第7話 中国・四国地方はこんな感じ
「こっちぞな広島!」
愛媛は港まで広島を迎えにきていた。広島が愛媛に相談を持ちかけたのだ。
広島は愛媛を見つけると、走ってそちらへ向かった。
「……猫?」
「気にせんで。きっと尾道の猫じゃ」
広島の背中には猫が数匹乗っていた。
「船できたんじゃのぉ。しまなみ通って来なんだの?」
「せっかく晴れとるんじゃけぇ、船で行きたかったんじゃ」
「雨降らんもんね、瀬戸内海って」
「今日は相談があるんぞなもし。近所のカフェで話す? 俺、オススメのお店あらい!」
「せっかくじゃけぇ愛媛の家に行きたい。前見た時もえっとじゃったけど、書斎の本は増えたの?」
「もちろん増えたわい! 最近ええ俳句読む人が多うてね、いつも参考にしとるんだ!」
愛媛の家に上がった広島は少し固くなった。緊張しているのだ。
「ほいで、相談って? いつもの?」
「岡山にまた絡まれた……そがいにヤンキーに見えるかな」
「周りから見たら広島弁はおとろしいってよう言われるしね!」
「岡山からはいつも『強い女じゃけぇ戦いたい!』言われてばかりなんじゃ……喧嘩はしとうないよ……」
広島の悩みの種は岡山である。岡山からは同じ中国地方の都会として、よく絡まれているのだ。
岡山は桃太郎のように力もあり、桃色の服をよく着ていて可愛く見えるが、ヤンキーである。交戦的で、周りの県に喧嘩を売っている。
広島は普通の女である。瀬戸内海を繋ぐ船の操縦士もしていて、きちんとした社会人である。喧嘩とは無縁で過ごしたいのにも関わらず、岡山はよく広島の家や船に突撃するのだ。
「香川にやめるよう言うてもらうように頼んでみよわい。俺は仲良うないけんど、香川とは仲ええし」
愛媛の言葉に広島は「ありがとの」とお礼を言った。
直後である。岡山がやって来た。唐突なことで、広島は驚いて机の下に潜った。
「広島! 今日こそ勝負しろ!」
「人の家で暴れるな!!」
愛媛は岡山の頭を歳時記で叩いた。痛みに悶絶する岡山を無視して、愛媛は広島を机の下から出した。
「いってぇぇぇ!!!」
「全く、最近の若者はなんでこなぁに血の気が多いんじゃ」
ため息をつく愛媛に、岡山は頭を押さえながら言った。
「うるせーぞ高知!」
「愛媛じゃ馬鹿者。四国の一つも覚えられんのか」
すると、愛媛の家の屋根裏からドタバタと音が響いた。
「泥棒!?」
岡山がすぐに身構える。しかし、屋根裏から天井を突き破って落ちて来たのは、泥棒ではなく高知だった。
「誰かわしのこと呼んだ!?」
「「「いいや」」」
三人の一致した返事に高知は肩をガクッと下げた。彼は暇なのだ。ものすごい暇人なのだ。
「なんで俺の家におるんぞ。不法侵入はキモいぞな」
愛媛は高知と岡山にそう言いながらも、席に座らせてポンジュースを出していた。高知はやけに周りを気にしている。
「香川と喧嘩しちゅーがぜよ」
「え、あいつ怒るんじゃな」
岡山が驚いたように言った。香川はうどんをたくさん勧めてくる以外は、文句一つない優しい男である。
「実は、香川にうどんばっかりを勧められて、つろうなったき水を止めたがじゃ」
「そりゃ誰でも怒ろわい! 特に四国は水がないんじゃけん」
四国の水事情はかなり厳しい。高知県には四国の水がめと呼ばれる『早明浦ダム』があり、四国全体の水を供給していると言っても過言ではないのだ。
「四国県民の分の水は供給しちゅーぜよ! ただ、アイツがうどんを作る分の水だけは無い」
「うーん、それもどうか思うけどな」
結局はどっちもどっちである。
鳥取は隣県の兵庫から、大阪と行うお笑い劇場の入場券を貰った。ちなみに公民館を借りて行うそうだ。
また兵庫の配慮なのか、ペアで行けるように二枚もらったのだ。そこで、神在月以外は暇な島根を誘って観にいくことにした。
「島根ってお笑い好きなのかどうか分からないけど、来てくれて良かった」
「ありがとう鳥取。私はいつも暇だし、偶にはこういうのも良い」
島根の家は毎年十月になると、全国の神々が集まってくるので、その準備や手伝いなどを行なっているのは全て島根なのだ。
ちなみに兵庫も神なので、十月は島根に行くのだ。和歌山は行く時もあれば行かない時とあるらしい。かなり大変な時は隣県の鳥取や、神に近い存在の宮崎が手伝いに行っている。
「その暇を分けて欲しいよ。いくら化身とは言え、アタイたち妖怪って毎夜人を脅かさないといけないから」
「休めば?」
鳥取は砂を操る妖怪であり、全国の妖怪を束ねている。日本全国色んなところにランダムに出張し、沢山の人を驚かせているのだ。
「兵庫が言ってたんだけど、関西の方言ネタの漫才らしい」
「それネタバレ」
「予想してみてねって言われたんだよ」
二人が公民館に着くと、よく知る近所の都道府県の顔があった。
「あれ、鳥取に島根や! なんでここに?」
そこにいたのは徳島だった。
「徳島こそどうして?」
「兵庫に呼ばれたんや」
「徳島もか」
島根が納得したように言った。彼は兵庫と明石海峡大橋で繋がっているため、交流はかなりある。だが、徳島はどちらかというと大阪と仲が良い。
「じゃあ一緒に見る? きっとみんなで見た方が楽しいよ!」
「そうやな!」
三人は公民館へと入っていった。
「はい! 皆さんお待たせしました! 大阪と」
「兵庫くんでーす」
「「今日は近畿の方言ネタやで!!」」
三人以外にも、何人かの一般の来客があった。きちんと笑いの声が響き、そこそこの人気を誇っているようにも受け取れた。
「意外とやったらできるんやな、あいつら」
「兵庫はあまり人を笑わせなさそうだから、ちょっと意外だね」
「また今度もお笑いやってごすかね。また行きてえな」
すると、徳島の携帯電話が鳴り出した。
「あっ!」
「大丈夫?」
「……電話や」
マナーモードにしていたので周りに響くことはなかったが、徳島は電話に出るためにホールを一度出た。
「おい香川! 今お笑い見よるの! 電話はやめて!」
『それよりも高知知らん?』
電話の相手は香川であった。彼は今、自分がうどんを茹でる用の水のみを高知に止められているので、頭に血が昇っているのだ。
「知らんでよ! 他の奴らに聞けよ!」
『愛媛は今広島とデートしとるけん行きにくいんじゃわい』
「あっそ。どうでもええけどあいつら付き合うとらんよ。……山口に聞いたら? 仲ええし、高知もそこに行っとるんちゃん?」
『確かに! ありがとう徳島!』
香川はすぐに電話を切った。徳島はため息をつきながら、ホールの中へと静かに入っていった。
香川は電話をしまい、山口の自宅へと向かった。山口は香川が訪れてきたことが珍しかったのか、笑いながらフグ毒を渡していた。
「珍しいな、香川がこっちの方に来るなんて。これやるよ」
「いらん!」
「遠慮するなって! それよりもどうして俺ん家に?」
「実は今高知探しよるんだけど、山口の家におらん?」
「なんで高知探してるの」
「水止められた」
「残念だけどここには居ないよ。それよりも聞いてくれよー」
山口は帰ろうとした香川を止め、そのまま自宅へと引き摺り込んだ。
「早う高地探しに行きたい」
「大丈夫だって! どうせ愛媛の辺りが説得してるよ!」
今度は山口はフグの刺身を出していた。無理矢理連れ込まれた香川は無言でうどんを食べていた。
「聞いてくれよ香川ー」
「嫌じゃ」
「福島に嫌われてるんだよー」
「嫌じゃ言うたし、そりゃいつものことじゃろ」
もう百五十年くらい経ったんだよと山口は机に突っ伏し、フグ毒を吐き出した。
「汚っ! ……そもそも、お互いの県の藩の人々の憎しみな元で起きた戦争やったじゃろ」
「俺も福島も直接関わってないのに」
「お前と福島が化身やったけんってあまり関わりはのうても、県の代表としても関わりにくいじゃろ。あとお前が構いすぎ」
「反応が面白いんだよ!」
香川はうどんを完食し、テーブルに広がるフグ毒を拭いた。
「でも、友達になれないのかな」
「まあ、福島が会津藩じゃのうて福島藩の武士で良かったな」
「はぁ……福岡に聞いても良いアドバイス貰えないしなー」
山口は香川に出したフグを自分で食べた。
(それ、共食い……?)
香川はそう思ったが言わないでおいた。
すると部屋の窓が開き、高知が家に入ってきた。きちんと靴は脱いでいる。
「あ、高知」
「山口、香川見なかったか!? わし今逃げゆーがぜよ! 愛媛に家から追い出された!」
山口は隣に座る香川を見た。怒りでプルプルと震えている。嫌な予感がしたので、その場からそっと離れた。
「俺ならここや!! 水よこせ!!!」
「はぁ!? なんでここに!?」
「問題無用!」
香川は容赦なく高知に回し蹴りをした。
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