第3話 ファイアーボールを食べまくったら、もう魔力切れですとふざけた事を言われてしまう

 いきなり目の前に現れた大きな口。

 俺に迫りくる炎の塊をペロリと食べてしまった。


『【魔力マナイーター】の発動により、ファイアーボールを吸収しました』


 俺の脳内に声が響く。スキルの声ぽい、ガイドみたいなもんか。

 ファイアーボールを吸収?


 感覚としては、目の前のファイアーボールを完食したという方がしっくりくる。

 口の中に入って咀嚼して、しっかり味が付いている。さらに言えば肉っぽい。ぶっちゃけ、これ焼肉ロースまんまだ。ほどよくあぶって、タレもついてる。

 ちなみにスキルの力なのか、火の玉だからといって、たいして熱くはない。というか程よい焼き加減だ。

 まあとにかく……


「うまい!」


 さらに次々と炎の塊が俺に飛んでくるも、すべて大口がパクパク食べていく。


『ファイアーボールを吸収』

『ファイアーボールを吸収』

『ファイアーボールを吸収』


「ムシャ! うまい!」

「ムシャ! うまい!」

「ムシャ! うまい!」


 こりゃすげぇ、どうやらこの【魔力マナイーター】というスキルは魔法を食べることができるらしい。

 しかもなぜか馴染みのある食べ物の味に転換されるようだ。


「ふわぁああん~ショウゴ~~思い出した~たしかそのスキルは食べた(吸収)分だけお腹が膨れるのよ~食べ過ぎに気を付けて~」


 先程吹っ飛ばされた見習い女神のミーナが、半泣き状態で俺に駆け寄ってきた。

 メモ帳らしきものを開いて必死に思い出してるぽい。まあ…ミーナなりに頑張っているんだな、ポンコツではあるが。


「食べた分だけ腹が膨れるか……だとすれば何も問題はないっ!」

「ふぇ? なに言ってんの? すでに常人の許容量超えて食べてるっぽいけどぉ!」

「冗談だろ、序盤も序盤、前座にすらいってない。全くもって足らん!」

「ふわぁああ、あんたどんな胃袋してんのよぉ……ってことは【魔力マナイーター】は、ショウゴにとっては最適のスキル?」



「ああミーナ! これ最高だ! 最高だぜ! いくらでもいけるぞ~」



 これは凄い、焼肉がポイポイ飛んでくるのだ。こんな夢のような世界があっていいのだろうか。幸せすぎる。

 異様な光景が展開されて、黒ローブたちからどよめきの声が上がり始める。


「な……馬鹿なっ! なんだこいつ! ファイアーボールを直撃されて喜んでるぞ!」

「きょ、強力な魔法障壁を展開しているのか……!?」

「いや……だたの燃やされて感じる変態なのでは?」


 おい、変態とはどういう了見だ! 最近の無双ヒーローならあり得るパターンなんだよ!

 黒ローブたちが狼狽え始めそうになったところを先ほどのボスが、大声で一喝する。


「狼狽えるなっ! 魔法は無力化されているようだが反撃はされていない! いつまでも魔法障壁を張ることはできん! 魔力には限界があるからな。手数で圧倒して、この変態を排除しろっ!」


 黒ローブたちが再び詠唱をはじめる。たしかにボスの言う通り、俺には反撃手段がない。食べる分にはいくらでもいけるんだが。

 あらてめてステータス画面をみると、相変わらず俺の使用できる魔法はない。加えてそもそも魔力ゼロだ。


「ショウゴ、【魔力マナイーター】で食べた魔法は、アイテム化されているはずよ。ステータス画面から使用可能だから!」


 なんだって? アイテム化だと? 俺はステータス画面を再度確認する。



 □-------------------------------


 使用可能魔法

 ・なし

 魔力マナ 0/0(最大保有魔力)


 使用可能アイテム

 ・ファイアーボール×8


 ☆特殊スキル

 魔力マナイーター →発動中


 ・吸収率2倍(LV1) 

 ※吸収した魔法を吸収率に応じてアイテム化


 ・魔力吸収口マナマウス →発動中


 □-------------------------------



 おお! 使用可能アイテムってのがあるぞ!

 これはさっき食べたファイアーボールだな。しかし8個も食べたか?


 いや……待てよ。この吸収率2倍というやつが影響しているっぽい。

 たしかファイアーボールは合計4個食べたから……2倍で8個ってことか!


「よし! ファイアーボール使用だ!」


 俺は、ステータス画面からアイテム使用操作をする。



 □-------------------------------


 使用可能アイテム

 ・ファイアーボール×8

 ↓

 使用方法


 ・単発使用

 ・複数同時使用

 ・合体使用


 □-------------------------------



 おお、なんかいっぱい選択肢でた!


 ここは複数同時使用でいくか。多勢に無勢だしな。3発同時使用だ。

 アイテム使用ボタンを押すと、勝手に俺に口がひらく。


三連火炎魔法トリプルファイアーボール!」


 俺の右手から3つの火炎球が同時に発射される。

 火球は3つの軌跡を描いて、黒ローブたちに襲い掛かる。


 予想外の反撃を受けて、黒ローブたちはあわてふためく。


「な、なんだ詠唱もなしに……!」

「馬鹿なぁ! ファイアーボールを同時に発動したぞ! なんだあの魔法は!」

「ひぃいい! やっぱり変態だぁ」

「ひるむな、応戦だぁ!」


 再び黒ローブたちからファイアーボールが多数飛んでくるも、全て【魔力マナイーター】によってモグモグしてやった。

 さらに、アイテム使用でのファイアーボール返しで反撃する。


「クソぉ! こんなところで我々の崇高な活動を邪魔されてたまるかっ! 全ての魔力を使用して排除する!」


 ボスが業を煮やしたのか、杖を頭上に掲げて長い詠唱を開始する。


「―――炎の神よ我にその力を与えたまえ! 上級火炎魔法ハイファイアーボール! 骨も残さず、けし炭になれぇい!」


 杖の先から巨大な火球が俺めがけて飛んでくる。

 今までのファイアーボールとは比べ物にならない大きさだ。


「はわわわ~ショウゴ~これ大きすぎよ~死んじゃう~」


 見習い女神のミーナが、両手両足をシタバタさせてイヤイヤしている。

 女神の威厳などみじんもない。


「だが……」


 ガブリっ!


 俺の前に再び現れた大きな口は、巨大な火球にかぶりついた。その大きなあごを上下させて火球を少しずつ咀嚼していく。


「熱っつ!」


 うおっ! 上位魔法だからなのか流石に熱いが……俺の食欲は……



 ――――――こんなもんじゃ止まらんぞぉおおおお!!



 ガブリっ! ガブリっ! ガブリっ!


「こいつは…極上ロースだ! ハフハフハフ……! ふ~最高!」


 さすがにデカいしかなり熱いが、食いごたえ抜群だな。

 アッと言う間に巨大な火球は俺の胃袋に吸収されていく。


「熱っ! うまいっ!」


「ふわぁあああ~し、ショウゴ~大丈夫!?」」

「うむ、ちょっと熱いが全然いけるぞ! ハフハフ!」

「ハフハフって……どんだけ美味しそうに食べてるのよぉ~~ショウゴの胃袋は底なしだわ」


 ミーナが驚きを通り越して、半ば呆れ気味な顔で俺を見る。

 そうこうするうちに、ボスの放った巨大な火球は全て俺の胃袋におさまった。


「ば、バカなぁああ! わしの上級火炎魔法ハイファイアーボールをたべよったぁあああ!」


 ボスが衝撃の叫び声をあげたが、この程度の食事なら朝飯前だ。正直なところ準備運動である。


「ふぉ~~うまかった~!」


「わ、わ、わしの最大級魔法が……あり得ん! こんなことが……」


「何をやっている! もっと撃ってこい!」


「「はい?」」


 ミーナとボスの声が重なる。


「ちょっ! ショウゴ何言ってんのよ! あんなの何発も撃たれたらいくらショウゴでも持たないわよ!」

「ふざけるなぁ! わしの全ての魔力を込めた上級火炎魔法ハイファイアーボールだ! バカスカ撃てるかぁああ!!」


 どうやら、ボスは全ての魔力を使い切ってしまったらしい。


 てことは……これで終わり!?

 え? え? 終わり? 


 つまり、おかわりはもうない!?


 ウソだろ……マジかよ……本番にすらいってないぞ。これがテレビ番組なら完全にお蔵入りだぞ。


 俺はがっくりと肩を落とした。あんまりだ。消化不良にも程がある。そんな俺の脳内に再びスキルの声が響いた。


上級火炎魔法ハイファイアーボールを吸収、アイテム化しました。』

『吸収率3倍にレベルアップしました』


 ステータスプレートを開いてみると、ハイファイアーボール×3の文字が。ちなみにファイアーボールは食べまくって32個ある。

 さらに吸収率がレベル2となっている。なるほど、3倍だからハイファイアーボールも3つゲットというわけか。


「全くもって食い足りないが……無いものは仕方ない」


 俺も子供じゃない。番組でも想定外に料理が足りなこともあったしな。もう食べられないとなったら、やることは一つだ――― 

 この合体使用というやつ、使ってみるか。俺はスキルプレートのアイテムを選択する。


 ハイファイアーボール×2を合体使用だ!


二重上級業火火炎魔法ダブルハイヘルファイアーボール!」


「はわぁあああ~ショウゴ! な、な、何よ~そのクソでかい火の玉ぁああああ!?」


 ビックリして腰を抜かすミーナの眼前を横切って、巨大な火球が高熱をまき散らしながら飛んでいく。


「うお……でか……」


 俺自身が、思わず呟いてしまった。


 複数使用が食べた魔法をそのまま複数出すのに対して、合体使用は1つの魔法に合体させるということか。


「なんだあの魔法は!?」

「ひぃいい逃げろ~」

「うろたえるな! 魔法障壁だ!」


 大混乱に陥った黒ローブたちのど真ん中に、巨大火球が激突する。

 ――――――瞬間、轟音が周辺に響き渡り、爆風が押し寄せてきた。


「ぐわ~~~~」

「ひゃあ~~~」


 黒ローブたちが、次々と吹っ飛んでいく。

 なんか魔法のバリア的なので直撃は避けたようだが、強烈な火炎と爆風に圧倒されて、煙を上げながら飛んで行った。


 ふう……なんとか乗り切れたようだ。


「ご馳走さまでした!」


 俺は食後の一礼をするのであった。

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