第8話 心がパニック!


 私はおつかいの大福を買って帰った。

 結局中庭で食べたのはごちそうになっちゃった。

 ファミレスの前は向かい側の歩道を走って帰ったから誰も気付いてない、と思う。


 私はお母さんに大福を渡して、自分の部屋に飛び込んだ。


「はぁっ! うそ……信じられないよ」


 夢のようだった。

 まさか大福モッチさんが、あの竜胆君!?

 そんな事ある!?


 そして竜胆君が私のファンで、詩を歌にして歌ってる!?


「ほわぁあ!」


 色んな想いのこもった長い息を吐いた。

 中庭を出るからって、前髪につけてもらったピン。

 もらっちゃった……。


 可愛いって何回も……。

 胸がドキドキする。

 あんなに優しく、かっこよく微笑まれたら……。


 いやいや、違う違う。


 彼にとっては、普通の事なんだよ、きっと絶対、そう。


 冷静になるために、私は投稿サイトを開く。


「えっと……今日も閲覧数は一桁ですよね。うんうん」


 此処の投稿サイトは、ダイレクトメッセージでやり取りする事はできない。

 それが両親に投稿を許された理由なの。

 だから投稿作品への感想が唯一の読者さんとの交流方法。

 あと、いいね! ていうスタンプもあるんだけど……。

 私、スイートアメジストへの感想、スタンプは……はい、ほぼ大福モッチさんです。

  

 大福モッチさんがいてくれたから……私、詩を書いていられる。


 ……竜胆君……。


 あ、やだ……私……。

 ダメダメ、こんな胸のドキドキは、ときめきじゃないからね?

 私は男の子に免疫とかないから……びっくりしちゃっただけだよね。

 

「あ、コメント1件」


 ……ドキドキして、クリックする。

 うん、いつもドキドキするんだけど……まさか。

 

『こんばんは! 今日、スイートアメジストさんのファンの人と出逢う事ができました。素敵な出逢いも私にプレゼントしてくれるスイートアメジストさんはやっぱり神です!ありがとうございます!』


 わ、わわわわ……。


 素敵な出逢いって……私なんかのこと?

 私がスイートアメジストって知ってるわけでもないのに。


 竜胆君……。

 私……心が、パニックだよぉ~。


 それから私は竜胆君の動画を見た。

 今日一緒に話した時の明るい笑顔の雰囲気とは全然違って……。

 弟の藤君と一緒に、切なそうな顔で歌う姿。

 クールな歌詞に、素敵なメロディ。

 

「すごい……」


 絶対ファンにしてやるよ、って言われたけど……。

 それは見た瞬間に誰もが虜になる歌声だって、私は思った。

 

 

 

 

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