煌々たる天窓

宮塚恵一

第1話 海に行こうよ

 今度の四連休、海に行こうよ。


 高校からの帰り道、明佳めいかの突然の申し出に、私は一瞬動きを止めた。

 そんな私のことなど構うことなく、明佳は私の顔を覗き込む。


「ね、良くない? 海」

「なんでまた急に」

「えー、だってさー。せっかくのお休みなんだからどっか遊びに行きたいじゃん?」

「遊ぶなら別に近くでいいじゃん」

「えー、行きたいよ、海」

「もう海って季節じゃないでしょ」

「わかってるわかってる。もう海水浴シーズンも過ぎてるしねー」


 その通りだ。この街はもう夏も終わり、涼しい風が吹いてくる季節だ。決して海に行くような時期ではない。


「別に泳ぎたいとかじゃないのよ。ただ、行きたいじゃん?」


 そんなことを言われても、私は行きたくない。何より海に行くとなると準備が面倒だ。明佳の言うことは、できるだけ聞いてあげたいけれど、できれば遠出は控えてほしい。


「水着どうしようかなー」

「泳がないんでしょ」

「泳がないとしても波触ったりはしたいじゃん」

「私は別にしたくないんだってば」


 こうなるともう意地でもこの子は海に行くだろう、と私はため息をついた。

 明佳とは高校生になってからの仲だが、この強引さには度々困らされてきた。


「わかったけど、ちょっとだけだからね」

「やったー。じゃあ今度の日曜日、駅前で集合ね」

「早い早い」


 仕方ない。私はスケジュール帳を開き、少し考えてから、明佳に提案した。


「その日は家の手伝いあるから無理。その次な日は?」

「連休最終日ってこと?」

「その代わりさ。明日、買い物行こうよ。私、水着持ってないし。一緒に選ぼ?」

「おっと、真優まゆさん。泳ぐ気はないんじゃないのー?」

「どうせ明佳が水かけてきたりするでしょうが。だったら濡れてもいい覚悟はしといた方がいいな、と思っただけ」

「そんなこと言ってー。真優も行きたかったんでしょ」


 行きたくはないわ。ただの妥協案だ。

 買い物に一緒にいく、とこちらから行っておけば、スケジュール変更も問題なく飲んでくれると思っただけ。


「しょうがないなあ。じゃあ真優に似合うセクシーな水着を一緒に選ぼうじゃないか!」

「あのね、変なの選んでも着ないからね」


 そんな風に私は明佳と、買い物と海に行く計画を決め、お互いの家に帰った。


 私は家に帰ると早速タブレット端末を手に取って、海までの距離を確認した。

 ここから海の近い駅まで五駅分ほど。そこからバスに乗って海岸沿いまで行ける。時間的には二時間近くかかる距離だが、移動が乗り物なのだからその間のことはあまり考えなくて良い。

 明日は一日明佳と遊ぶとして、天候を悪くしなければ二人で無事に海には行けそうだ。


「細かいことは後で考えよ……」


 私は部屋の電源を落とし、明日に備えて眠りについた。

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