蒼の彼方。

「ちゅん、ちゅちゅちゅちゅちゅちゅッ、……」

 ――――うるさい。

「ちゅんちゅん、ちゅぴ」

 ――うるさいって。

「カー、カー、カーっ!!」

「ポッポロ、ポッポー」

「うるせえっつってんだろ、この鳥どもがッ!!」

 鳥の鳴き声に起こされたあたしは、風花桜歌でありんす。

「まったく、この家の周りうるさくない?もう……ブツブツ」

 ぶつくさ呟いて上体を起こしたあたしは、むにゃむにゃあくびしてベットから起き上がった。

 窓を覗くとおてんとさまがきらりんと光散らしておりますが、とにかく眩しいのです。

 生命の源の惑星、太陽よ。破壊したろか?

 眩しいんだよ。アメリカのNASAから核爆弾積んだロケットミサイルでも打ち込んだろか?

 あっ、太陽が雲に隠れた。あたしが怖いんだな?フッ。(顎に指を添えて決めポーズ)

 なんて馬鹿な妄想を繰り広げて太陽の光を浴びた後、目が覚めて冴えまくったあたしは母君が作ってくれたもうた朝ごはん成るものを食べるべくリビングに向かう。

 我が家は二階建てなので自室が二階にあるのです。なので今は太陽の光で若干視界がちかりと焼けた両の眼で歩いてるのですが結構ちかちかしますのです。

 コノヤロー、太陽め。あたしが憎いからって太陽光線で地味にダメージ与えたな?あたしのこの黒曜石のように綺麗な黒目に。――ケッ。

 ……ていうのはどうでもいいや。早く朝めし食べたい。お腹がグルグル唸ってる。早くエネルギーよこせと唸り声を上げている。

「お母さーん、おっはよー!」

「あっ、おうちゃんおはよん。パン焼いたけどジャム何がいい?」

「ブルーベリー!」

「あいあい了解。まったく朝から元気だよね……、学校でもその勢いで行ってほしいけど」

「うるさいな、はやくジャム塗りたまえ。……あったっぷりね?」

「はいはい」

「はいは一回!!」

「それ親の私がいう台詞なんじゃ……」

 お母さんは口をへの字に曲げながら冷蔵庫から取りだした使いかけのジャムのフタを取ると、べたっ、とスプーンですくったブルーベリーのつぶつぶ入りジャムを塗りたくる。

 ぬりぬり。

 かたっ。と完成したジャムトーストを乗せた皿を食卓に置いたお母さんは自分の分の食パンを咥えながらジャムを冷蔵庫にしまう。

 あたしは冷めないうちにがりがりさくさく咀嚼しながらパンを食べていく。口に付いたジャムも忘れずぺろり。……うま。

 お母さんは端っこに一口だけ噛じった跡のある食パンをトースターにぶちこむとピッピピトースターを操作。

「ねえ、お母さん。なんで一口だけ噛じるの?汚くない?」

「失礼ね、人の食べ方に文句を言っちゃいけませんよ。そんな風にあなたを育てた覚えはありませぬ」

 ぬんぬんと言いながらお母さんはスプーンにくっついたジャムをべろべろ舐める。

 ……説得力皆無だな、こいつ。

 朝食を食べ終えたあたしは、自室に戻って制服に着替える。支度を整えると今日はいつもよりも姿見の前の滞在時間を長くして前髪を念入りに整える。髪先がうねうね癖っ毛の白いロングヘアー。今日はいつもと違ってアップのポニーテールに整えた髪型で通学と云う名の戦争に挑むのでありんす。

 うん、よし。ちょっとポニーテールがうねうねしてるの気になるけどアクセントになるかな。……キモくないよね。えっ?キモくないよね……、心配になってきたんだけど。ちょっとどうしてくれるの!?あたし!!

「おうちゃーん、学校ダイジョブなのー?弁当忘れずにねーー?」

 母君が下の階で何かをのたまいでおる。――うるせえ。

 ちゅんちゅん。

 鳥もうるせえ。

 さて、行きますか。今日はなんだかいつもより気分が明るい。こうやってふざけた思考をするのも楽。こうしてないと鬱になって死にたくなるからな。今日も頑張ろ。

 だって今日は、あの彼方くんとデートできるかもだし。つい告白しちゃったけど、意外と上手く行っちゃったし。……きゃ、思い出しただけで恥ずかしい。

 いいよね、浮かれてもいいよね。なんてったって女の子だもん。恋する女子は最強。何にも勝たん!!

「行ってきまーす」

「いってら〜」

 玄関でローファーを蹴り、扉を開けたあたしは、空の果て、蒼の彼方を眺める。さっきまで恐れおののいていた太陽は雲から顔を出してきらりと輝いていた。

 今までのあたし、いや、桜歌。名前の通り人生を謳歌する桜花になれるかもよ。生きててよかったって言える人生にするから。だからあの頃のあたし、立ち上がって。下を見てもいいから。生きて。

 

「桜歌さん、本当にボクが好き?」

「ッ!?…………(こくん)」

 あたしはびっくりした。まさかそんな言葉が発せられるとは思ってなかったから。

「そう、ありがとね。でもほんとにボクで良かったのか後悔すると思うよ?」

 えっ、それってどゆこと?告白受けてくれるってこと?

 彼方くんが、あたしの腕を優しく解いて、肩に手をおくと一歩下がった。

 さっきまでのキスできるぐらい距離が離れてしまう。残念。

「――それでもいいの?」

 えっまじなの!?マジで!?マジデスか!?マージしないよね!?その言葉っ!?

 とりあえず頷いとこっ。

「…………(こくん)」

「分かった」

 え?ナニが?

「じゃあ、ボク達、付き合おう?」

 ――――はふんッ。……えっ、いいの?いいのいいの?だってあたし、いじめられっ子だし。

「じゃあ、周りの視線も気になるし、そろそろボクは行くね」

「……(こくん)」

 本当なのかな。ほんとにあたしと付き合ってくれるのかな。

「――ん?どうしたの?」

 あたしはとっさに彼の袖を掴んでた。

「…………」

「……なに?」

 彼はショートボブカットの髪を耳に掛けて、あたしの黒瞳を覗き込む。

「――っ!?」

 ドキドキっ。

 きゅ、きゅきゅきゅ、急にそんなことされるとドキッとしちゃう。

「顔赤いよ、大丈夫?」

「…………(こくん)」

 はてなマークを浮かべる彼は、困り顔からハッとしてニヤりニヤニヤんとにたり顔をする。

「もしかして、照れてる?そんなにボクが好き?」

「……(ぷいっ)」

 あたしはつい、目をそらしてそっぽを向く。

 なにその顔。反則だよ。もっと好きになっちゃう。ドキドキしちゃう。酷い。

 あたしはじとっと彼方くんを睨みつけた。

「ふふっ、図星か。大丈夫、ボクも君が気になってたの、なんならキスしてもいいけど、ここじゃあね」

「……!?」

 にゃにゃにゃ、にゃにーーー!?

 キスにゃとーーーー!?

 きっきき、きっ、キッス!?キッス!?キッスんーーーーーーー!?

 はわ、はわわわわわわわわわ!?

 顔近い、やばい、発情しちゃう。うさぎになっちゃう。ぴょんぴょん。

「ふふっ、またね」

 ぽんぽんっ。

(はわっ!?頭、ぽんぽんされた!?)

 ぼしゅっ!!

 あたしの頭は、ショートしてしまった。 

 は、反則だよっ。彼方くん……。

 かくして風花桜歌は蒼野彼方と付き合うことになった。


 

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