うちの子と仲良くしないで
これは私が小学5年生の時の話だ。授業参観の後のPTA会議が開かれて、私は校庭で友達の弓子ちゃんと鉄棒で遊んでいた。
私の母さんは仕事がどうしても抜けられなくて来られず、それが少し寂しかった。鉄棒を握り、前回り。
「すごい、加奈ちゃん。上手だね。」
くるくると前回りすると弓子ちゃんは褒めてくれる。彼女は控えめで、睫毛が長いお人形のようなかわいい女の子だった。
「じゃあ次は逆上がり!」
くるり、と回ってみせる。
「弓子ちゃんもやってみなよ。大丈夫、できるって。」
「でも、怖いよ。一輪車も鉄棒も、見るのは好きだよ。」
そう言って弓ちゃんはロープのコースに沿って周りは続ける一輪車を眺めていた。くるくる、くるくる。下級生の女の子が回る。
「弓子、こんな所に居たの?」
「ママ!」
初めて見た弓子ちゃんのお母さんは凄くきれいな人だった。洗練されたお化粧。白いジャケットにタイトスカート。胸には銀のネックレスが揺れている。
パン屋さんで日がな1日生地をこねている、たくましい腕をした私のお母さんとは全然違う。
「加奈ちゃんだよ。」
弓子ちゃんはそう言ってお母さんに私を紹介してくれた。するとお母さんはにっこりと微笑んでこう言った。
「あなたが加奈ちゃんね。」
「はい。いつも弓子ちゃんとは…」
「うちの子と仲良くしないで。」
聞き間違えたのかと思った。彼女はもう一度はっきりと言う。
「うちの子と仲良くしないで。」
「ママ!どうしてそんな…」
私をかばおうとして腕を引く弓ちゃんをお母さんは無視する。
「うちの子と、な、か、よ、く、し、な、い、で。」
私がその場から逃げ出すまで彼女はそう繰り返した。笑顔で動く彼女のリップグロスの艶めいた唇の動き。それは今も私の瞳に焼きついたままだ。
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