気狂い魔女は最愛の竜に呪われている

夜摘

第1話 すべては手遅れの"愛の物語"

 竜にとってその女の細い肢体はあまりにも脆弱だった。

 自分がほんの少しでも力を込めたなら、その体躯が一瞬のうちに消し飛んでしまうことを理解していた。

 だからだろう。あの瞬間、竜は気まぐれに女の命を掬い上げた。

 その小さな命の生殺与奪の権利が自分にあると信じて疑わず、それに少なからずの愉悦を抱いた。

 彼を殺したのがその驕りだったと彼自身が知るのは、すべてが手遅れになった後。



 魔女はその細く白い指先を血で濡らしたまま、眠る竜の巨大な身体に指先を這わせた。

 輝く魔力の篭った美しい竜の鱗を自分の血で汚していく背徳は、彼女の歪んだ官能を強く刺激した。

 それは呪い。

 死すら生ぬるい愛の祝福。逃げることを決して許さないジリジリと魂を燃やし尽くしていくだけの冷たい炎。

 女は嗤った。

 すべては手遅れで、何一つ欲しかったものは手に入らないだろう。



 あの夜に月に吠えたのは男だったか、女だったか。

 その物語は始まる前に終わっていた。

 


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