ緊急脱出できる便利なアイテムで人気なんだよ。こう、ピューンと脱出できんだ」
店長は脱出の羽をヒラヒラと振る。
「うーん……そう言われると……、すみません、『脱出の羽』は売るのやめておきます!」
「はぁ!? しまった、余計なこと言っちまった……」
良いアイテムとアピールしすぎたと頭を押さえる店長だった。
(……ほんとに心配になるくらいいい人なんだよなぁ……)
そんな店長を見て、アキラたちは思った。
「じゃあ、今日の買い取りは……こんなもんだな」
店長はアキラと花子に明細の紙を見せる。
「ええ!? こんな安いの?」
明細を見て愕然とするアキラ。
「当たり前だ! ウチは廃品回収じゃねぇぞ!」
「まあ……持ってても使わないですしね……持って帰るのも大変ですし」
「文句言うんじゃねェよ! 客もめったに来ねぇのに高値で買い取れるか! こっちだってギリギリの生活なんだよ!」
「仕方ないか……」
そんなアキラ達のやり取りには目もくれず、まどかは黙々とアイテムを見ていた。
強い武器が欲しいが予算は少ない。まどかは買える範囲でいい武器を探す。
あと少し出せばもう少し良いアイテムを買えるがお金が足りない、そんな葛藤でいっぱいだった。
「うん……コレ……かしらね?」
まどかは一本の剣を手に取る。コレがいい、ではなくコレが買える限界、ということだ。
「店長さん、この剣を頂きますわ」
まどかは店長の元に剣を持っていく。
「はいよ、ん? ……これでいいのか?」
店長はまどかの顔をのぞきこむ。
「……え、ええ。これでも今の武器よりは良いはずですし……」
歯切れの悪いまどか。
「んー……まあ買ってくれんのはありがてェけど……これを買ってもレベルが上がるとすぐ通用しなくなるんじゃねェかな?
もう少し予算を用意すればレア度★★★☆☆の安い剣を買えるぞ? 今日はやめておいた方がいいと思うが」
「……うう、でも……」
「いや! 学生で金がねェのは分かってるが……」
まどかはもちろん、この店長が親切心で言ってくれているのは分かっている。しかし、少しでも早く強くなりたいと焦っていた。
そんな様子を隣で見ているアキラと花子、2人とも足りない分のお金を出してあげようか、とも考えていた。
しかし、年下とはいえ配信者としてはライバルのまどかに手助けはしていいものか? 余計に彼女のプライドを傷つけてしまうのではないか? 迷っていた2人だった。
店内に気まずい時間が流れる。
「はぁー……分かったよ!」
店長が突然大声を上げる。
「こいつらの持ってきたアイテムの買い取り分で、レア度★★★☆☆の剣を値引きしてやるよ!」
「え? ど、どういうことですの……!?」
「つまり、こいつら……アキラたちが持ってきたアイテムの査定は0円にする!
その分、レア度★★★☆☆の剣の値段を嬢ちゃんが買える値段に値引きしてやるってことだよ」
店長がそう提案する。アキラたちの査定額は決して高くない。これは店長のただの優しさなのだろう。
「で、でもこのアイテムはお2人のですし……」
当然、遠慮するまどかだったが、
「あー、いいわね! アキラさんが良ければですけど」
「俺はもちろんオッケーだよ!」
アキラと花子は店長の提案を快諾する。恩着せがましくないやり方でまどかを助けられて良かった、と思う2人だった。
「そんな……いいんですかね……」
ありがたいことだがまどかは戸惑い大人たちをキョロキョロと見る。
「いーんだよッ! ガキは甘えておけ!」
店長はまどかの頭をポンと叩く。
「……あ、ありがとうございます」
まどかは大人たちに頭を下げる。
「いいんだよ。どうせ安かったし……」
「持って帰るのも大変ですしね……気にしないで! いつか返してちょうだい!」
こうしてまどかは念願のレア度★★★☆☆のアイテムを手に入れた。
一日中、大人たちに助けられる日になったまどかだった。
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