乙女ゲームの主人公に転生したと思ったら全く関係のないモブだった件について。

姫宮 ゆり

プロローグ

 ラブ☆メモリー 〜剣と魔法のプリンス〜


 何度も遊んだ乙女ゲーム。


 主人公はこの世界でも珍しい、甘やかなわたあめのように淡いピンク色をした柔らかなウェーブの髪に、美しい空と海の境目を溶かしこんだようなくりくりと愛らしく潤んだ瞳が輝いている美少女。

 主人公の姿がはっきりと描かれないタイプの作品ではあるが、攻略対象たちがその髪と瞳を褒める描写が頻繁に出てくるので、印象に残っている。


 この世界が乙女ゲームの中だと気づいたのは5歳の頃。鏡に映った自分の姿を見て、わたしは幼いながらに自分が主人公であることを確信したのである!

 つるんとしてくすみひとつ無い珠のような白い肌にかかるピンクの髪は美しくウェーブを描き、水色の大きな瞳はしっとりと潤んでいる。小さく愛らしい唇は、ほのかに桜を滲ませたようだ。


 さらに、外を歩けば皆はわたしを可愛いと口々に褒めそやし、将来の心配さえされるほどである。


 皆に愛される美少女、まさにわたしはこの世界の主人公だった。当然、信じて疑わなかったし、実際にわたしは主人公だった。主人公"だった"のだ。あの日までは……



 本物のヒロインと出会った日、私の"主人公"の役は唐突に終わりを告げた。


 水色というには余りにくすんだ瞳、自慢の髪もウェーブというより、ただのくせっ毛だと気付かされる。



 自分のことを"主人公"だと信じて疑ったことなど、今この瞬間までなかったのに。



 両足を支える地面が薄氷であったと気づいたその瞬間には


 すでに鼻まで浸かった自意識が急激に温度を失い、難破した船の木片のように漂う自信、かけられた賛美の言葉などが、彼女の立てる波に覆われ音もなく沈んでいくのをただ感じていた……





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