【胃袋無限のマナイーター】元大食いチャンプ、魔王討伐のために転生したが、女神の手違いで魔力ゼロのモブに。ところが与えられた外れスキルが俺にとっては最高だった~魔法が使えない? なら全部食べればいい~

のすけ

第1話 元大食いチャンプ、異世界へ転生する

「ん? どこだここ?」


 会社からの帰宅途中だったと思うんだが。いや、小さな女の子がトラックにひかれそうになってたような……思い出せない。

 周辺を見回すと、宙に浮かぶ神殿ぽいのや、空まで続く空中階段など見たことのない世界が広がっている。


「はいはい~あなたは第2天国です~、あなたは~残念~地獄行き~」


 なんか交通整理をしている人がいる。背中に羽が生えていた。


「ここは、あの世か……?」


 俺は自分の置かれた状況が呑み込めぬまま、あたりをうろつき始めた。しばらくして…


 くんくんくん……おお! この匂いは……

 匂いをたどって歩いてい行くと、神殿らしき建物にいきつく。


 神殿の扉を開けると、旨そうな山盛りの料理がテーブルの上に置かれていた。


「なるほど、死んだとしてもここは天国だな……では」


 頂きます!


 ムシャムシャ……うまいうまいうまい! こりゃ最高だ!

 俺がガツガツ料理を堪能していると、うしろから取り乱した声が響いた。


「ふわぁああ、なによあんた! どっから入ってきたの…ていうかなんで神殿に入ってこれるの!?」


「うん……? 君は?」

「ふぇ? あ、あたしは女神アフロディーナよっ! ここは勝手に入れないはずなのに……」

「いや、普通にいい匂いにつられて来ただけだが」


 彼女はどうやら女神らしい。あまりそうは見えないが、ムシャムシャ。


「ええ~匂いで神殿に入れるとか聞いたことないようぅうう」


 と、若干半泣きになりつつ、女神がノートパソコンみたいなやつを取りだして、ポチポチやりはじめた。ふむ人差し指2本でのタイピングか、昔の部長を思い出すな。


「え~とあなたはオオミチ ショウゴね、38歳男性で独身っと」


 ムシャムシャ


「え~と、トラックにひかれて死亡。あ、小さな女の子を助けてたんだ~えらいっ!」


 ムシャムシャ


「へぇ~大食い選手権で優勝経験ありだって~凄いわね~」


 ムシャムシャ


「―――って聞いてるの? さっきからずっと食べてるけど! ふつう女神とか出てきた時点でビックリするでしょ! ていうかあなた死んだのよ!」


「え? ああ…俺死んだのか…確かにショックではあるよ。でもあの女の子が無事に助かったのなら、俺の死も無駄じゃ無かったってことだしな。まあ社畜人生だったからな……って、あ~~~しまった!?」

「ひっ、なに急に! ようやくことの重大さに気付いたの?」


「明日の3カ月ぶりの休みは、焼肉食べ放題に行く予定だったのに…ムシャムシャ」


「はぁ……死んだのになんで食べ放題の話なのよ……ってちょっとぉ! すぐにムシャムシャに戻らないで!」


「ん? 俺は食べることに関しては絶対に手を抜かんぞ! ムシャ」

「はぁ、わかったわよ。ある意味物凄い度胸があるのかも……度胸? そ、そうだ! ねぇ~ショウゴ」


 突如として、不自然な猫なで声を出し始める女神。怪しさが丸出しじゃないか。


「ちょっと、剣と魔法の世界に転生してみない?」

「転生だと? アニメとかでよくあるやつか? なぜそんなことをするんだ?」

「簡単なミッションをクリアしてほしいのよ~クリアしたらご褒美として好きな世界に行かせてあげる。凄いでしょ、そこで大金持ちになったり、王様になったら~やりたい放題よ~」


「随分と気前のいい話だな……リターンが大きすぎる。本当に簡単なミッションなのか?」

「も、も、もちろん超簡単よっ! な、なによ! 疑ってるの? 不敬だわ! あたし女神なんだからね!」


 この女神、勝手に自爆し始めているかのようにアワアワしている。が……それよりも気になるものがある。

 というか、女神とやらに会ってからずっと気にはなっていた。


「おまえのおでこに貼ってある、その若葉マークはなんなんだ?」


「へっ? な、なんで見えるの!? あ、ああこれね。お、お洒落よ、天界で流行ってるのよ」


 なるほど……


「お洒落だと……いやそもそも女神というのも怪しくなってきた。なぜ強引に話を進めようとする?」

「ちょっ! ふざけないでよ! あたしだって一生懸命やってるんだから! ミッションの難易度が高すぎて、誰もやってくれないだけだもん!」


 全部ゲロったな。


「なるほど、おまえは死者を転生ミッションに行かせるべく、勧誘しているといったところか」

「うぅう……そうだよぉ」

「そして察するに、おまえは死者の勧誘にことごとく失敗しているわけか」


「そうですぅうう~じつは初心者なんですぅう。見習い女神なんですぅう~ふわぁああ~~ん!」


 うわぁ、泣いちゃったよこの女神。


「すまん、ちょっと言い過ぎた。見習いならば失敗もするだろう」


「1人じゃ不安でぇ~、だれも助けてくれなくてぇ~。毎晩頭痛がひどくてぇえ~扉開けたらあなたがムシャムシャしてて~わぁあああん」


 いかん、めちゃくちゃ泣き始めた。とりあえずはこの女神の話を聞いてやろう。


「それで、どんなミッションなんだ?」

「えと、私の担当異世界に~魔王がいて聖女がいて~ペラペラペラ~痛っ!!」


 舌を噛んだらしい。

 だめだ。要点をまとめてやらんと、わけがわからん。


「まとめるとだな、おまえはざっくりと未来をみることができる」

「そ、そうなの! 凄いでしょ!」


「魔王がその世界の均衡を大きく崩す存在として出現してしまった。担当女神としては対応の必要がある」

「そうそう、天界ではイレギュラーと呼ばれる存在よ~各世界の担当女神は、転生者を送り込んで対処するの。あたしの美しさの方がイレギュラーだけどね」


「聖女が魔王を倒す唯一の鍵になるはずだったが、魔王と対峙する前に殺されてしまう」

「そうなの! 魔王打倒には聖女が必須アイテムなの! あたしの方が清楚でかわいいけどね!」


「よって、聖女を護衛して、魔王を倒せばその異世界は滅びずに済む」

「魔王がイレギュラーに強すぎて…だ~れもその世界に転生してくれなくて……ううぅ……グスっ」


 途中まで、無駄なあたし自慢していた見習い女神が、再び泣き虫女神になりはじめた。


 まあそれはいいとして、そうだな……俺が死んでしまったことはしょうがない。

 それにこの女神。ポンコツ臭はするが、俺から料理を取り上げるようなことはしなかった。好きに食べさせてくれている。


「わかった。転生してそのミッションを受けよう」


 おれは女神の頭をポンと軽く叩いた。


「ほ、本当? いいの? あ、ありがとうショウゴ!……グスっ」

「ああ、構わない。だからもう泣くな」

「だって…他の人は色々聞いてきて~一生懸命説明したら~最後はそんな難しくてめんどくさい事したくないって言われちゃって……グスっ」


 勧誘の仕方に問題があるような気もするが、それは学んでいけばいいだろう。


「ああ、一飯の礼はしっかりとする。ただし俺は魔法とか使えんぞ。ミッションクリアは確約できんからな」

「ふふ~そこはまかせてよ。あたしの女神パワーで、伝説の最強魔導士である魔力マナマスターの体に転生させてあげる!」


 再び見習い女神が、ノートパソコン的なものをいじり出した。

 う~む、相変わらず人差し指2本で、キーボード打ちこんどるな。

 変なクセがつくまえに、五指とホームポジションを教えてやった方がいいのか。


「えと、えと? ここをクリックして? んで、んで、こうだったかな?」


 おい、操作に「?」が多すぎるぞ。


「え~と、設定完了とっ。これで異世界に行ったら、ショウゴは序盤からチート最強魔導士よ。それに20歳のイケメンナイスガイ! やったわね」


 見習い女神が俺の設定を完了させたようだ。たしかにモブの一般人が魔王討伐とか無理があるからな、お決まりのチート設定は必要だろう。

 

 そこへ一筋の光が俺たちのいる場所に降り立ち、神々しい声が周辺を包み込む。



『ようやく、転生者をみつけたようですね。アフロディーナ』



 光と共に現れたのは、エレニアという女神さまだった。

 ビビるぐらいの美人で、知性が漏れ出ているような佇まい。


「おお……まさしく女神さまに相応しい人だな」


 見習い女神の上司だそうだ。ちなみに管理している異世界の数は見習い女神の100倍以上らしい。


「な、なによ! あたしだって女神よ! ほら! 胸とかわたしの方が勝ってんだから! ほら! ほら!」


 見習い女神が、己の大きな膨らみを力の限りブルンブルンさせている。

 おまえがダメな原因はそういうところだぞ……。


『まあまあ、2人ともすっかり打ち解けているようで何よりね』


 女神エレニアが柔らかい微笑みを俺に向ける。


『アフロディーナから話は聞いているようですね。では、私が異世界への扉を開けます』


 どうやら見習い女神は、まだ異世界への扉をうまく開けられないらしい。


『あ……その前に。ミッションクリアの報酬ですが、なにかご要望はありますか?』

「肉に埋もれ続けたいっ!」


 俺は己の欲望というか願望を忠実に宣言した。

 やはり、ここは王道の肉だろう。最も好きなものに埋もれるというのは、俺の夢だからな。前世も、死ぬほど楽しみにしていた焼肉食べ放題に行けなかったし。


『な……なるほど……ちょっとすぐには浮かびませんが、ご要望に近い世界を探しておきましょう』


 おお! そんな夢の世界があるんか!?

 報酬の件で、一気にテンションがあがったぞ、俺。


 絶対にミッションをクリアしてやる。


『では、ショウゴさんいきますよ。できる限り聖女の近くに転移させましょう。幸運を祈ります』


「じゃあねぇ~ショウゴ~頑張って~私も空から応援してるね~」


 ……って


「なんで私も光ってるのぉおおお!?」


『アフロディーナ。あなたにも管理責任があるのですから、ショウゴさんの助けになりなさい。たまには下界で経験を積むのも良いでしょう』


「「え~~~」」


「ってショウゴ! なんであなたも拒否ってんのよぉ!」

「いや、だって定番のポンコツ女神と同時転生とか、ヤバい事しか起こらないと思ってな」

「なによ定番のポンコツ女神って!」


『ふふ、ショウゴさん。アフロディーナをよろしくお願いしますね。では―――』


 光の渦が出現して、俺たちを包んでいくのだが……


「またれよ! 女神エレニア殿!」


「え? どうかしましたか? ショウゴさん?」


 俺は転生にストップをかけた。女神エレニアが困惑した目を俺に向ける。


「ど、どうしたのよショウゴ……まさかやっぱり行きたくないとか」


 見習い女神が不安そうな声を俺に向ける。が…そんなことでストップをかけたのではない。


「まだ残っている」


 俺はテーブルの上の料理をビシッと指さした。


「あの? その料理がなにか……?」

「俺は人生でお残しをしたことがない! これだけは曲げられない! 俺の絶対ルールだ!」


 ムシャムシャムシャ


「うわぁ、今のシーンをいったん止めて食事再開するんだ…ま、まあ食べ物を粗末にしない心は大事だけど」


 ムシャムシャムシャ


「いやいや……女神2人棒立ちで、ムシャムシャ音だけ聞こえるって……どんだけシュールなんですかぁああ」


 ムシャムシャムシャ


「凄い、一切ブレずに食べてる。よく考えたら神殿全員分の食事じゃない……どんだけ食べるのよ。もしかしたらショウゴはもの凄い大物なのかも」


 ムシャムシャという咀嚼音のみが響き始めてから数分後。


「ふぅ~ご馳走様でした。美味かった~。さてエレニア殿、異世界送りとやらをやってくれ」

「え……あ……はい……では…コホン」


「エレニア殿。難易度は高いが、なんとしても異世界を救ってきますよ。なあミーナ」

「そ、そうだねショウゴ……ところでミーナって誰!?」

「君のことだ、見習い初心者女神アフロディーナ、略してミーナだ」


「あの…そういうやり取りは現地でお願いします……ではショウゴさま、異世界とミーナをよろしくお願いします」

「うう……あたし頑張りますぅ。ミーナも決定なんですねぇ」


 女神エレニアがにこやかに手を振ったかと思うと、俺たちは光の渦に巻き込まれていった。




 ◇◇◇




 光の渦から出てきたかと思うと、俺たちは薄暗い洞窟の中にいた。


「ふわぁああん。ショウゴ~なんか暗くて怖いよぅうう」

「こら引っ付くな歩きにくい」


 見習い女神のミーナが、泣きながらへばりついてきた。その大きな膨らみがギュウギュウに押し付けられてくる。


 黄金色の髪に、琥珀色の瞳、背丈はそこそこある。そして天界でもご自慢のでっかい膨らみが2つ。

 ここに知識やら落ち着きやらが、吸収されているんじゃないだろうかと思われるほどの存在感だ。


「うむ、もっとこうワープぽいの期待していたが、普通に歩くとはな」

「グスっ、たぶんこの洞窟を抜けたら目的の異世界だと思う~~」


「お、なんか体が……!」

「うぅ、あたしがインストールした体に転生したのよ。伝説の魔導士だから。グスっ」

「おお!魔力マナマスターとやらか! う~む魔法か。食の次に興味があるぞ!」

「もう…どんだけ食べるの好きなのよ……でも頼りにしてるからね」


 ミーナがポツリと呟いた。

 登場してから泣きとボヤキばかりだったが、素直なところもあるんだな。


「あ、ショウゴ、出口よ! あれ? 誰かいるわね」

「おお! あれ聖女じゃないか? たしか銀髪だったよな?」

「やった! ショウゴそうそうに出会えるなんて、ラッキ~よっ! エレニアさまのおかげね!」


 ミーナが急に出口に向かって駆け出した。俺も後を追う。20歳の肉体に転生したからか動きがいつもより軽い。

 出口の外は、街道だった。左右に森林が広がっている。街中ではないようだな。


「キャアアアアア!」


 女性の悲鳴が響く。

 先に出たミーナが、プルプルと立ち尽くしている。



「―――ってショウゴぉ! 周りに怖そうな人、いっぱいいるんですけど!」



 ミーナの言う通り、黒いローブのさもヤバそうな奴らが、馬車を取り囲んでいる。

 悲鳴の主は、馬車の傍にいる銀髪の美少女だった。


「なんだあいつらは! どこから出てきた?」

「わ、わかりません! 光ったかと思えば急に現れました! て、転移魔法!?」

「誰だろうとかまわん! 目撃者は全員始末しろぉおおお!」


「ミーナ、なんかこれはヤバいんじゃないか?」


「ヤバすぎよぉおお! ふわぁああん! とんでもない場面からスタートしてるぅううう!!」



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【読者のみなさまへ】

いつも読んで頂きありがとうございます!


少しでも面白い! 続きが読みたい! ショウゴとミーナを応援したい! 更新頑張れ! 焼肉食べたい! と思っていただけたら、

作品のフォローと☆評価(作品ページ又は最新話一番下の【☆☆☆】を【★★★】星3つに)していただけると作者の大きな励みとなります!


これからも面白いお話を投稿できるように頑張りますので、

引き続き応援よろしくお願いします!



【新作投稿開始のお知らせ】


新作を投稿開始しました。

ゲーム世界の悪役貴族に転生した俺、最弱の【闇魔法】が実は最強だったので、破滅回避の為に死ぬ気で鍛えまくっていたら、どうやら鍛えすぎてしまったようです~なぜかメインイベントを俺がクリアしてしまうのだが~


https://kakuyomu.jp/works/16817330667448047388


ゲーム世界の悪役に転生してしまった主人公が、破滅回避のためにクソ魔法を極めて最強になります。

よろしければ、是非お読みください!





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