第6話 ファ、ファンクラブ結成!?


 私がいそいそと隣に座ると、おばあちゃんがお茶と大福を持ってきてくれた。

 座ったのに、私はまた立ち上がってお辞儀する。


「あんれま、竜胆来てたんかい」


「あれー? 昼に来た時、じいちゃんには挨拶したよ? ばあちゃん店番だったんだね」


 お孫さんなのかな?

 竜胆君に優しく腕を引かれて、私はまたベンチに座る。


「じいさん、なんも言ってなかったわぁー。花那ちゃん、ごめんね。誰もいないと思ってたのに」


「い、いえ」


「なんかあったの?」


 竜胆君が不思議そうな顔をする。


「う、ううん」


「大福お食べ、お茶も飲んでゆっくりしていきなね」


「あ、ありがとうございます」

 

「竜胆のも持ってきてやる」


「やったぁ! サンキューばあちゃん」

 

 竜胆君、ここのおばあちゃんのお孫さん? って聞こうと思ったら、ふいに前髪に触れられて顔を覗き込まれた。


「ひゃ……」


 ち、近いよ竜胆君っっ!


「……泣いてたの? 大丈夫?」


「あ、えっと……うん。大丈夫」


 慌てて、笑ってみせる。

 ごまかすのは得意。


「ほんと?

 ……ほんの少しの雪花が♪」


「……あ……」


 すごい……詩が花開くみたいに、メロディにのって……。

 

「あなたの耳に触れただけで……♪


 現実が心引き裂くのに……♪


 そんな風に笑ったり……しないで……♪」


 竜胆君は歌いながら、優しく微笑んでそっと私のメガネを外した。

 優しい歌声が心に沁みてポロリと、私の目からまた涙が溢れちゃった。


「……泣きたい時は泣いていいんだよ」


 彼はハンカチで私の涙を拭ってくれた。


 こ、こんな事、まるで自然に……。

 優しい歌声が私の心を撫でてくれる気がする。


「それ『小さな想い』……?」


 ドキン、ドキン、心臓が動く。

 メガネを外した私を、竜胆君も何故か見つめてくる。

 一瞬時が止まったような……ドキン、ドキン。


「……可愛い……」


「え?」


 竜胆君が、今何か呟いた?

 外したメガネを渡してくれる。


「いや、えっと……君、なんて?」


「あの『小さな想い』だなって……」


「え……まじでわかるの? すげー結構君もコアなファンだね!」


「……うん」


「とりあえず無理しないで? 俺で良かったら話聞くよ」


 え……なんだか、誤解をしてたかも。

 大人気歌い手って、もっと偉そうな感じな人なのかと思ってた。

 

「ありがとう……ちょっと嫌な事を思い出しちゃって」


「……ああ、うん。そういう時あるよね」


 竜胆君の顔、近い。

 ま、まつげ長いし……瞳の色……やっぱり茶色いのに蒼い色も混ざってて……綺麗だ……。


「そうだ、名前は?」


「え……あ、あの宮野花那です」


「花那ね、うん、よろしく。お茶飲んで大福食べよ。甘いもの食べたら元気になるよ」


 ちょうど、おばあちゃんが竜胆君の分も持ってきてくれた。

 あとでお金払わなきゃ。

 この店の大福は私も大好き。


 塩大福は店一番の大人気商品。

 お餅は柔らかくて、中の餡子は豆の風味が生きてて程よい甘さ。

 豆の硬さが抜群のアクセントでほのかなしょっぱさが餡子の美味しさを引き立てる~~!


「大きい福」


 パクっと私は大福にかぶりついた。


「あは、いいね。大きい福だ。大きい~福~♪」


 竜胆君、なんでも歌にしちゃうんだな。

 そして大きな口で頬張った。


「俺の顔知らないなら、俺がやってるTwoBlueの動画とか歌は聞いたことない?」


「う……ご、ごめんなさい。動画ってあんまり……」


「正直だから許すよ。なーんてね。俺、双子で歌歌ってるんだけどさ、俺が作曲で弟のふじが作詞なんだ。俺って作詞の才能は全くなくてさ」


 そうなんだ。

 双子で作詞と作曲を分けてたんだ……。


「ある日、投稿サイトでスイートアメジストさんの詩を見た時に、めちゃくちゃ感動したんだ」


 えっ!?

 突然名前が出てきてびっくりしちゃった!


「めちゃくちゃ心に響いてさ。すげー助けられたんだよね。それからファンで詩を勝手に歌っちゃってる……さっきみたいに」


「す、すごく素敵な歌だったよ」


 自分の詩なのに、自分の詩じゃないみたいな。

 もっともっと素敵に輝いてた……、それは竜胆君の歌声と作曲のおかげだよ。


「ほんと? まじ嬉しい! 当然、動画配信とかは無理だから一人で歌ってるだけだよ。こんなの知られたらスイートアメジストさんに嫌がられるかもしれないし……」


「そんな事ないよ」


 嫌がるなんて……歌ってくれるなんて最高に嬉しいよ!

 なんて言えるわけないけど。


「サンキュ。あぁ~でも嬉しいなー同じファンの子に聞いてもらえるの!」


 わぁ、キラキラした笑顔。

 すごくかっこいい。

 動画見たことないけど……みんなが竜胆君のファンになるのわかるな。

 

「俺さ、独占欲強いから。俺だけのスイートアメジストさんって思ってたところあるんだけど」


 え!?

 スイートアメジストに対してって事だとわかるけど、そんな事を目の前で言われたらドキッとしちゃう。


「花那だったら、一緒に話ができて嬉しいなって思ったよ。今度から此処で話しない? スイアメ・ファンクラブ結成ってとこ?」


 えぇ~~~!?

 ス、スイアメ・ファンクラブ!?

 二人だけの!?

 突然の展開に頭がついていかないよ。


 

 

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