未来の植物
世界の発展に終わりはなかった。
すべての国境は取り払われ、言語、宗教、通貨、あらゆる物が統一され、人類は一つになった。
あらゆる土地で人口が増え続けた結果、すべての地表は都市へと開発され、山河までもがコンクリートと金属で塗り固められた。
気象はすべて酸素工場や雨工場が絶えずコントロールし、いわゆる「自然」が消滅してから途方もない時間が経った。
そんな中、旧人類の遺跡扱いされているビル群から1つの発見がされた。
大きな鉢から天に向かって生えている、これまで見たこともないような緑の物体。
この発見に人類は議論を重ね、ついに「植物」と断定し沸き立った。
それはほどよく枝分かれし、枝先に濃い緑の葉がついている。まさに、古に存在した
植物に間違いないだろう。
ある研究者は自然を取り戻そうと熱弁を振るう。
「この植物を解剖し、研究を重ねて繁殖させよう」
すべてが人工物に置き換わったこの地球に、もう一度自然を、と。
しかし、ある聖職者は唯一の自然を守ろうと声を上げる。
「この植物を見守り、保存しよう」
地球唯一の自然を守り、神聖な物として人の支えとしよう、と。
指導者達の議論は白熱していった、それに釣られて人々も自らの意見を述べて行く。
「この世界に、自然を取り戻すべきだ」
「いや、この世界で植物は神聖なもの、触れずに置くのだ」
「一部の人間が植物を独占している」
「いままで植物など見たこともない、考えたこともない人間がただ騒いでいるだけだ」
熱し過ぎた議論は混沌を極め、次第に世界は殺伐としていった。
二分された派閥は互いを敵視し、ついに暴力が振るわれたのだ。
もはや植物の本来の目的は隅に置かれ、テロリズムが派閥に芽生え始めた。
人命が失われるにつれ、植物は神聖味を増していった。
たかが1つの植物が、まるで神の遺物のような、なんとも言えぬ存在に昇華されてゆくことに人類は気が付かない。ただその神聖なものをめぐった「聖戦」が止まることはなかった。
そして、ついに指導者達のテロは戦争となった。植物の置かれた場所周辺は緩衝地帯となり、その他すべての土地が戦闘地帯に変わってゆく。互いの兵器が都市を吹き飛ばし、砕けたコンクリートが地すべりのように人々を飲み込んでゆく。死体は土に帰る事さえできず、ただ人工物に押し潰され、朽ちていった。
だが、その戦争にも終わりの時が来た。
追い詰められた一方が、地球すべての生物を腐敗させ抹殺する毒ガスを放ったのだ。相手に植物を取られるくらいなら、死なばもろともということであろうか。全人類はあっけなく腐り、息絶えてしまった。
死のガスにまかれ、幾つもの死体に囲まれながらも、植物は発見された時と変わらず天に向かって立っている。そして根元には、旧人類の失われた言語が刻印されていた。
(オフィスリース・観葉植物 主な原材料・プラスチック)
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