第38話 キバとノコギリ

 では、次は『聖邪竜毒蛇犬猫馬羊鼠猿猪鮫象せいじゃりゅうどくじゃいぬねこうまひつじうずみさるいのししさめぞうのキバ』を出してみようか。


 さあ、出て来い!


 俺の前に、総入れ歯が現れた。


 大きさは、人間用のものをひと回り大きくしたくらい。


 歯茎の色は、毒々しい青紫。

 歯の色は、銀。


 なぜか宙に浮いている。


「これが聖邪竜毒蛇犬猫馬羊鼠猿猪鮫象せいじゃりゅうどくじゃいぬねこうまひつじうずみさるいのししさめぞうのキバか?」


「形は似ているでござるっす。だけど、色がまったく違うでござるっす。それに、やや大きくなっている気がするでござるっすよ」


 忍者ヤジエイ・ズチイセがそう言った。


「元々はどんな色だったんだ?」


「神聖な感じの、純白でござるっす」


「そうなのか」


 これも特殊能力化の影響か。



「何をブツブツ言っているんだいれば?」


 総入れ歯から声が聞こえてきた。


「えっ、君しゃべれるのか!?」


「しゃべれるいれば」


「そ、そうなんだ……」


 どこから声が出ているのだろうな?


 まあ、そこはどうでもいいか。



「シャイニング・スーパースター・忍者人間国宝、いれちゃんのことは『サメゾー』と呼べいれば。よろしくいれば」


「あ、ああ、よろしくな」


 サメゾーねぇ。


 聖邪竜毒蛇犬猫馬羊鼠猿猪鮫象せいじゃりゅうどくじゃいぬねこうまひつじうずみさるいのししさめぞうのキバから、なぜその部分を選んだのだろうか?


 まあ、いいか。



「なんで俺を、その肩書きで呼ぶんだ?」


「名誉あることだからに決まっているいれば」


「そうなのか」


 やはりみんなそう言うんだな。



「サメゾーは何ができるんだ?」


「見ての通り、み付けるいれば」


「ああ、まあ、確かにそうだな」


 入れ歯だもんな。


「あとは、歯に毒があるいれば」


 名前通り、毒蛇のキバもあるということなのか。


「その毒は、どんなものなんだ?」


み付いた時に、相手に注入されるいれば」


「効果は?」


「分からないいれば」


「そうなのか」


 そこは試した方が良さそうだな。



「むむっ、何か接近して来るでござるっす!!」


「えっ!?」


 遠くの方から、白いウサギの着ぐるみのようなものが近付いて来ていた。


 あれはシロ二角ウサキグルミじゃないか!?


「あれは敵なのいれば?」


「ああ、そうだ!」


「なら、いれちゃんの毒を、あいつに注入してやるいれば!」


「頼むよ、サメゾー」


「任せておくいれば!」


 サメゾーが草の陰に隠れながら、シロ二角ウサキグルミに接近して行った。


 ちょうど良いタイミングで、実験台が来てくれたもんだな。



「はい、ど~もウ、ぎゃああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」


 サメゾーがシロ二角ウサキグルミの足にみ付いた。


「あ、足がぁ、足が痛いウサァァァッ!?」


 シロ二角ウサキグルミが仰向けに倒れ、苦しんでいる。


 な、なんだあれは!?


 シロ二角ウサキグルミの足が、どんどん黒くなっていくぞ!?


 あれは毒で、壊死しているのか!?


「ああああああああああああ、あ、あ、あ……」


 黒い部分が、シロ二角ウサキグルミの全身に広がっていく。


 そして、シロ二角ウサキグルミは全身真っ黒になり、動かなくなった。


 ナニコレ……

 恐ろしすぎるんですけど……



「どうだ、シャイニング・スーパースター・忍者人間国宝いれば! これがいれちゃんの力だいれば!」


「あ、ああ、すさまじいな……」


「そうだろういれば!」


 サメゾーが得意げにそう言った。



「ところで、あの黒いのはどうしたら良いんだ?」


「毒はそのうち消えるから、放っておいて良いいれば」


「分かったよ」


 毒の始末は必要はないのか。


 敵には容赦ないけど、環境には優しいんだな。



「アルヴェリュードさん、あれは解体する価値はあるのか?」


「あれはないでアリマスね。解体しても買い取ってもらえないでアリマス」


「やはりか」


 サメゾーもふにゃにゃと同じく、ピンチの時以外は頼らない方が良さそうだな。



 次は『聖キラキラぴかぴかキランキランてかてかノコギリ』を出してみるか。


 では、出て来い!


 俺の足元に、黒いノコギリクワガタのような虫が現れた。


 大きさは、体長一〇センチくらい。


 ノコギリクワガタとしては大きいな。


「これが聖キラキラぴかぴかキランキランてかてかノコギリか」


「これも以前のものとは、変わっているでござんす」


 暗殺者クカキシ・ネキヤがそう言った。


 ああ、そういえば、前にクカキシが、無駄に光りまくるノコギリだと言っていたな。


 なら、これは、また特殊能力化の影響か。



「クカキシ、以前のこいつは何ができたんだ?」


「よく斬れるノコギリだったでござんす」


「そうなんだ」


 今のこいつに、それは期待できないな。



「おい、輝かしきフラッシュ暗殺者、お前、ひとりで何言ってんだのこ?」


 ノコギリクワガタの方から声が聞こえてきた。


「しゃべれるのかよ!?」


「しゃべれるに決まってんだろのこ?」


「いや、決まってはいないだろ」


「そうなのかのこ? まあ、細かいことは気にするなのこ」


「あ、ああ……」


 それって細かいのか?


 まあ、いいか。



「君に名前はあるのか?」


「あるのこ。ノギさんのことは『ノッギィ』と呼ぶのこ」


「分かったよ。よろしくな、ノッギィ」


「よろしくのこ」



「ノッギィは何ができるんだ?」


「見ての通りのこ」


「それは、そのハサミで敵を挟めるということか?」


「その通りのこ」


「そうなのか……」


 それは役に立つのだろうか?


 まあ、試してみるしかないか。



「他に気付くことはないのこか?」


「えっ、他に? なんだろう? 分からないな」


「仕方ない、教えてあげるのこ」


 ノッギィがはねを広げて、空を飛んだ。


「この通り、ノギさんは飛べるのこ」


「そうだったのか」


 ノッギィが俺の周囲を飛び始めた。


 なかなか速いな。


 これは偵察を頼めそうだな。


 まあ、そんなことを必要とする場面があるかどうかは分からないけどな。

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