第57話

ベニー副隊長はカトリーナ様を抱き上げたまま、呆然として連れて行かれた。


私たちはライトアップが素敵だと小耳に挟んだ庭園に足を運んだ。

普段見ている庭園もライトアップされると幻想的で別世界に入り込んだのかと錯覚してしまいそうになる。


そこでも話題はもちろんカトリーナ様とベニー副隊長の先程の件だ。


「あのベニー副隊長が大人しくついて行くなんてな」


言われてみれば、カトリーナ様を抱き上げた状態で両手で頬を挟まれれば拒絶も出来なかっただろうし・・・

私は別にベニー副隊長を心配しているのではないが、まだ幼いカトリーナ様の醜聞で傷つかないかちょっとだけ心配なのよね。

困ったちゃんではあるが、悪い子には見えないもの。






「ヴィクトリア嬢」


後ろから最近では聞き慣れた声で名を呼ばれた。


「ドルチアーノ殿下、ご卒業おめでとうございます」


「ああ、ありがとう。君はもう帰るのかい?」


「はい、大体雰囲気は分かりましたから」


「・・・少しだけ話せないかな?」


私が答える前にチェルシー達が『どうぞ。わたくし達は先に帰りますので、ヴィーが馬車に乗るまでは責任を持って送ってください』と私の代わりに答えてしまった・・・


「・・・いいですよ」


ドルチアーノ殿下はありがとうと言ってから「噴水広場もライトアップされて綺麗なんだよ」と案内してくれた。


いつもは太陽の光を反射して、キラキラ輝く水面も今はライトせいか色とりどりの宝石が散りばめられたように見える。


「ね?綺麗でしょう?」


「はい」


噴水のそばにあるベンチにドルチアーノ殿下の隣にハンカチを敷いて、私にそこに座るように促す。


「・・・思い出にピアスの交換をしてくれないかな?」


それぐらいいいよね。

助けてもらった恩もあるし。


「別に構いませんが」


2つとも外そうとしたけれど1つだけで言いと言うから片方のピアスと、ドルチアーノ殿下の耳についていたイエローダイアモンドのピアスを交換した。

その場でドルチアーノ殿下がさっきまで私の耳についていたピアスをつけて満足そうに頷いていた。

私も手に持っていたら殿下のピアスを無くしそうだったからつけたけどね。



「・・・悪かったね」


ここに付き合わせたこと?


「ちゃんと謝りたかったんだ。昔ヴィクトリア嬢に酷いことを言ったことを・・・」


そっち?


「前に謝ってもらいましたが?」


「うん、そうだね・・・でもずっと考えていたんだ」


「何をでしょうか?」


「あれが無かったら・・・僕と君はもっと良好な関係を築けたかもしれなかったと・・・。僕は勿体ないことをしたね」


そう思っていたんだ。


「でも今は普通に話せる関係ですよね?」


「うん、そうなんだけどね」


何が言いたいんだ?


「・・・ごめんね。馬車まで送るよ」


まだ何か言いたそうにしていたが、ドルチアーノ殿下が立ち上がったから私も席を立つ。

私の少し前を歩く殿下は無言で馬車まで送ってくれた。


「送ってくれてありがとうございました」


「・・・こちらこそ話しに付き合ってくれてありがとう。このピアスも大切にするよ」


結局、謝ることでドルチアーノ殿下の憂いが無くなったのなら無駄な時間でもなかったのかな?

馬車に乗り込む間際に「ヴィクトリア嬢」と呼ばれ振り向くと・・・


「おやすみヴィクトリア嬢」と、額にキスをされた・・・


イキナリでちょっと驚いたけれど、そっかおやすみの挨拶か!

じゃあ私も、とお返しに「おやすみなさい」とドルチアーノ殿下の頬にキスを送った。

これは毎日の家族間での日課なので何も疑問に思わなかった。


そのまま馬車に乗り込んで窓から再度おやすみなさいと言ったが、それに対して殿下からの返事はなかった。

てか、どこを見ているのか私の声も聞こえていないようだった。


まあ、学院の敷地内だし大丈夫でしょう。





私はそのまま邸に帰り、入浴したあと朝まで爆睡した。

きっと疲れていたのね。


卒業式の翌日は学院も休みで一日ゆっくりし、その次の日に終業式が行われた。


その終業式の日にもカトリーナ様が我が家の馬車の前で仁王立ちしているなんて誰が思う?

ベニー副隊長に決めたって言ってたよね?

リアム兄様のこと諦めていないの?

まさかハーレムでも作るつもり?


「ご機嫌よう。ディハルトさま」


「・・・ご機嫌よう。カトリーナ様」


そこ!笑わない!

チェルシー達が肩を震わせている。


「今日はお茶会のお誘いに来ましたの」


いや、そんな自慢気に言われても・・・

まだ子供のカトリーナ様と一体何を話せと?

共通の話題って何がある?


「なぜ、私をお茶会に?」


「それは明日の2時に我が家に来れば分かりますわ!」


そう言ってカトリーナ様は馬車に乗り込み去って行った・・・

いつもの侍女さんは今日も何度も申し訳なさそうに頭を下げていたけれど、彼女ではカトリーナ様を止められなかったのね。


でも自由過ぎない?

カトリーナ様の中では明日は決定なのね?

わたしは返事もしてせんけどね!




まさかそこでカトリーナ様の秘密が明かされるなんて思ってもいなかったわ・・・。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る