第5話 〜クロエの活躍〜
次の日になり,朝から店の壊れた箇所を直す作業に取り掛かった。
ローレンツ達も朝から一緒に直す作業をし,店の開店作業も手伝うことに。
そして夕方前に開店すると,今まで来てくれてた常連客が訪れてたちまち満席になった。
俺はピアノに座り,音楽を奏でる。皆が楽しく愉快に食事をしている。
クロエは散々寝て何も手伝うこともなく,今はお客と一緒にどんちゃん騒ぎをしている。
本当に伝説の黒竜とかじゃなかったらぶっ飛ばしてやりたい!
しかし,クロエの鱗のおかげでお金を得る事が出来たことだし俺は我慢した。
そうやって店を手伝って数日が過ぎた。
ライデンは今日も大盛況だった。食事は美味しい事は勿論だが,ピアノの音楽も一役買っているようだった。噂が広まり,お客がどんどん訪れるようになった。
そんな時に
「おい! なんだこの店! ふざけんじゃねえぞ!」
大声を出しながらテーブルをひっくり返した。
次の瞬間クロエが一人の男の腹を殴ると,男は外まで吹っ飛んでいった。
「お主ら誰じゃ!? 余が,そして皆が楽しんでいるのに邪魔するな!」
吹っ飛ばれた男は白目を向いて泡を吹いていた。
残りの男二人が吹っ飛ばれた男を担いで逃げていく。
「おいクロエ! いきなり吹っ飛ばしちゃったけど大丈夫なのか?」
「大丈夫じゃろ??」
「ブライアン。あいつらが例の貴族の店の奴らか??」
「ああそうだ!」
ローレンツがブライアンに訊ねた。
「なるほど! じゃああいつらが居なくなれば,この店は安心じゃな?」
「え!?」
「よし。カナデついてこい! あいつらをやっつけるぞ!」
「やっつけるってどうすんだよ!?」
「まあよい。ついてこい」
クロエは店を出ていく。俺は慌ててクロエの後を付いていく。
「おい! どうすんだよ」
「あいつらの臭いは分かっておるのでな。今から追ってみるのじゃ」
「俺は全く戦うこと出来ないぞ!?」
「大丈夫じゃ! 余が守ってやるのじゃ」
しばらくするととんでもなく広大な場所に建てられた豪邸の前で立ち止まる。
「ここじゃな」
「ん!? ここなのか?」
クロエは頑丈そうな門を拳を突き出しただけでぶっ壊した。
「カナデついてこい」
クロエはどんどん先へと進んでいく。
中から沢山の人が出てきた。
クロエが右手をかざすと,炎が出てきて周りを焼き尽くした。さらにもう片方の手をかざすと,突風が急に吹き荒れ竜巻が巻き起こった。
建物から出てきた,警備なのか用心棒なのか分からない人達はたちまち倒れていった。
豪邸の中へと入り込んでいく。中にも沢山の人が居たが,クロエの相手にならなかった。
二階へ上がり,一番奥にある大きな扉の前に行く。クロエは扉を蹴破った。
「だ,だ,お前達はだれだ!?!?」
書斎と思われる場所で,テーブルの奥に居た人が言葉を発した。
「お前が悪い貴族か!?」
クロエはそいつに聞いた。
「お前等,私を誰だと思っている! ヨーゴレット伯爵だぞ。こんな事をしてただで済まないぞ」
「余はそんな奴しらん! のう? カナデも知らんじゃろ?」
「全く知らん」
「じゃあここで殺しても大丈夫じゃろ」
「殺しちゃうのは……まずいんじゃないか!?」
「なんじゃ? 殺しちゃまずいのか?」
「一応偉い人っぽい人そうだからな! クロエ脅せるだけ脅してみてよ」
「分かったぞ」
するとクロエは元の黒竜の姿へと変えた。部屋に収まらず,屋根を突き破る。
「おい! 伯爵聞こえるか? 余はあの店が気に入った。
「わ,わ,わかりました……」
伯爵は腰を抜かして,小便を垂れ流している。そして気絶した。
「クロエもう戻っていいぞー! デカすぎて逆に邪魔だよ」
「なんじゃカナデ。せっかく余がカッコよく脅したというのに」
俺は書斎を少し漁った。色々と問題になりそうな書類を色々と見つけた。
「クロエ,ここにある書類全部アイテムボックスに入れてくれないか?」
「別によいぞ」
「この伯爵がもう悪さ出来ない証拠がありそうだからさ」
「なるほどな。よし全部持っていくぞ」
書斎にあるほとんどの書類を俺達は持ち出した。
酒場ライデンへと戻る。
店の外にまで出てきて,皆が出迎えてくれた。
奥からブライアンが出てきた。
「おいカナデとクロエ。大丈夫だったのか??」
「おお! バッチリじゃぞ! もう何もしてこんと思うぞ! なあカナデ?」
「え!? はい。もう大丈夫だと思います」
「そうか……なら良かったけど,結構な手練を雇ってるって聞いていたから心配だったんだ」
「ん〜〜クロエの相手に全くならなかったですよ。赤子と大人位差がありました」
「当たり前じゃろ! 余は黒竜ぞ」
ブライアンが俺の肩を組んで,ひそひそ話で話してきた。
「おい! クロエの嬢ちゃん黒竜とか言ってるけど,冗談だろ?」
「いや本当ですよ多分。俺は詳しく知らないですけど……ローレンツ達に聞いてみたらどうですか?? 彼らも一緒に見てますから」
ブライアンがローレンツ達に何やら聞いたようで,凄く驚いた表情をしていた。それでまたこっちにきた。
「おい! 大丈夫なのか? 伝説の生き物だぞ? 国が吹っ飛ぶ災害じゃないか」
「この店気に入ったとか言ってたんで,暴れることはしないと思いますよ」
「そ,そ,そうなのか……」
「クロエの嬢ちゃんがやっつけてくれたんだって? 酒呑むか?」
「おお〜ブライアン酒持ってこーい!! カナデもほら音楽を頼むぞ」
「はいはい」
俺はクロエに促されてまたピアノの前に座り演奏を始める。
「おいカナデ,余は今日活躍したのじゃ! 何か素晴らしいの頼む」
「素晴らしいって何だよ! どんな気分になりたんだ?」
「楽しい音も好きじゃ! でもこれだけ騒がしい中で一瞬で惹きつけるような音が聞いてみたいの〜。出来るか?」
なんて難しい事を言い出すんだクロエは。
「ん〜まあちょっとやってみるよ」
皆酒を呑んで酔っ払って騒いでいる。そんな中で惹きつける曲か……
「やってみるか!」
「♫! ♪♪♪♫♪♪♫♫♪♪♪♪♫!」
ショパン作曲『革命のエチュード』
出だしの一瞬で惹きつける一曲だと思う。
今まで弾いたことがない雰囲気の一曲だが,この世界で受け入れてくれるだろうか?
俺は弾き終わると閉じていた目を開けて,周りを見渡す。全員が何故か止まっていた。
クロエが拍手をする。すると周りの人達も拍手をしてくれて拍手喝采になった。
自然に立ち上がり,お辞儀をした。
「カナデ〜〜お主はやはり天才じゃの〜〜」
俺の背中にいきなりクロエが乗っかってきた。
「どうだ!? 凄いだろ!?」
「おお〜〜!! 凄いのじゃ凄いのじゃ!!」
クロエを肩車し,何故かクロエが拍手に手を振り応えている。
俺もクロエもローレンツ達も騒いで呑んだ。
店も終わりを迎え閉店になり,後片付けを全員でしていた。クロエは床でいびきをかきながら寝ていた。俺は肉体労働は苦手なんだが,こっちの世界に来てから肉体労働ばっかりしている気がする。
「ローレンツ,この街で凄い頼りになる人っていないですか?」
「ん? 俺達が頼りになるだろうが!」
「それは勿論なんですけど,社会的に力があるというか……」
「なるほど。それなら冒険者ギルドのギルドマスターがいいんじゃないか?」
「うえ〜! 私あの人苦手だなぁ」
ルイーザがそう答えた。
「なんかあるんですか??」
「いやいやいい人だよ! ちょっと掴みどころがない人だけど」
「そうそう。表情が変わらないから何考えてるか分からないからなぁ」
「魔法の実力はワシより遥かに強力じゃよ」
「私よりも治癒魔法も使えますし……」
「なるほど。なら明日とりあえずギルドマスターに会いに行ってきますよ」
「俺の名前を出したらちょっとは話が通しやすくなるかもしれないから良かったら使ってくれ」
「ありがとうございますローレンツ」
掃除を終えると俺達は解散した。
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