第17話
「ではアルテ、これからは王女ではなく、私の弟子として扱うよ。 いい」
「はい! 先生!」
そうアルテは素直に答えた。
(先生...... いい響き)
そうじ~んとその言葉に酔いしれながら、私はできるだけ先生らしく装った。 それをペイスはあきれたように見ている。
「こほん、では行こうか......」
「え? 剣を教えてくれるんじゃないんですか?」
「はっきり言ってアルテの剣はかなりのものだよ。 これ以上鍛えても筋力の限界で力なんかは上がらない。 人間には鍛えられる限界があるんだ」
「じゃあ、どうやって強くなるんです?」
「そこで武具だ。 武器や防具、自分向きの武器を手に入れそれを使いこなす」
「でも、あたしは自分の力で強くなりたい......」
少しがっかりしたようにいった。
「あのね。 さっきもいったけど、人間には限界がある。 生まれつきの体質、体格、資質、もしアルテがもっと体が小さかったなら、強くなることをそのまま諦めるの?」
「い、いや......」
「そうでしょ、何とかして強くなる方法を探すはず、そうどんな力も目的を果たすため得るものでしょ。 武器も魔法も肉体も技能も一緒、ようは目的をはたせればいいの」
「そうですか...... わかりました! 先生!」
「ふむ、では行こう」
「で私のところにきたってわけか......」
カンヴァルはあきれたように言う。
「アルテに武器をつくって欲しいの。 この間どうしてもっていうから、ラードーンの素材あげたでしょ」
「う、おまえにかりを作ると怖いな...... わかったよ」
「あざーす」
「ありがとう名匠カンヴァルどの!」
「ああ...... 名匠なんて、なんか姫さんにいわれるとむずがゆいな。 ああなんでも好きなだけ持っていきな!」
カンヴァルが頭をかいて照れているようだ。
(うむうむ、思ったとおりカンヴァルは誉められことに弱いな。 前もってアルテに伝えといてよかった)
「先生、それでなんにすればいいんですか、やはり剣」
アルテが聞いてきた。 私たちは並んでいる武具をみて回る。
「そうねぇ、アルテは体が小さいから両手剣は軽くしても遅れる。 かといって短剣だと威力に難があるし...... 槍も鍛練には時間がかかる。 となると......」
私は弓を手に取る。
「弓は使ったことがないんですけど」
アルテは戸惑っている。
「うん、でもアルテのその俊敏さと、行動の正確さには秀でたものがある。 剣でもかわすのが難しいほどの体の速さだったからね」
「そうですか...... 確かに動くのは得意ですね。 筋力がないのはわかってましたから、急所を狙えるのはいいかも......」
そういって私が渡した弓をしげしげとみている。
「それで、カンヴァルいい弓ある」
「そうだねえ、本当はラードーンがいいんだけど、あれはまだ加工ができないんだ。 熱でも魔法でも切断すらできやしない」
うんざりしたようにカンヴァルはいう。
「そういや、あんだけ魔法や武器で攻撃したのにほとんど通らなかったもんね。 そりゃ、簡単には加工できないね」
「ああ、でいい弓ならこれだな」
短めなの左右のはしが銀色の弓を一本さしだした。
「少し短くない」
「ああ、ちょっと姫さん。 それに魔力をこめてみな。 魔法は使えなくても魔力は使えるんだろ」
「あっ、はい」
ユーシェが弓を握り集中すると、弓の柄が伸びた。
「おお! 伸びた!」
「ああ、そのアクアスネークの体から作ったその槍は魔力を加えると、弓の柄が伸びるんだ。 それに左右の弓の先の部分はメタルクラブで作ってるから斬ることもできる」
自慢げにカンヴァルは腕を組み胸を張った。
「確かにすごい!! これなら必要なときに伸ばして使えますね! 近接戦闘もできる!」
アルテも喜んでいる。
その弓に軽い胸当てや、グローブ、足あてなどを揃えてもらう。 ついでに私のものもくれた。
「あんがと、カンヴァル」
「ああ、それと、ひとつ頼みがある」
「なあに、また貸し作るつもり?」
「い、いや、まあ、ラードーンの加工がうまくいかないんだ。 だからモンスターの素材を探してきて欲しい。 私の勘なら、国境近くのマークネス鍾乳洞にいるアシッドウーズの酸なら鱗を溶かせんじゃないかなと思ってんだ」
「そのウーズの酸って、金属も溶かすのですよね......」
不安そうにアルテがいうと、ブラミスがうなづく。
「ああ、だが、そのアクアスネークの防具なら酸の腐食を防げる」
「それでこれをくれたのね」
そういうと、カンヴァルはニッと笑った。
「しゃーない、 いってきますか」
カンヴァルの工房をあとにした。
「先生、本当に行く気ですか......」
私たちは国境まで馬車に乗っていた。
「なに、アルテ不安?」
「モンスターはちょっと外にでて、小さなものとしか戦ったことがなくて...... 先生になにも通じなかったのに、あたしが戦えるのかな」
(この間ちょっとやりすぎたか、自信がなくなっちゃってるのかな)
「平気よ。 私の強さは信じてないの」
「い、いいえ、先生が強いことはわかっています...... でも」
「なら、私があなたは強いって言ってるんだから信じなさい」
「は、はい」
(少し自信をつけさせないとまずいか、怯えると余計動きが悪くなるし)
私たちは国境付近で馬車をおり、山道を歩いた。
アルテはビクビクと周囲を見回している。 前に二本のねじれた角を持つ大きなトカゲがのそのそと歩いているのが見える。
(あいつならスピードも遅いか)
「ほら、アルテ、あそこにダブルホーンがいる。 その弓を試してみて」
「は、はい」
ゆっくりとアルテはダブルホーンに近づく弓を射る。 がはずし、ダブルホーンは気付き威嚇している。
「ひっ!」
「大丈夫! あいつの動きは遅いから、弓を伸ばして遠心力で斬りつけて」
「えっ、えっ! 弓をのば......」
はパニックになっている。 ダブルホーンはガサガサと音を立てアルテに近づく。
その時、アルテの体がほのかにひかった。
(今のは...... でもいまは!)
「いまよ! あなたならやれる!」
「は、はい! よし!」
アルテは弓を伸ばすと素早くトカゲに近づき、回転してその遠心力でトカゲの首をはねとばした。
「おお! やったねアルテ!!」
「はぁ、はぁ、やった...... わたし一人でもやれました!」
私が近づくと、尻餅をついてアルテは座っている。
「よしよし! この調子!!」
「はい!」
アルテ立ち上がるとにこやかにそう答えた。
「......ペイスきてるんでしょ」
私が呼び掛けると、木の影からため息をついて、ペイスがでてきた。
「やっぱり、さっきの光りは物理耐性の魔法だね」
「当然でしょう。 王女さまをモンスターと、戦わせるなんて、下手をすればあなたの首が飛びますよ」
「だいじょぶ、だいじょぶ、この子そんな弱くないし、でいつからいたの」
「カンヴァルのところに行ったんでしょう。 私も前にカンヴァルの所にいったら、ここの洞窟のモンスター素材を頼まれてましたから、おそらくヒカリはここに来ると思ってまってたんです」
「大正解」
「はぁ」
ペイスがため息をついた。
「ペイスどの、私が先生に頼んだんだ。 先生は悪くはない」
アルテがそうかばってくれる。
「でしょうが、その人は本来波風立たない所に、巨大な波をたてるんです。 なにも起きないわけがない」
「いやだなーペイスちゃーん、そんなことはないよー」
そう話していると、黒い壁が向こうから迫ってきた。
「これって!?」
私たちはその黒い壁に飲み込まれた。
目を開けると洞窟のなかだった。 そこは鍾乳石があちこちにみえる。
「言ったそばからこれです......」
ペイスが更に大きなため息をついた。
「まあ、まあ、魔法を使えるコアモンスターがダンジョンによびよせたんだよ。 これは私のせいじゃない不可抗力、不可抗力っすよ」
「いや、二人とも何冷静に話してるんですか! ダンジョンに引きずり込まれたんですよ」
ペイスは周囲を見回して困惑している。
「そうだね。 でもここが目的の鍾乳洞だよ。 ほら上にも下にもつららみたいに鍾乳石がある」
「ですね。 取りあえずカンヴァルが言っていたアシッドウーズを探しましょう」
「す、すごいな。 ダンジョンに入ったら大抵、死を覚悟すると思っていたけど......」
ペイスは感心したように言う。
「もうダンジョンもいくつか攻略してるしね」
「ええと、八つはしてますね」
「そうなのか、ペイスどのも見かけによらず、すごいんだな......」
そういってアルテはペイスの顔をまじまじみている。
「魔法だけなら、私よりはるかに強いよ。 でもペイス私たちは酸対策してるけど、ペイスは危ないよ」
「大丈夫です」
そういうと地面に杖をつき、唱える。
「ヘルスフィルム」
私たちの体が一瞬青く光った。
「これは?」
「毒、麻痺、酸などから体を守ります」
「すごいですねペイスどのも」
アルテはそうしみじみという。
「でも半日ぐらいしか効果はありませんよ」
ペイスは笑顔で答えた。
「なら早くアシッドウーズを倒そう」
私たちは洞窟内を進んだ。
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