第44話 〜脱出〜
ライムが男の顔に張り付いた。
男は,張り付いたライムを取ろうと必死に
その隙にロイが人質から逃げることに成功する。
「助かったぜクロエ」
クロエが左手の人差し指を男に向けると,男は一切の動きを止めた。
「余が魔法を使ってお主の動きを今止めておる。このままだとお主は息が出来ずに死ぬじゃろう。エルフが何処にいるのか教えるのじゃ。そうすればお主の命は助けてやるのじゃ」
「ライム!」
声に反応したライムは,男の顔から剥がれる。
クロエが人差し指を下げると,男は糸に吊られ操られる人形が糸を切られて崩れるかのように,膝から崩れ落ちた。
「ここにエルフがおるじゃろ。教えるのじゃ」
「二階……二階の一番奥の部屋に……」
俺達は建物の二階へと駆け上がり,一番奥の部屋へと目指す。
クロエがそのままの勢いで扉をぶっ壊すと,中には裸にされているエルフと,そのエルフに覆い被さろうとする肥満体の裸の男が。
エルフと男が俺達の事を見る。
「誰だ!? お前達は!!」
クロエがすぐに男に飛び蹴りをかまし,男を吹っ飛ばす。
壁に叩きつけられた男は,白目を向いて泡を吹いている。
「あなた達は?」
エルフが今にも切れそうな細い声で話す。
「俺達は,エルフの長の娘ミーナと共にボルダ帝国からエルフを助け出しに来ました。あなたを助けに来たんです」
「え!?」
涙を流しながら俺の言葉を聞いているエルフ。しかし,状況が飲み込めていないのかもしれない。
「クロエ,手枷を外してやってくれ」
「任せるのじゃ」
クロエがエルフに嵌められた手枷を外す。
「ミーナと合流して,エルフの里へと戻る。付いて来て」
俺は自分が羽織っている布をエルフに羽織らせた。
「私は……里に帰れるんですか?」
「ああ。勿論だよ」
「建物から出るぞ。ミーナと合流するのじゃ」
建物から出ると,外が何やら騒がしい。
大勢の人間の声があちこちで響き渡っている。
「カナデこっちじゃ」
クロエは走り出す。
道を進んでいくと,前からミーナ達が現れ俺達は合流した。
「ミーナ! 良かった無事で!」
「カナデ達も無事そうね。同胞を助けてくれてありがとう。ちょっと派手に暴れたら目を付けられたからこのまま帝国を抜け出すわよ」
「えっ!? 何したんだよ!」
「まあそれはいいじゃない」
大勢の人が声を上げながらこっちに向かって来ているようだ。
「カッカッカ! 何だか楽しくなってきたの〜」
「なに呑気な事言ってんだよ」
俺達は走ってボルダ帝国領土の外へと目指す。
外へと出る門が見えてきた。しかし,すでに門は堅く閉じられてる。
兵士が門の前で何十人と待ち構えてもいる。
「お,お,おい……どうすんだあれ……」
「余に任せるのじゃ」
俺の体力は,限界に差し掛かっていた。
クロエが走りながら,何やら呪文を唱えている。
両の手を前にかざすと,クロエの手から途轍もない業火が放たれた。
真っ直ぐな道の先にある門まで届く業火。門が放たれた業火の形に溶けていた。
「これで行けるじゃろ」
「さあじゃあ行くわよ!」
「や……ヤバい。もう走れない!!!」
俺は,必死に走ったが限界だった。
「ちょっとあんた何やってるよ。後ろの人間に追いつかれちゃうわよ」
「ミミ……いや……もう無理だ」
「クロエーー! カナデが全く追いついて来てないぞ!」
クロエは後ろを振り返り,宙に舞いながら俺の後ろに魔法を放った。
炎の壁が道に現れ,道を閉ざした。
俺は死にそうになりながら走る。
前方にいる兵士達は,エルフ達が魔法で排除してくれている。
俺達は全員で門を潜り,ボルダ帝国から抜け出す事に成功した。
出た所まではいいが,帝国の人間が俺達の事を追いかけてくる事は予想出来る。
「おいミーナ! 待ってくれ……」
俺は立ち止まる。膝に手を付きながら下を向きながら発言した。
「このまま……走って逃げられないだろ? どうすんだ?」
「馬車使えばいいんじゃないのか?」
ロイがそう発言した。
「この人数を……馬車に乗せて……動けないだろ?」
助けたエルフの人数は想像しているより遥かに多く,どうやってエルフの里まで運ぶのか困った。
「面倒くさいから,余の背中に全員乗せてエルフの里までひとっ飛びするぞ」
「!?!?!?!?!?」
「どういう事?? クロエは何言ってるの??」
「ドラゴンだからなクロエは。オイラはクロエの背中乗ってみたいな」
「クロエがドラゴンだって? 嘘でしょ!?」
「嘘じゃないのじゃ」
クロエの身体が光り出し,姿を変えた。本来である黒竜の姿になった。
ミーナも含めたエルフ全員がクロエの姿を見上げて驚いている。
「ちょ,ちょ,ちょっと黒竜じゃないのよ!」
「妖精でも黒竜の事は知ってるのかミミ」
「誰でも知ってるでしょ! まさか黒竜だとは……」
「クロエが……黒竜??」
「へへへ! ミーナ驚いたか? 黒竜だぜ!? カッコいいだろ?」
何でロイが偉そうにしているのかは分からないが……。
ドラゴンに背中に乗って空を飛ぶのか?? 正直無理だ。
「詳しい話やそんな事は今はどうでもいい。とにかく背中に全員乗るのじゃ」
クロエは背中に皆を乗せていく。
「おい! カナデ最後じゃぞ。早くしろ」
「俺……空とか苦手なんだよ!!!!!」
心からの叫びを俺は叫んだ。
「そんな事は知らん。早くするのじゃ」
俺はクロエの口で服を摘まれ,無理やり背中に乗せられた。
「あ〜〜〜ヤバいよ」
「ドラゴンの背中に乗るなんてワクワクするなー」
ロイは呑気な事を言っている。俺はそんな余裕は一切になかった。
「カナデ,あちきの事落とさないでよ!? いま魔法使えないんだから落ちちゃったら,死んじゃうんだから」
クロエが翼を大きく広げて空へと飛び上がる。
俺は目を瞑って,下を見ないようした。
耳の奥がキーンと鳴り始めた。高度が上がったのだろう。
「皆しっかりと捕まるのじゃ。行くぞ」
その瞬間に物凄い速度で進み始めた。
肌で感じる強風と,感じたことのないスピード感,さらに追い打ちをかける高所恐怖症の俺は気が遠くなった。
二回目の死を覚悟した。
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