冬に咲く花
ゴオッと激しく窓を叩く風の音が外からする。窓に雪が叩きつけられて溜まってゆく。氷の粒が張り付いていて外が見えず、日中だというのに薄暗い。吹雪が始まってから、もう5日が経つ。こんなに長いと少し不安になってきた。
「今日も外へ出れませんね」
「ああ……ひどい吹雪だ」
外を眺めているアデル様。その表情は雪のように冷たくて、目も感情が無い様に見える。
「いつまで続くのでしょう。晴れたらお洗濯したり薪割りをしたりしようと思ってましたのに……」
北の地は冬が長い。屋敷の中に備蓄はあるけれど、さすがにこんなに外に出れないほど吹雪が続くなんて思わなかった。薪が少し心許なくなってきた。
アデル様は返事をせず、窓の外を眺め続けている。何を考えているのか読めない。
熱いお茶をどうぞと置くとありがとうと心ここにあらずで、お礼を言う。それから、立ち上がった。
「少し、外出してくる」
「え!?どこへ行くんですか!?吹雪なのに!?」
アデル様は何枚も服を重ねて、防寒具の隙間が無いように、きっちりとつけ始める。
「街や周辺の村へ行く」
その一言で私はハッとした。
「……領民の様子を見に行くのですね?寒さに凍えていないか、食料が足りているのか心配されてるんですね。私も一緒に行きます」
「いや、屋敷にいろ」
「いいえ!私も行きます」
アデル様が眉をひそめる。
「私もスノーデン辺境伯の妻ですもの。領民を心配してもいいでしょう?領民を守るのは貴族の義務です」
「……吹雪は甘くないぞ」
「わかってます!私も用意をしてきます。食料や炭も少し持っていきましょう」
テキパキと私は動き出す。……アデル様は外を見ながら、吹雪の中の領民達の暮らしを心配していたのだ。なんていう人なの。
私は領民とアデル様の役に立ちたい。寒さに負けないように防寒具をしっかり身につけた。それでも猛吹雪の中に出ると厳しい寒さだった。
アデル様と私は一頭ずつ馬に乗った。
「見失うなよ。ちゃんと着いてこい!……引き返すなら今だぞ!」
「大丈夫です!」
声をお互いに張り上げる。前が見えにくい。でもアデル様の背中を見て、必死で追いかける。雪が叩きつけるように吹く。私の体に雪がくっついていく。少し出ている顔が冷たい。
街の人や村の人達はアデル様の突然の訪問に驚くやら有り難がるやらで大変だった。
幸い、持ってきた食料や炭で足りるようだった。備蓄の残りが少なそうな村にはアデル様はまた来るからと約束し安心させていた。
雪まみれで屋敷に帰ると、私とアデル様がいないことに気づいた使用人たちが大騒ぎしていた。
「キャー!大変です!お湯を沸かしてください」
「服をすぐお持ちします!」
「二人で何をされているんですか!?」
アデル様は私の方を見て、大丈夫だったか?と尋ねる。私はクスクスと笑いだしてしまう。
「私、今日ほど、自分の頑丈さに感謝したことがありませんでした。全然大丈夫です。一緒に連れて行ってくださり、ありがとうございました」
「礼を言うのはオレのほうだが……?」
「いいえ。アデル様が領主として一生懸命な姿を見られたことが、私、嬉しいんです」
アデル様の紫の目がフワッと優しく細められた。私はその表情にドキドキした。なんて……優しい顔を今、したんだろう。
「ニーナは冬に咲く花のようだな」
え?と聞き返す。
「寒く長い冬だが、心を和ませてくれる」
そう言って、着替えに行ってしまった。私は寒さなんてどこかへ消えてしまっていた。頬がやけに熱かった。
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