あたしの告白。

 「あたし、やっぱり彼方くんが好きです」


 この夢を何度見たことか。彼女に告白される夢を見た時は、びっくりした。クラスでも浮いてる女の子だったから。

 白い髪色のウェーブロングで毛先がカールがかかった全体的に落ち着いた印象の女の子。その子と教室の掃除当番が被った事があった。

「桜歌さん、あとはボクがやっとくよ」

「……?……っ!!」

 彼女は一生懸命首を振った。口をへの字に曲げてボクがロッカーから取りだしたちりとりをガッと奪い取る。

「あ……」

「……!……!!……!!」

 いそいそと箒でちりとりに集める彼女に倣って、ボクも座ってちりとりを握る彼女の左手に手を重ねる。

「ありがと、桜歌さん。集めたやつ捨てとくから」

 彼女の隣でそう呟いたボクに桜歌さんはぴくりと止まり、ボクの顔を見上げた。

「………………」

 そこには、彼女の黒い瞳が目の前にあって。

 まるで吸い込まれそうな錯覚を受ける漆黒の瞳。中心に向かうほどに闇に溶け込み、真っ黒に染まる瞳孔に感情が渦巻いているのが分かって。その色はなんなのか。まるでなにかに恍惚としているような白熱とした相反する色彩がそこに映って……。

「おーい、もう下校時間だぞ。早くしろ」

「……あっ、は、はい」

 生活指導の先生が見回りをしていたようで今日は部活動もないという事もあり、もう下校のタイムリミットが近づいていたようだ。

 気付けば彼女は掃除道具から手を離して四つん這いになってはボクの顔を覗き込んでいた。

「――――――?」

 憂うように心配した表情を浮かべた桜歌さんはどこが頬が赤くてジットリ汗をかいている。

「……あ、ごめん。早く片付けないとね」

「…………」

 彼女はこくりと頷き、ちりとりをゴミ箱にもっていく。次いでボクも立ち上がってロッカーに掃除道具を片付け、戻ってきた桜歌さんのちりとりを受け取った。

「じゃあ帰ろうか」

「………………」

 バタンとロッカーを閉めて、彼女と並ぶ。

 教室をあとにすると、黄昏に染まった夕日が日の出とは逆方向に動いている。日が沈み、また新しく数多の星々を煌めかせようとしている。

 それに逃げるようにボクらは、いやボクは家に帰るのだろう。

「………………」

 下駄箱で靴に履き替え、外に出ると、後に続いた彼女は頭のてっぺん、旋毛を見せながらボクの後ろに立った。

「………………」

 表情が見えないな。

「じゃあボクはここで分かれるね」

「……!?」

 突然に彼女は首を振り上げた。

 両の眼をじわりと潤ませ、頬が火照った何かを訴えられるような表情をしていた。

「――どう、したの?」


「――どう、したの?」

 なんで、こんなに優しくするの。

 なんで、あたしの気持ちも知らずにそんなに構うの。

 なんで。

 なんで……。

 なんで、なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで――!?

 あたしは、あなたに一目惚れしたのに、内面まで好きになってどうしようもなくなっちゃうじゃないのよ!?

「大丈夫?何かあったの?」

 ほら、そうやって周りとは違う対応をする。だから、――――――だからこんな変な女に好かれるんだよ?

「ゔっゔ……、ふぐっ」

「えっ?えっ?泣かないでよっ、桜歌さん、ほらハンカチ」

 あたしは彼が差し出したキャラ物のパステル色の布切れをはたき落とした。

 いらない、そんなものいらない。あなたの優しさなんていらない。あなたからもらってばかりじゃあたし。あたし、駄目になっちゃうよ……。

「…………困ったな、こういう時はどうするのが正解なの……」

 まだ、あたしに構うの?

 ……まだ、あたしに構うつもりなの?

 この。この、バカ。バカ。バカ。バカ。バカ。バカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカ――。

 このバカああああああああああぁぁぁぁぁーーーー!!

 あたしは目一杯力を込めて彼の頬に平手をぶち当てた。

 バチン。

「いっつ……!な、なにするの!?急っ……てうわぁ!」

 むぎゅう。

 あたしは気付けば何故か、彼を抱き締めていた。

 ビンタ食らわせたあとにハグしてくるって急にしてきたらただの異常者だけど、でもあたしの気持ちを伝えるにはこれしかなかった。あなたの、いつもくれる平坦な温かい優しさが大嫌いで。大好きなんだよって伝えるにはこんな不器用な手法じゃないと伝えられなかった。

 ん、……くん、どくん、どくン、どクン、ドクン、ドクン。

 彼の心臓の鼓動が感じる。急に抱き締められてびっくりしてるのか段々心音が早くなっていた。

「きゅきゅ急にどうしたの!?桜歌しゃん!?」

 ああ、温かい。

 人の温もりってこんなに温いんだ。

 あたしは彼の胸元をクシャっと掴み、必死に縋る。何に、何かに、何かを離すまいと掴んで離さなく、いや、離せなくなっていた。

 あたしは、やっぱりあなたの事、好きなんだ。やっぱり、やっぱり好きなんだ。

 彼方くん、あたしはあなたが好き。あなたがーー、

『好きです』

気付けばぼそり、息を漏らしていた。

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