第31話

 ヘカテーの言葉で全員が構えた。


 前方の暗がりになにかが地鳴りをさせ近づいてくる。

 

 ペイスとヘカテーが灯りの魔法を使うと、目の前には青い肌をした五、六メートルはある巨人が現れた。

 

「これがアガース!! ペイスとムーサ、ヘカテー援護お願い!」


 私たちは前に出る。 巨人はその巨大な一つ目をギョロリと動かすと、手に持った石中で殴り付けてきた。 


(予知!!)


「右に柱を振り下ろしてくる!! みんな左に避けて!! 柱の欠片後飛んでくるから姿勢を低く!!」


 ドガァァアアアン


 地面がえぐれ柱は砕けた。 すんでみんなは避ける。


「私たちがが先行します! シアリーズどの、オノテー、レイア、カンヴァルどのいくぞ」


 ヘスティアたちが前にはしる。


「私は目を!! ガストアイシクル!!」


 風と氷の魔法弾を目に打ち込んだ。 だが、意外にも俊敏な動きでかわした。


「くそ!! かわされた! 一つ目の癖になんで!? でも意識は引き付けたか!」


 アガースの足元の五人が左右、後ろか足を攻撃する。 片足は避けたが、もう片足を攻撃が成功しぐらついて倒れた。


「よし! 一斉に攻撃」


 みんなの魔法や打撃がアガースに集中すると、土煙が上がる。


「!!? みんなはなれて!!!」


 私はすぐみんなを呼んだ。


「どうしたのですヒカリ!?  かなりの傷を負わせましたよ!」


 ヘスティアがそばまできてそういった。


「だめ! よくみて!」


 土煙が晴れるとアガースは立ち上がった。


「おいおい嘘だろ! もう回復してやがる!」


 カンヴァルが驚いている。 アガースの傷は煙を出してすごい速さで回復している


(そうこいつ...... 傷の回復が異様に速い。 だから不死のアガースなんて呼ばれたのか...... さっき予知ですぐ再生したこいつに攻撃を受けみんな吹き飛ばされるのがみえた)


「......生半可な攻撃じゃすぐ再生されるわね。 それに横や後の攻撃にも対応しているみたい」


 シアリーズはそういう。


「しかたない! ヒカリは策を考えてくれ! その間、我らであいつを止める!」


 ヘスティアたちはみなでうなづくと、前へはしる。


(傷を再生される...... やはりイコルを壊すしかない。 でもどこにあるか、考えられる場所は......)


「ペイス! 水をあいつの足元に!! みんなそいつから離れて!」」


「はい!! アクアショット!!」


「アイストルネード!」


 みんながアガースから離れたのをみはからい、私は氷と風を放った。 ペイスの放った足元の水が凍ると、アガースが体勢を崩し地面に手をついた。


「ロックゲイル!」


 私が放った岩は風をまとい高速でアガースの目を貫通していく。 


「よし! なっ!」


 アガースはそれでも動いている。 


「目じゃない!! なら! ペイス、ムーサ炎と風を!」


「ええ! フレイムアロー!!」


「はい! エアロショット!!」


 ペイスとムーサの炎と風の魔法を魔法弾で貫き加速する巨大な炎弾とした。 それはアガースの胸を撃ち抜き、大きな穴を穿つとアガースは地面に倒れた。


「やったか!」


「いや、まだよ!」


 シアリーズがそう叫んだ。


 アガースがゆっくり立ち上がる。 もう胸の傷は塞がりつつあ

った。


「なにこいつ!! 頭も胸にもイコルがない!!?」


(もしかして、前のキノコみたいに体内を移動させている!?)


「ヒカリ!」


 振り替えるとヘカテーだった。


「多分、このモンスターにはイコルない! 魔力どこか別のところから感じる! でもどこかわからない......」


(そうか、ヘカテーは魔力が感知できる...... でもあいつにないならどこ!? まさか他にもモンスターがいるの!?)


 私は周囲をつぶさに観察する。 前ではアガースとヘスティアたちが戦っている。

 

(あまり時間はかけられない...... もし、ラジコンやドローンみたいに遠隔操作してるなら、みえる位置にいるはずだ)


「よし! エミリーは風の魔法、リレア水を上に大量にお願い!」


「上!? わかりました! アクアスプラッシュ!!」


「はい! エアリアル!!」


 上の方に大量の水の弾が放たれる。 私はガンブレードから放った炎の魔法は風で巨大化し、大量の水を蒸発させる。 するとアガースが下のヘスティアたちを見失ってうろついていた。


「やはり上か! みんな天井の方に攻撃を拡散させて!」


 私たちはスキルや魔法で天井を端から攻撃する。


「ギャア!!」


 そう声がすると、地面に一匹多数の羽をもつクジャクのようなモンスターが落ちてくる。 私はガンブレードでその鳥を両断した。


「おお! アガースが動かなくなったぞ!」


 カンヴァルがそういって、両腕をだらんとさげたアガースをみている。

 

「ということは、こいつが操ってたのか」


 ヘスティアはまっぷたつになった多数の羽に一つ一つに目のある鳥をみている。  


「そう、多分こいつが遠隔操作でアガースを操っていたんだ。 だからアガースは死ななかった」


 私がいうと、ヘスティアはうなづく。


「なるほど不死とはそういうことね......」


 シアリーズはうなづく。


 私たちは店へと帰還した。



「さて、報奨についてなんだけど...... どうする?」

 

 店に集まってもらったみんなに私がきりだす。 


「ヒカリが決めてください。 私は国に害をなす魔獣が排除できたことで満足です。 もはや私にはほしいものもしたいこともありません......」


 ヘスティアがそう哀しそうな笑顔でいう。


「......それなんだけど、ヘスティアに話があるの」


「私に......」


 私たちは魔獣討伐の事情をヘスティアに話した。


「なっ! まさか私のために魔獣討伐したのですか!」


「そうよ」


「バカな死ぬかもしれないのですよ! 私のためにそんなことをするなんて......」


 ヘスティアは絶句した。


「あなたは私たちの家族みたいなものでしょ、このまま牢獄に囚われる姫みたいな人生でいいの」


「......しかし、私には家を守るという使命もあります...... ありがたいのですが婚姻は受けます」


「......そういうと思った」


「今までこの家の名誉を守るため、何代も家のものたちは命をなげうってきたのです。 私がそう簡単に投げ出すわけにはいかないでしょう......」


「だからこその魔獣討伐だよ」


「どういうことですか?」


「家さえ守れればいいんでしょ。 なら......」



 次の日、私はヘスティアのお屋敷に向かう。 部屋に通された私はヘスティアの父、ヴァーライト卿と対面した。 そこにはヘスティアもいる。


 いかにも融通のきかなそうないかつい顔の男性が椅子から立ち上がり、私の手を握る。


「君がヒカリか、ヘスティアと共に再度の魔獣討伐に成功したのだな。 感謝する。 これで我が家の名声はたかまるだろう」


 そう笑顔でいった。


「して、今日、会いたいとはどのような話かな」


 そういってソファーに座ると対面に座るように促した。 私はヘスティアのとなりに座った。


「ええ、ヴァーライト卿、今日はお願いするに参ったのです」


「お願い...... 無論君たちには何らかの礼をするつもりだが......」


「ええ、ありがとうございます。 ヘスティアの婚姻の事......」


 そう私がいうと、その笑顔が急に厳しい表情へと変化した。


「......残念だが、その話は聞けない。 ヘスティアがこの婚姻に前向きてはないことぐらい私にもわかっている。 しかしこれは家を守ること、当主として我が家名を守ることこそ最も大切なことなのだ」


「でしょうね。 私がお願いするのはその事ではないです」


「ん? ならばなにかね」


「私の願いはあなたが当主を降りることです」


「なっ!? ばかなことを!!」


「そうでしょうか、特段なにかをなしたことのないあなたより、魔獣二体討伐に隣国の女王グレイシア救出の功を持つヘスティアの方が、当主にふさわしいと思いますが」


「あり得ない!」


「あなたがおっしゃったじゃないですか、当主としていてこの家を守ることこそ大切なことだ、と、まさかご自分の保身のために家の名誉を汚すおつもりですか」


「なっ!」


 驚くヴァーライト卿ヘ、へスティアが口を開く。


「お父様、今日より私がこの家を継ぎます。 貴方は地方の屋敷へと隠居していただきたい」


「ヘスティアなにを!?」


「この条件をのんでいただかなければ、国の報奨であなたの当主の地位を解任せざるをおえません。 なにとぞご決断を」


 ヘスティアは凛といいはなった。 その時、部屋に侍女や執事たちがはいってきた。


「おまえたち! ヘスティアに何とかいってやれ!」


 そう威圧的に声を荒らげる。


「旦那様、残念ながら我らはヘスティア様を当主にと考えております」


 執事のサイデルさんがそうきっぱりといった。 他の家臣もうなづいた。


「な、なぜだ!」


「わかりませんか父上、貴方は他の貴族と同様、家臣や家族に目をかけることもなく、地位があるなら傲慢は当然という考えだったからです。 今まで一度とて、みなの労をねぎらったことがありますか?」


 ヘスティアはそう静かにいった。


「旦那様、我らは地位こそ低いですが、人は人、心の痛みも感じます。 それを理解されていたのがヘスティア様でございます。 なればどちらに仕えたいかは必然ではございませんか」


 サイデルさんはそういって頭を下げる。


「今日よりこの家は私へスティアが継ぐ。 家名を守るため、ヴァーライト卿には隠居を言い渡す!」


 そうヘスティアは立ち上がり毅然といいはなった。 それを聞いたヴァーライト卿は言葉もなくうなだれた。

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