私はお姫様
「綺麗ねえ姫子ちゃん。将来きっと美人さんになるわ。」
物心ついた頃から、私はそう絶賛されてきた。
美人、綺麗、可愛い。美しく生まれた私を両親は溺愛する。
「姫子は世界一可愛い、パパとママの特別な宝物だよ。」
「お姫様よ。」
姫子。これ以上私にぴったりな名前は無い。子供心にそう思った。
幼稚園ではボーイフレンドが絶えず、小学1年生で彼氏とキスした。
一番カッコいい男の子と一番美人な女の子。手を繋いで校庭を闊歩した。クラス替えで自然消滅するようなお遊びだったけれど。
彼氏が居ない時が無かった。別れた、とウワサが立てば次の王子様が私にひざまずく。
いいよ、今フリーだから。そう答える私を白んだ目で見る同級生、全員ブス。
私は世界一可愛い宝物。じゃあ、可愛くない子は誰からも見向きもされないガラクタ。この世の真理一個みっけ。
中学に上がる。末は女優かアイドルか。学校のマドンナ。さっそくサッカー部のキャプテンの先輩付き合う。東京から転校してきたイケメンの男の子。そっちにしよう。チェンジ。
「姫子ってすぐ別れるんだね。」
仲良くしてた、クラスで二番目に可愛い光が呆れた様子でそう呟く。
「じゃあ、お下がりあげよっか。」
私は知ってた。光が私の元カレのサッカー部のキャプテンが好きだって。
「あのさ、姫子。あんまり人が自分の思い通りになると思わない方がいいよ。男の子も、女の子も。」
光は私をにらむ。二番目に可愛いって言ってもダブルスコアの差。それっきり絶交。嫉妬させちゃった?ごめんね。くす。
高校、大学。突き進む。価値観は変わっていく。カッコいい男の子。スポーツができる男の子。
そんなの子供の価値観。見た目100点、それだけじゃ足りない。高学歴。高身長。そして一生姫を支えられる高収入。その全てを兼ねそろえた王子様を探す。
女優にはならずに就職する。キモい男が目の色変えて私に突進。全部無視。
この会社の年収なんてたかが知れている。結婚している人の奥さんはパートであくせくしてるらしい。
そんな生活御免。会社は辞めた。退職理由はセクハラ。美人は外も歩けないから大変。
学校を出たら、どこで王子様を掴まえよう。急に分からなくなった。合コン?私は一匹狼だから友達は居ない。
パーティー?マッチングアプリ。最近流行り出したそれに登録。通知が止まらないマッチング。
キモい男、嘘、絶対こいつ医者じゃない。加工しすぎ。鼻で笑ってポイ。そうしてセレブ専用の結婚相談所に登録した。
「年収2000万円以上ですか…」
絶対に譲れない最低ラインだ。本当は億単位が良い。姫なんだから、その位当然。
今は実家暮らしで、パパとママが姫の生活に必要な資金は提供してくれてる。
じゃあ、暇だし女優モデルやってみよっか。履歴書を送る。不採用。いや、駄目だ。
アダルトビデオの撮影なんかに巻き込まれたら冗談じゃない。姫をあの手で引きずり下ろそうとする悪はこの世にたくさん蠢いている。
最低ライン2000万円を突破した人たち。おめでとう。姫の最終テストに合格できるかしら。
また一人、付き合う。また一人。君とは暮らせない。君とは無理だ。偽王子は顔を曇らせる。そんなんこっちから願い下げ。
「何でも君の思い通りになると思わない方がいいよ。」
どっかで聞いた捨て台詞。バイバイ。また一人、一人。一人。
姫誕生三十周年のパーティーを迎える。その辺りからめっきり釣り合う男が減る。どうして?相談所のエージェントはこう言う。
「そのラインじゃ厳しいですよ。本当にご結婚なさりたいなら…」
妥協しろ。嫌です。仕事ができない理由を押し付けてくる。
これだからブスは大嫌い。また嫉妬。どうせ王子様を隠してるんでしょ。別の相談所に乗り換えた。
鏡の前の自分。四十代なんて年齢誰も信じない。二十代に見える。乃木坂なんちゃらに似てる。この間親戚のおじさんにそう言われた。
私の婚活の次なる作戦。それは王子様にダイレクトアタック。姫直々の降臨。セクシーな衣装に身を包み、オフィスの受付嬢にこう告げる。
「社長、いらっしゃるかしら。」
「アポイメントはお取りでしょうか?」
いいえ、そうして追い返される。ネットで調べた王子様リストをしらみつぶしにこうして姫じきじき出向いているのに無礼な女。
次、クリニック、オフィス。クリニック、オフィス。最後のクリニックで受付の女は眉を潜める。
「あの、院長は診察中なので。」
私はカッとした。困ったような表情と中途半端に整った顔だちはあの光によく似ていた。
「出せって行ってるでしょ、私は美人なのよ、姫なのよ、姫なのよ!!どうして、どうして皆私から王子様を隠すの!!!!」
看護師たちに取り押さえられる。警察がやってきた。そうして私は入院した。
今は顔の良い研修医を暫定的に王子様と認めてやっている。さあ、ひざまずきなさい。私は姫なのだから。
それなのに、研修医も、看護師も男も女も誰もが私から目をそむける。そっか、眩しいんだね。自分がブスだから。
あはは、うふふ。私は姫。だけと私を姫と呼ぶ両親は先月自殺した。姫、姫。ねえ誰かそう呼んでよ、姫だよわたし。叫び続けた声はコンクリートの壁に吸い込まれていった。
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