第2話
「忍者? そうさね、最近は
村人は気さくに教えてくれた。こちらが狐のお面を付けた不審者であることを気にも留めず。
暗躍してることが噂になっていたら、暗躍にならないのでは? というツッコミは心の中にとどめる。
「ばけものしゅう……ですか」
獣臭っていうと、なんだか臭そうな奴らに違いない。
「本州の方からやってきたって聞くけどねぇ」
俺は忍者っぽい狐憑きからダッシュで逃げ延び、豊後・地獄村に潜伏していた。地獄というだけあって、村のあちこちから湯気が沸き立っていて熱そうなのだが、要は温泉街になるべく発展途上の村ということらしい。
気温も村人たちも温かいし、温泉もほとんどタダ同然で入れるし、恐ろしく居心地がよかった。使命を忘れてしまうくらいに……。
我が愛しの生徒会長が、俺に与えた使命。
この世界に招かれた狐憑きたちを、もとの世界に返すこと。
もちろん忘れたわけではない。しかし俺の手元には宝刀……が入っていたらしい鞘と、使い方の分からない妖術のみ。後者については本当にあるのかどうかも疑わしい。
「とりあえず、武器がないことには心細いよな」
あの忍者は、明らかに俺と敵対するつもりであの場にやってきた。向こうは武器を持っていた。管狐を一刀両断した忍び刀。
他の狐憑きの仮面を剥ぎ取り、その者の真名を唱えれば、彼の妖術を奪うことができる。妖術というのがいかに便利なものなのか、俺には知りようもないが、もしかしたら俺以外の面々はやる気満々の殺る気満々なのかもしれなかった。
殺すまでいかずとも、気絶させるなりしてから仮面を剥ぎ取った方が、話し合うより手っ取り早いと考える短気な連中もいるだろう。
この異世界に馴染むうちに、元の世界の倫理観を失っていくのかもしれない。あるいは、倫理とか道徳とか言って押さえていた本性があらわになるのか。
なにはともあれ、丸腰である。
「ないなら、調達するしかない」
俺は日を改めて例の竹藪に戻り、手ごろなサイズの竹槍、それから弓矢を作った。見たことさえあれば猿でも作れそうなものだが、無いよりはマシだろう。武器を扱う技術も無いことだし、遠距離攻撃ができる槍と弓がよかろうと判断した。
親切な村人から鉈を借りて、できるだけ固くまっすぐな竹を選んで手ごろな長さに切り取る。先端はできるだけ削ってとがらせる。
今度はしなやかな竹を選んで、これまた手ごろなサイズになるよう切り裂く。弦も木の蔦を利用する。耐久性に難ありだが、それは必要に応じて追々補強するとしよう。矢の方も、竹を細く鋭く切っただけの即席。羽なんて付けてみたところで、どうせ俺には違いもわかるまい。
「異世界転移するとわかっていたら、弓道部か剣道部に入っていたのに……」
そんな感じで、俺は改めて旅立つことにした。
まずは例の忍者を追って、宝刀のありかを聞き出すとしよう。
正面から戦って勝てるビジョンが見えないので(だから逃げたわけだが)、背後から奇襲だ。
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