児童文学、YA(翻訳されたもの、日本語で書かれたもの、どちらも)
『キズナキス』 梨屋アリエ
『キズナキス』 梨屋アリエ
マイスコが配られた時期を同じくして、
自分と違う価値観を持つ朱華のことを当初敬遠していた日々希だが、夏休み中の部活動のために訪れた学校のパソコン室である作業をしている朱華を見かける。何故か朱華はマイスコのデータが保存してあるサーバーにアクセスできる権限を持ち、そのデータを元にある空間をつくりだしていた。次第に言葉をかわすようになる。友人やブラスバンド部の人間関係に疲弊するようになった日々希は、朱華のいるパソコン室に入り浸るようになり二人で、特殊な空間を作りだし始める。持ち前の想像力を思う存分に活かせるこの作業に日々希は夢中になり、朱華との距離も縮まってゆく──。
こういう展開になれば、ははーん朱華はすごい技術を駆使できる特別な女の子ね、で、一見普通の女の子だけどすごい才能を秘めている日々希と仲良くなるも、なにかしらの衝突があった後に強い絆で結ばれたりする話ね。なんだか邪悪なテクノロジーの結晶であるマイスコも、最終的に日々希と朱華の二人による無謀な行動によってプロジェクトがとん挫したりする、そういうお話ね、と予想しつつ読んでいたら、全部が全部とんでもない方向で裏切られた。
救いがない。あまりにも救いがない。
詳細は伏せるけれど、「ビッグデータ」という本作の重要なモチーフで、救いの無さの種類に見当がつく方もいることだろう。その予測の数倍は救いがない。公立の中学によくみられるせせこましい人間関係の描き方や、子供にあまり関心の無い親やそんな親の顔色をうかがう子供の内面描写にも手加減がなく、ぐいぐい心をえぐってくる。
というわけで、初めて読む梨屋アリエ作品である。
twitterの百合好きアカウントさんが紹介されていたので興味を持ち読んでみたYA小説なんだけども、読者に対して容赦がなさすぎる小説だった。児童文学やYAはヘタな大人向けのものよりも苛烈でトラウマを負うこと必須なものが多々あるが、まちがいなくそういった作品群の中に加えられる一冊。年を食ってるしそれなりにえぐい小説も読んできたので耐えられたが、十代のころに読んでいたら間違いなく致命傷を負っていたよ。
「校正ゲラを読み返して、なんでこんなに悲しい話を書いたんだろうとと自分のしでかしたことにショックを受け、少しのあいだ椅子から動けませんでした。」と作者のあとがきにあったが、全くだよ! の言葉しかない。でもこの救いの無さや容赦のなさに救われる読者もいることだろう。特に多感な時期の真っただ中にいる方には。間違いなく傑作である。
あとまあ、百合というか女子と女子の強い絆を描いた物語としても傑作であった。とびきり苦い終わり方をしてますが。
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