丹後・此岸回廊の人違い
第1話
「もし、そこのおふたり、私は旅の娘でございます。どうか宮津まで乗せて行ってくだされ」
男たちはこちらを見て、鼻の下を伸ばして近づいてくる。
「おや、誰もおらんな」
「えらいべっぴんさんがおったと思ったが」
ウチは彼らの目を盗んで舟底へもぐりこみ、この日いちばんの収穫であろう大鯛を頂戴することにした。
「やっぱり、こやつのしわざか!」
漁師が舟底にやってくる。彼らの目に映ったのは、美しき白狐。つまりウチのことや。食後はゆっくりしたかったのだけれど、そうはいかないみたい。
「
人間たちのあいだで、ウチはそう呼ばれとるらしい。ほな、お望み通り橋立小女郎の姿をお目にかけますか。
「漁師さん、もう二度と盗み食いはしませんから、どうかお許しください」
人間の姿に化け、ウチは哀れっぽい声を出す。我ながら名演技。
「むむ、化け狐には騙されんぞ!」
男たちは二人がかりでウチを捕らえ、縄で縛った。たかが魚一匹でケチやなぁ。
「縄が体に食い込んで痛いわぁ、この縄緩めてくれはらへん?」
今度は色っぽく言ってみる。男というのは単純なもので、正体が狐だとわかっていても、なんだかイケナイことをしている気分になったらしい。縄をゆるめて、かわりに漁籠のなかにウチを閉じ込めた。なかなかしぶといなぁ。
「さて、港へ向かおうか」
「おうよ……ん? 舟が動かんぞ」
「さては、橋立小女郎のしわざだな」
「なにを、今に見ておれ」
陸に上がった男たちは、落ち葉や枯れ枝を集めて火を燃やした。然る後、ウチの入った漁籠を焚火に放り込んだ。なんてひどいことをしはるんやろ。ウチはか弱い腕を籠から出して悲痛な声を出してみる。どうもこの漁師たちは鈍感らしく、同情心に訴えることはできへんようや。
「あの橋立小女郎を仕留めたとなると、俺たちゃ英雄だぞ」
「そうやなぁ」
漁師たちは意気揚々と村へ帰り、村人たちを集めて籠の中身を披露した。
「みんな、これが橋立小女郎の丸焼きじゃ!」
漁師のおじさんたちは自慢げに披露しはった。せやけど、籠の中から出てきたのは黒焦げになった二本の大根やったとさ。
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