縄文の女神 -異世界なんてないんだよ-
モモん
第一章
序章
「……どっかに、異世界行きの穴開いてねえかな……」
「あっ、先輩も昨日のアニメ見たんっすね!」
「ああ、お前も見てるのか。」
「勿論っすよ!」
「何だそれ」
「異世界の果てまでイッテキュウ!だよ。毎週金曜の7時からやってるやつ。」
「TVなんか見ねえよ。それに、高校生にもなって異世界なんて信じてんじゃねえよ。」
「やだな、会長は夢がないですよ。」
「そうだぞ、特殊能力を得て神のお告げにより局長を討伐する!こんな夢の溢れる世界に行きてえと思わねえのかよ。」
「何だよ局長って!そんなとこ行くくらいなら考古学の世界に行きてえよ。」
「また会長の趣味が始まった……」
「まったくだ。今時、首から勾玉ぶら下げてる高校生なんて、お前ぐらいしかいねえよ。」
ここは神奈川県大和市つきみ野にある某県立高校の生徒会室だ。俺は会長の蒼神奏也(あおがみそうや)、高校2年で生徒会長をしている。身長176cm体重57kg少し痩せている。髪は黒で左で分けている。部屋にいるのは副会長の八神龍司(やがみ りゅうじ)と書記の御柱実琴(みはしら みこと)。リュウジは同級生で、身長は俺より高く180cmとか言っていた。子供のころから剣道をやっているとかでがっしりしている。髪は黒で短髪で今日はネイビーブルーのジャージ姿である。ミコトは名前から女と間違えられるが高校1年の男子だ。身長は170cmくらいで、三人の中では一番小柄である。茶髪に長めの髪で目がクリっとしている。今日は俺と同じくジーンズに白のパーカーを着ている。何で共学なのに男ばかりの生徒会なのか……こっちが聞きたい。各役職ともに女子の立候補者はいたのだ。選挙結果が最悪のパターンになった……それだけである。それが3週間前のこと。
今は土曜日の午後で学校は休み。グランドの整備工事もあって部活は中止。俺達は来週の文化祭の準備でここにいるって訳だ。
『ピコーン!ピコーン!ピコーン!』
三人のスマホがアラートを告げた。リュウジがいち早くスマホを確認する。
「なんだ!」
「N国がミサイルを発射したみたいだ!」
「またかよ!」
「推定では東京と神奈川の県境辺りが危ないみたいだ。到達推定時間は23分後!付近の住民は、なるべく丈夫な建物に避難するようにって!」
「23分じゃみんな家に帰れないな」
「丈夫な建物っていうと、ここにいるのが良さそうっすね」
宿直の教師から確認の電話が入ったが、三人とも無言のまま時間が過ぎていった。
「あれっ?」
「どうした?」
「空で何か光った……」
「まさかミサイルか?」
「どうだろう……」
俺は窓際まで歩いて行った。西向きの窓である。半島からの飛来物であれば、確かに方向的にはあっている。その瞬間、空を眩しい光が覆った。咄嗟に左手を顔の前にかざす。だが、続いて訪れるはずの爆発音や衝撃はこなかった。
「な、何が……」
リュウジの応えようとした瞬間、世界がグニャリと歪んだ。そして世界は一変した。正確にいえば窓の外の景色が変わった。部屋の中に変化は無いように見えた。
「なんだ……これ」
「い、異世界じゃね……」
「いや、あれを見ろ」
俺の指さす先には見慣れた山がある。
「富士……山っすよね……」
「ああ。だが……」
「だが?」
「南側の斜面……に、宝永噴火の跡がないんだ。」
「宝永噴火って?」
「ほら、中腹が少し凹んで歪になってただろ。あれは300年前の噴火の跡なんだ。」
「それが無いって……、どういう事なんだ?」
「タイムスリップかパラレルワールドかって考えた方が妥当だろうな。」
「並行世界っすか。それも面白そうですね。」
「まてまて。なんで簡単に受け入れてんだよ。ソウヤ、何があったんだ?」
「俺にもわかんねえよ。西の空で何かが……、多分ミサイルが爆発した。自衛隊の迎撃なのかどうかは分からねえな。」
「光は届いたとして、音や衝撃波はどうなったんだ?」
「そのエネルギーで飛ばされたとか考えられますね。」
「そんなのでタイムスリップとかあるんなら、北でやってる戦争でいくらでも発生するんじゃねえか。そんな話、聞いたことないぞ。」
「核だったのかもしれないな。元の世界がどうなっているのか分からないが、とりあえずこの状況を受け入れるしかないだろう。」
「受け入れるとして、次はどうすんだよ?」
「ほかに巻き込まれた生徒がいないかどうか。あとは校舎の範囲と使える物の確認だな。」
「了解。会長の指示に従いましょ。」
俺たちは他の生徒がいないか声をかけて回り、使えそうな物をチェックした。中でも隣の図書室や、3階の食堂の機材を使えるのはありがたい。
「それと、裏庭の非常災害倉庫が一緒に飛ばされたのはラッキーだったな。コンクリの基礎を見ると、あと1メートルずれてたらアウトだった。」
「水と電気はダメっすね。」
「じゃあ、トイレは外だな。こう考えると男だけでよかったな」
「ああ。あとで穴を掘っておこう。」
「それで、人の痕跡がないってのはどういう事なんだ?」
「屋上に上って回りをチェックしたんだが、360度に人家らしきものは見当たらない。ただ、南西……大和駅の方角に煙らしきものが見えた。」
「それって、原始時代とかって事か?」
「いや、木とかは現代とそれほど差があるようには見えないし、気温から考えても1万年以内の世界だと思う。それから、つきみ野ってのは8000年前から何千年前の集落があったはずだから、一番古くても8000年前だと思う。」
「その手前は?」
「古墳時代に集落ができ始めたから、1700年前から8000年前までって可能性が高いな。」
「サスガ委員長!伊達に勾玉をぶら下げてないっすね!」
「その時代だとして、危険は?マンモスとか出るんじゃないのか?」
「その時代なら、それほど大型の哺乳類はいないはずだ。多分、クマ・イノシシ・シカ・オオカミくらいだろう。」
「丹沢とかのイメージっすね。食べられそうなのって、イノシシ・シカ、あとはキジと魚……」
「野菜も何とかしないとな。」
「食堂にタマネギやジャガイモがあったぞ。それとニンジンと……植えられるのって、それくらいかな。」
「あっ、図書室に穀物の種ってサンプル集がありましたよ。20種類とか書いてありました。」
「それ、ラッキーだよ。コメやダイズをどうしようか考えてたんだ。」
「コメなんて、こっちの人間を見つけて分けてもらえばいいじゃねえか。」
「稲作が始まったのは3000年くらい前で、九州から日本海側を通って伝播されていくんだ。これだけの平地に痕跡が見られないってことは、まだ広まっていないと見るべきだな。つまり、弥生時代じゃなさそうってことだ。」
「それって……」
「縄文時代の可能性が高い……」
「マジかよ!やっぱ、原始時代じゃねえか!」
「うーん、学校じゃあんまり縄文時代のことを教えてくれなかったんだけど、最近の研究では結構文化的な生活をしてたって分かってきたんだ。」
「だって、石器時代だろ。」
「うん。確かに縄文時代は新石器時代に該当するんだけど、ウホウホいって獲物を追い回してた訳じゃない。竪穴式住居を作って、集落を形成して暮らしていたんだ。しかも、争いのない交易の盛んな時代なんだぜ。」
「いや、意味わかんねえよ!」
寝床に選んだのは食堂の休憩室だ。3畳の畳敷きで、幸いなことに、押し入れから布団を3組発見した。電気はないものの、スマホ用のバッテリーがソーラー充電式で、しかもLEDライトがついている。それを非常灯として枕元に置き、俺たちは眠りについた。
【あとがき】
そもそも、日本の歴史に興味のなかった私が縄文時代に興味を持ったのは、YouTubeの「むすび大学」というチャンネルを見るようになってからです。世界4大文明の一つといわれてきた中国文明の模造品程度の認識であった日本という国が、実は太古の昔から独自の文化を築き上げてきたんだという事実に直面して、自分の根底が組み替えられるほどの衝撃を受けました。日本という国を見つめなおしてみませんか?
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