『ミルク・ブラッド・ヒート』 ダンティール・W・モニーズ

『ミルク・ブラッド・ヒート』

 ダンティール・W・モニーズ  押野素子 訳


 黒人の少女エイヴァの親友は白人のキーラ。キーラのお母さんは子供の自主性を重視する人で二人が泥まみれになろうが何をしようが受け入れてくれるけど、エイヴァのお母さんはキーラ親子のことを胡散臭く思っている。キーラは日頃から死に魅入られていて、ある夏の日にテラスから転落死を遂げる。その時彼女のそばにいたがキーラに置いていかれたエイヴァは、キーラの葬儀以降毎日彼女の母親のもとを訪れる──といった内容の表題作他、現代フロリダが舞台の短編集。

 リベラルな白人のパートナーがいる等、白人社会との接点が多い黒人社会に生きる女性を主人公にしたものが多い。



 アメリカの若手作家による作品集。少女から中年の母親まで女性が主人公のもので占められているのが特色か。

 エキセントリックな親友に死なれた少女と死んだ少女の母親の交流を語った表題作もそうだけど、他にも流産した子供のことが忘れられない既婚女性を語った「饗宴」。高校生の娘が既婚者の男性教師とつきあっているのを察しているが自身が不倫をしているために強く咎められない母親が主人公の「敵の心臓」(※オチがすごくいい)など、ひどく悲しくてやりきれない所から始まるものが多い。しかし悲しいだけでは終わらずに問題に自ら蹴りをつける結末が用意されているものが多いので、辛いだけの読み心地にはならないのがいい。聖職者から性被害を受けていた女性が弟を虐めていた相手に逆襲する「天国を失って」、自分を虐待した父親の遺骨を撒きにいくドライブに日頃から折り合いの悪い弟と何故かその彼女まで同行するハメになるという「水よりも濃いもの」なんかは読んでいて気持ちがよかった。

 自分のことを祖母に預けては自由にあちこち自由に飛び回る母親とつながる不思議な夢を描いた「骨の暦」はマジックリアリズム的で好きだった。


 フロリダとかルイジアナとかあのあたりが舞台にした黒人女性による小説がなぜか好きなので、その流れから気になって手に取った一冊である。

 差別は根深いわ貧困問題は深刻だわ、女性同士とはいえ白人女性と黒人女性がスムーズに連帯できるかといえばそんなことはないわ、読むだけで尋常じゃない湿気や暑さが伝わってくるような気候風土が大変そうだわ、ワニがいるような湿地帯があるわ、とにかく大変そうな地域のうんざりするような問題を取り扱った小説に惹かれるのか、我ながらよくわからない。暑いから寒いかなら迷わず暑い方を選ぶ、自分の中の熱帯志向が手に取らせるのかもしれない。

 今後もフロリダやルイジアナあたりの小説が翻訳されたら、できる範囲で読んでいきたい。


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