第25話

「ふぃー、やっぱり我が家はいいねー」  


 私は店のソファーに寝転ぶ。


「ヒカリ!」


「ひゃい!」


 私はビックリしてソファーに正座した。 ペイスが怒った顔で仁王立ちしている。


「ヘスティアさまから聞きました! あなたシアリーズさんと馬車を降りたそうじゃないですか!」


「ヘスティア何で言っちゃうの! あっ、あの、えーと、それは、ほら! シャーラスラがめちゃくちゃ悪いやつなら卑怯なこともするかもって思って、でも結構いいやつってゆーか......」


「そういうことを聞いてるんじゃないんです! なぜ危ないことをなぜするのかと、そう聞いてるんです!」


 ペイスの剣幕にびっくりする。


(こ、これは、ま、まじのやつだ......)


「あ、あの、ムーサ助けてぇ~」


「私もその件については、あの少し怒っています......」


 珍しくムーサも眉を潜めて悲しそうにしている。


「ふぁ! ムーサまで! でも仕方なかったの! どうしてもシアリーズを仲間にしたかったから......」


「............」

  

 無言でペイスがこちらを見つめている。


(うっ、だめだ)


「ご、ごめん、勝手に動いてしまったから」


「はぁ......」  


 ペイスは目をつぶると大きなため息をした。


「あなたが人のためにそうしたのはわかっていますが、その行動が他の人を悲しませるということに気づいてくださいね」


 そういうペイスは本当に心配そうな顔をしている。


(確かに無謀だった...... 思い込んだら、やってしまうのが私の悪い癖だ)


 久々に本当に反省した。


 その時、店の扉があいてヘスティアが入ってきた。


「お邪魔します」


「ヘスティア?」


「ええ、あなたたちにも事の顛末を話さなければと来たんです」


 そういうと、ヘスティアは話し出した。


 アズワルドに女王グレイシアが幽閉されていた事実が伝わると、ガルデムはとらえられた。 元々みなが納得した王座ではなかったため、家臣や軍もすぐ動いたそうだ。 関わったものたちは全て捕らえられ処罰されるという。


「それでグレイシアさまは?」


「もう国に帰られましたよ。 また礼をいいたいとおっしゃっていました」


「あっ! じゃあ、シアリーズは!!」


「女王が復権されたということは、また近衛騎士団に戻られるんじゃないかしら」


 ペイスがそういう。


「そ、そんな、せっかく仲間にしたのに......」


 私がガックリしてると、店の扉があいた。


「どうしたのヒカリ、そんなにうなだれて」


 そこにはシアリーズたち鈍色の女傑たちがいた。


「えっ? 国に帰って近衛騎士団に戻るんじゃないの」


「......いいえ、女王からはそういわれたけれど、女王をお守りできなかった失態は消えないわ。 私たちは近衛には戻らない...... そもそも宮仕えってのは性にあわないことに気づいたからね」


 そういってシアリーズたちは笑う。


「まあ、確かに一度、外の暮らしをすると、王宮は窮屈に感じるかもしれないですね」


 ヘスティアはうなづいた。


「やった! じゃあ、手伝ってくれるのね!」


「ええ、ヒカリあなたがボスよ。 私を含めこの十名、あなたのギルドに所属するわ」


「ありがと!! よし! これで大きな依頼を受けられるよ!」



 次の日から、私たちとシアリーズたち三パーティーにわけ、大きな依頼を受ける。 それからいくつかのダンジョンでコアモンスターを倒した。


「やはり、シアリーズたちがいると大きな仕事も受けられるね」


「ええ、それにダンジョンが減ったことで、モンスターの出現が減って更に依頼が増していますね」


「モンスターがいないと、仕事ができますから、スラムの人たちへの仲介もうまく行っています」


 ペイスとムーサが笑顔でそういう。


 ヒュアデやアルセイス、クリネイ、リムナドたちにスラムの人たちに話をしてもらって仕事の仲介もしていた。 だから今スラムは少し豊かになり、建物の立て替え等も進んでいるという。


「でもダンジョンは五人ではきついわね。 回復が薬草とポーションだのみなので、高額だから実入りは少ないわ」


 シアリーズはそういった。


「確かにうちで回復魔法使いはペイスだけだもんね。 ポーションって自分達で作れないの? 薬草と魔力て作るんだよね」


「えーと、錬金術師が作っています」


 ムーサが遊びにきたヒュアデたちと話しながらそういった。


「れ、れ、錬金術師!? そ、それは金をつくれるってこと!?」


「ええ、作れるには作れるがどうしました?」


「......ヒカリ一応いっておきますが、人間や金は作るのは禁止されてますよ」


 ペイスはそういってこちらをチラリと横目でみた。


「なんでぇ?」


 とぼけていってみた。


「金が無限に作れたら貨幣価値がなくなるでしょう......」


 ヘスティアがあきれたようにいう。


「でも、こっそり少しずつ売れば......」


「バレたら胴と首がさよならするわね」


 シアリーズは手を首もとでふり、いたずらっぽくいった。


「だ、だよね~ で、その錬金術師ってどこにいるの?」


「この国にもいるのですが...... ほとんどはロキュプスクが雇用しているという話です。 かなり高い魔力と適正がないとなれないから希少なんですよ」


「ロキュプスク...... だから値段も高いのか...... でもロキュプスクと関係ない人はいるでしょ」


「ええ、いましたが数年前に亡くなりまして...... 今は屋敷に娘さんがいるようですが......」


「そこにいけば、ポーションの作り方がわかるかも!」


「ポーションが作れるならかなり助かるわね」


 シアリーズがいうと、ヘスティアが顎をさわる。


「確かにポーションが作れれば国も助かりますが...... 難しいでしょうね」


(ん? なに、まあいいか)


「じゃあ明日にでもいってみよう!」


 

「本当にここムーサ? とても人がすんでるような場所じゃないけど......」


「でも今までの功績で、国から食料や物資など送られているとヘスティアさまはおっしゃってましたよ」


 そうムーサは地図をみていった。 


 私とムーサは錬金術師の家族にあって情報を得るために王都から少し離れた森にきていた。


「ええ、ここのはずですが...... あっ! ほらあそこにお屋敷がみえますよ」


 木々の隙間から大きな屋敷が見える。


「すっみませーん」


 屋敷の扉をノックする。 扉が少しあいた。


「......なに」


 扉の隙間から背の低い白い髪の少女が、こちらにボソッと小さな声で答える。  


「あの私ヒカリです。 錬金術のことで聞きたいことがあるんだけど......」  


「父様と母様はしんだ......」

  

 そう言うと扉がしまった。

 

「ふお! ちょっと待って! それはわかっているの! その資料を!」


 反応はなかった。 


「閉められちゃいましたね。 せっかくペイスさんのお菓子もって来たんですけど」  


 ムーサが残念そうにいった。


 その時かすかに扉の奥で動く気配がした。


(ん? これって)


「あー、せっかく持ってきたのにねー、ここで食べちゃおっか、美味しいお菓子!」


 私はそういってムーサに目配せした。


「えっ? あっ、はい! そうですね! 食べちゃいましょう。 美味しいお菓子!」


 すると扉が少しあいて、大きな目でこちらをのぞいてくる。

 

「お菓子......」  


「食べたい?」


「......食べたい」


 私たちは何とかなかにいれてもらった。



「ほーすごいね。 かなり広い、ここで一人なの」


「ん、そう...... たまにお掃除に国の人がくる......」  


 お菓子を頬張りながら少女ーーヘカテーがいう。


「そうか、でヘカテー、ご両親の錬金術の資料見せてくれないかな」


「なんで?」


「ポーションを作りたいの、私たち冒険者ギルドをつくってるんだけど、回復魔法使いがいないから回復薬が必要なんだ」


「冒険者ギルド?」 


「そうです。 人々の依頼でアイテムを手に入れたり、モンスターを討伐したり、ダンジョンを壊したりするお仕事です」 

  

 ムーサはそういった。

 

「モンスター...... ポーション資料ある......」


「ほんと!? じゃあ見せてくれる!」


「......私欲しいものがある」 


「欲しいもの?」


「マジックスピリット...... ゴーレムの魔力核」


「マジックスピリット? ああ、あのゴーレムの玉なら知ってるけど」


「ほんと!」


 ヘカテーは大きな声を出す。


「え、ええ遺跡でゴーレムからでてきたの」


「ちょうだい! あ、まって」


 そう焦りながら部屋の中をあさり、ひとつの本を持ってきた。


「これポーションの作り方」


「くれるの!? でもゴーレムの玉かけてるけど......」


「いい!」


(何だか腑に落ちないけど、まあくれるならいいか)


「じゃあ明日もってくるよ。 人に預けてるからとってくるね」


「うん」


 そう期待した笑顔でヘカテーはうなづくと、楽しそうにお菓子を食べ始めた。


 

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