売られる時は一瞬
いきなり院長室へ呼ばれた。早く!と急き立てられる。服は持っているなかで一番良い服に変えるように言われた。茶色の労働着は脱いで、唯一、継ぎのない紺色に白い色の襟がついた服を着る。
いったいなんなのかしら?私は茶色の髪の毛を綺麗に結い直す。古い鏡の中を見つめる青い目はどこか昔の自分を彷彿させる。この目の色だけは転生しても変わらない同じ色だった。
院長室へ行くと、商人風のモサモサと髭をはやしたおじさんと、中年女性の院長がにこやかに談笑していた。
あ、もう嫌な予感しかしない。私にまで機嫌よくお茶を淹れてくれる。一口飲むと、苦みの少ないお茶。これは普段よりも高級な茶葉を使ってるわね?いい香りがする。と、たまに元王女スキルが発動する。高級茶葉というところに院長先生のご機嫌さが伺える。
「この娘なら年齢的にもご所望の品と合うと思いますわ」
「……まぁ……見た目も悪くないか。少々、田舎臭いがな」
ま、まさか!?院長先生の机の上に重たそうな袋が置かれているのが気になるのよね。お金の匂いが袋からする!お金の匂いを察するのは今の私のスキルね……。
「もしかして、私のことを売るんですか!?」
「相変わらず無駄に頭が回るねぇ。学校は初等教育しか受けてないけど、読み書きができ、マナーも悪くない。体も丈夫で、多少気性は激しめだけど、お買い得だと思うよ」
商人はもらい受けると言った。それで私の運命は決まった。孤児とはそういうものだ。今まで、丈夫だし力も強いから、使用人代わりとして、置いてくれていただけ。
私の意見など二人ともどうでも良いのだ。
「ほらニーナ、挨拶は?」
「人身売買は法律で規制されております。それは許されるものではありません」
男は射抜くような目で私を見た。口ごたえされたのが面白くなかったようだ。
「孤児が法律を知っているのか?法律など戸籍の無いお前たちには不要なものだろう?相手の提示した金額は破格だ!さあ!荷物をまとめろ。すぐ行くぞ!」
断りたいが、戸籍無しの孤児の私達にとってはそんな扱いだ。どこへ売られても文句1つ言えない。
なんだかイライラするわ……。
置かれていた、目の前のカップを持つ。お茶でも飲んで、心を落ち着かせよう。
パキッ………カップの取っ手が私の握力で折れた。院長先生の顔がみるみるうちに赤くなった。
しまった……。
「またニーナ!やらかしたね!本当に無駄に力が有り余ってるんだから!」
イライラして力加減間違えちゃった。商人がなんだその馬鹿力は!?と頬をひきつらせていた。
不安でいっぱいになったけど、なるべく平気なふりをして皆にお別れを告げた。子どもたちの中には泣いてくれる子もいた。
「ニーナの子守唄がないと寝れないよ」
「ニーナ!いなくならないで!」
そう寂しそうに言う。しかし世話係の私が泣いて別れたらきっと子どもたちも不安になる。涙を我慢し、無理やり笑顔を作って別れた。
馬車に揺られて、その日の午後には旅立っていたのだった。
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