【胃袋無限のマナイーター】元大食いチャンプ、魔王討伐のために転生したが、女神の手違いで魔力ゼロのモブに。ところが与えられた外れスキルが俺にとっては最高だった~魔法が使えない? なら全部食べればいい~
第5話 聖王女ステラのヒール(回復魔法)を食べてみる
第5話 聖王女ステラのヒール(回復魔法)を食べてみる
俺とミーナは、聖女の馬車に揺られて目的地へと向かっていた。
襲撃によってかなり損傷はしているが、随分と高級そうな馬車だ。微妙な揺れが心地良くてまぶたが閉じそうになる。
俺の向かいに座るのは銀髪の聖女様だ。スッと伸びた背筋、凛とした佇まい。さきほど、転んだ少女とは思えない、どことなく高貴な雰囲気がにじみ出ている。
「あらためまして、私はステラ・ロイ・ローランド このローランド王国の第三王女でございます。ショウゴさま、ミーナさま、先ほどは助けて頂き本当にありがとうございました」
「んん? 王女さま? あ、あれ? ステラ様は聖女設定なんじゃ…」
「せってい?」
「あっと、いやそのなんでもないですはい」
やばい、変な口調になってしまった。
にしても、見習い女神ミーナの事前説明だと、王女なんてワードは一度も出てこなかったぞ。
「ふふ、私に敬語は不要です。ステラとお呼びくださいショウゴさま。ミーナさまも」
おお、それは助かる。王族と話したことなどないから、言葉遣いとかぶっちゃけわからんし。
「わかったよ、ステラ。お言葉に甘えてそう呼ばせてもらうよ」
「いいわよ~ステラ、あたしもミーナでいいからねぇ~」
ちなみに、俺もショウゴでいいと言ったのだが、命の恩人を呼び捨てにはできないと、強めに拒否られたのでもう気にしないことにする。
そして、ミーナは何故か俺の横にピタッと密着して座っている。これまでの行動を思い返すと、ちょくちょくへばりついてきたり、事あるごとに近い。距離感をもう少し考えて欲しいところだ。
「ってことは、ステラは聖王女ということか」
「はい、そうなりますね。聖女や聖王女、姫、ステラ様などみなさん色々ですね。でもステラと呼んでいくれる人はほとんどいないんです。だから今ちょっと嬉しいんです」
そりゃそうだろう。ステラって呼ぶのは両親ぐらいじゃないのか。ステラの親父といえば、王様か。
うむ、呼び捨てマジで大丈夫なのか? 若干不安になってきたが、今後もずっと王族用の敬語とか使いこなせる自信がない。なので呼び捨て続行を心の中で決意する。
「ところで、つかぬ事を伺いますが……」
ステラが急に緊張した顔でズイっと寄ってきた。
俺ではなくミーナの方に。
「み、み、ミーナは。そ、そ、そのショウゴさまの奥方様なのでしょうか?」
「へぇええ? お、奥さん!? ち、ち、違うわよ! そ、そんなわけないでしょ!」
王女がなんだかモジモジし始めた。そして何故か見習い女神ミーナもモジモジしている。
「で、で、では。ゴクリ……その、こ、こ、恋人なのでしょうか?」
「な、何言ってんの? そ、そ、そんなわけないでしょ!」
なんの会話をしている?
どこをどう見れば、俺とミーナが夫婦とか恋人になるんだ? まあ黙っていれば可愛い見習い女神だけど。
「そうなんですねっ! 私、ミーナがショウゴさまにベッタリだから~でも違うんですね~そっか~」
急にステラの顔がパーッと輝いて、満面の笑みでウンウンと頷いている。
わけわからん。先程の会話の中に、ステラの喜ぶ要素は皆無だと思うけどな。
「で、でも! まあ頼りにはしてるけどねっ!」
ミーナはそう言うと、さりげなく俺との距離を詰めるように座りなおした。
俺を方をチラチラ見ながら、若干頬を赤くする見習い女神。近すぎるので少し横に移動すると、反対側の柔らかい何かに当たる。
柔らかい何かの正体はステラだった。いつの間にかステラは俺の横に座っていたのだ。
左に女神、右に聖王女。良く考えると凄い状況かもしれんが、ぶっちゃけ狭いので勘弁してほしい。
「ショウゴさま。私たちを救って頂いた魔法はなんという魔法なんでしょうか? 私、あのような魔法を初めてみました!」
右に座るステラが、その綺麗な青い瞳をキラキラさせながら俺に視線を向けてくる。
「あんな特殊な動きで魔法を吸収したり。聞いたこともない魔法を使ったり! 名のある大魔導士さまなのですか?」
「俺は大魔導士でもなんでもないぞ。なんせ
俺はウソ偽りなく事実を述べる。ぶっちゃけ、美味いもん食べて、アイテム使用しただけなんだよな。
「ええ!? ショウゴさまは
「ああ、あれは俺のスキル【
「スキル? なんでしょうかそれは? 【
すこし間をおいて、聖王女が首を傾げた。
彼女の反応をみるに、どうやらこの異世界ではスキルなるものは存在しないようだ。〇〇歳になったら神殿でスキル授与の儀式を受けるといった世界ではないのか。
「えとねぇ~ステラ。彼の【
「なるほど、そうなんですね。勉強になります」
ステラはポンと手を叩いて、真面目な様子でフムフムと頷いている。もちろんミーナの即興作り話である。
ミーナはステラの態度に気をよくしたのか、スキル講座が始まった。
「凄いですっ! 魔法を食べて、アイテムという道具に変えることができるんですか!」
「そうよ! ショウゴは凄いんだから! 実演してあげるわ、ショウゴ!」
「ええ……ミーナ、こんなところで無茶言うなよ」
「(何言ってのよ! ここはステラへのお近づきアピールタイムよ。使わない手はないわ)」
ヒソヒソとミーナが耳打ちしてくるので、仕方なく【
「「キャア!」」
俺たちの頭上に突如現れた大きな口を見て、ステラが悲鳴を上げて目を見開く。
そりゃそうだ、いきなりこんな口が出てきたら誰でもビックリする。
あと何故かミーナも驚いて、頭を壁にぶつけていた。おい……おまえはついさっきまで間近で見てただろうが。
「ふわぁああ~ん、痛いようショウゴ~よしよしてようぅうう」
俺は泣き始めたミーナの頭を撫でてやりながら、自身の視線を上に上げる。
馬車から若干はみ出しているのだが、スキルだからなのか接触部分が半透明になり突き抜けている。たしかステータス画面ではマナマウスと書いてあったな。
「ステラ、なにか魔法を使ってくれないか」
銀髪の聖女ステラがコクリと頷いて、詠唱を開始する。
「聖なる光よ、癒しの女神アフロディーナの御心をもって、この者の傷を癒したまえ」
ステラの手から青い光があふれ出した。さっき俺を極楽にいざなった回復魔法だな。
「
大きな口(マナマウス)がその青い光を吸い込みだした。ファイヤーボールの時はかぶりつくというイメージだったが、今回は吸い込んでいくという感じだ。まるで掃除機のように。
「「キャア!」」
再びステラの叫び声があがる。ビックリして横にいる俺に飛びついてきた。
あとミーナは再び壁に激突して、たんこぶを増やしたようだ。
まあ特殊な絵面なので、わからんでもないが。にしても―――
「おお……これは……豚汁だ! しかも具沢山!」
「え? トンジル?」
「おっと、こっちの話だ。にしてもステラ! こりゃうまい! 出汁もいいじゃないか!」
「えっと、良くわからないですが、ショウゴさまに気に入って頂けてなによりです」
豚肉に加えて、ゴボウ、大根、ニンジン、こんにゃく、長ネギと最高の出汁。こりゃ美味いっ! 特に出汁はステラの
俺は夢中でステラの豚汁……じゃない
「ご馳走さまでした!」
あ~満足だ。やはり食べている時が一番の至福だな。
『
例によって、スキルの声が俺の脳内に響く。
さて、ステータス画面を開いて確認するんだけど、その前に。
「ステラ、そろそろ俺から離れてくれるとありがんたいんだが」
「へぇ? わわっ……!」
銀髪の聖女ステラが、あわてて俺から離れて距離を取る。
いや、そこまで露骨に離れなくてもいいんだけど。どうやら俺に引っ付いていたことに今気づいたらしい。
「わ、私たら……殿方に密着して……なんてはしたない……うぅ」
「ああ、ごめんよ。もっと早く言ってやれば良かったな」
「いえ! 私が勝手に引っ付いただけですから……はぅう」
王女の割には無警戒すぎて心配になってしまうが、まあ今後のミッションを考えると警戒されまくりもやりにくいので、良しとしよう。何よりも頬を赤くして俯くステラが可愛すぎる。
「よし、ステータス画面を開けてみるか」
□-------------------------------
使用可能アイテム
・ファイアーボール×24
・ハイファイアーボール×1
・聖王女の
☆特殊スキル
・吸収率3倍(LV2)
※吸収した魔法を吸収率に応じてアイテム化
・
□-------------------------------
「わあぁあ、これがショウゴさまのガメン魔法なんですか! 凄い!」
いや……ステータス画面出しただけです……
どうやらステータス画面もこの世界にはないらしい。
「なるほど、食べた魔法はアイテムにできる。私の魔法は…ああこれですね! 聖王女の
「ああ、そうなんだけど。【聖王女の
【
「ふわぁああ、ステラの魔法は既存魔法よりすっごいものなんだと思うよぉ。期待の聖女さまだしぃい」
たんこぶを作ったミーナが、半泣きで意見する。
どうやらステラのヒールは特別らしい。まあ魔王を討伐するカギになる聖女なのだ、通常より優れた効果があるのかもしれない。
「ショウゴさまは、このアイテム化した魔法を使用することができるんですね。フムフム」
「そうだよ。黒ローブたちを吹っ飛ばしたのは、
「フムフム、ショウゴさま、凄いです! そのような魔法は聞いたことがありませんし」
ステラが言うには俺のアイテム合体使用で作り出された魔法は、この世界にそもそも存在しないものらしい。
「ふぇええ、そうよショウゴは食欲が人間離れしているから、常人より多くの魔法を食べられるわ。元大食いチャンピオンなんだからっ、グスっ」
「オオグイチャンピオン!? なんですか? それは?」
こら、ミーナ。転生前の情報をペラペラと話すなよ。頭を壁にぶつけすぎたんじゃないのか。
「ま、まあ簡単に言えば、どれだけ多く食べられるかの王様みたいなもんだ」
「す、凄いです! ショウゴさまは王様だったのですね! 魔力ゼロのオオグイチャンピオン!」
う~む、たぶんわかってないな、この子。まあこの件を掘り下げるのはもうやめよう。転生者に関する情報を知らせても、余計な疑惑を生むだけだろう。
ステラが感心した様子で頷いているそばから、俺の袖をクイクイ引っ張るやつがいる。ミーナだ。
頭には大きなたんこぶが2つ。マンガみたいなやつがついている。2回壁にぶつかっていたからな。
「わかったよ、ミーナ。ステラのヒールを使ってみよう。だからもう泣くな、いいな」
「うん、ありがとうショウゴ~グスっ」
おれは早速、聖王女の
速攻でミーナのたんこぶ2つが小さくなっていく。
「ふわぁああ~凄いよ~! こぶが無くなった~~、あと頭痛も治った~~なんか頭が軽いよう~スッキリ~」
そういえばこの女神、頭痛に悩んでいたとか言ってたな。みんなに転生を拒否られて。
精神的な頭痛すら治してしまうとは、ステラのヒールはやはり特別なんだろう。
「にしても、その歳で上級回復魔法だなんて凄いわステラ。ありがとうね」
半泣き状態から元気になったミーナが、ステラの手を取って礼を言う。
「えへへ、私、勉強と魔法の訓練は頑張ってきたんですよ。でも襲われた時は全然ダメでしたけどね…」
そうだった、ステラは襲われていたんだ。
見る限りはこの馬車1台に周りは数人の騎乗騎士だ。俺たちがあの場に落ちなかったら、かなりのピンチだったに違いない。
「そういえば、ステラは襲われた相手に身に覚えはないのか?」
「いえ…確証がありませんのでなんとも言えません…いきなり襲われましたので」
なんだろう、奥歯にものが詰まったような言い方だな。
ミーナは何か知っているのだろうか? あとで情報共有しないと。
しばらく沈黙が続いた後にステラがその口をひらいた。
「さきほどショウゴさまは無職と、またミーナは職を探しているとお伺いしました」
ステラが真剣な眼差しで、俺たちにある提案をしてきた。
「私の護衛騎士として働いては頂けないでしょうか? どうか私にその不思議な力をお貸しください」
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