第19話 ドルチアーノ殿下視点
~ドルチアーノ殿下視点~
彼女が僕の婚約者候補を辞退して、残りの6人から選ぶことを考えた時、どうしようもない不安が押し寄せてきた。
政略結婚になるのは仕方がない。
愛し愛される相手と結ばれるなんて期待もしていなかった。
ただ、アンドリュー兄上は候補者の中の1人の令嬢に想いを寄せ、お互いの気持ちが通じ合うとすぐに婚約した。
兄上が12歳の時だった。
『まだ12歳なのに相手を決めてしまってよかったのか?』
『アリアナがいいんです。アリアナ以外考えられません。俺がアリアナを守ります』
父上に聞かれそう答えた兄上は、言葉にしたように現在もアリアナ嬢を大切にしている。
アリアナ嬢はつり目のせいかキツく、性格が悪いと周りからは勘違いされていた。
が、本来の彼女は心優しく努力家で、芯の強さも併せ持つ素晴らしい令嬢だ。
あの、ちょっと巫山戯たところのある兄上を叱れるのもアリアナ嬢だけだ。
それすらも喜んでいる兄上は、臣下の前ではしっかりと王太子らしく振る舞っているが、アリアナ嬢と2人でいる時は、甘え甘やかして、こっちが目を逸らしてしまう程本当に仲がいい。
アリアナ嬢が学院を今年卒業したので、来年には挙式も決まっている。
ジョシュア兄上も学院を卒業してから婚約した。
相手は控えめな令嬢で見かける度に本を読んでいる人だ。
『彼女とは趣味が合うんだよ。控え目な女性だけど彼女となら愛を育んでいけると確信しているよ。彼女の傍はゆっくりと時間が流れるようで居心地がいいんだ』
確かに2人でいる姿は、目が合えば微笑み合い、お互いを尊重し合っていてる様に見える。
僕の婚約者候補たちは、僕の腕の取り合いから始まり、お互いを牽制し合うばかりだ。
さすがに僕の前では罵り合ったりしないが、遠回しな言い方で相手を蔑む言葉を投げかけている。
これも僕がハッキリした態度を取ってこなかった事が原因だ。
候補の中から選ばないといけないと分かっていても、彼女達の中から誰を選ぼうと将来が見えてこなかったんだ。
お互いが歩み寄り、ジョシュア兄上の言っていたようにゆっくり愛を育めればいいと分かっているのに、幸せな将来を想像できないんだ。
それもまた僕の勝手な思い込みかもしれない。
幸い僕は三男だ。
学院卒業後すぐに婚姻する訳でもない。
ダメ元で父上に今の気持ちを伝えた。
『分かった。ドルチアーノの婚約者候補は全て外す』
『いいのですか?』
『ワシも子供たちには幸せになって欲しい。長い人生をともに過ごす相手だ。だから候補者を何人か立てて本人に選ばせているんだ。ドルチアーノが候補の中に相手がいないと言うのならそうなのだろう』
『ありがとうございます』
『婚約者候補に上がった令嬢に"思う相手ができた、どうしても王子が嫌だ"という場合は辞退を認めると、契約書にもそう書かれている。・・・ディハルト嬢はまた別の契約内容だったが・・・それに、ディハルト嬢以外の候補者はお前の婚約者になりたいと自ら名乗りをあげた令嬢だ』
・・・知らなかった。
父上にもっと早く気持ちを伝えればよかった。
『焦らずゆっくり探せばいい。出会いを大切にしろ、そのうちドルチアーノが大切にしたいと思う相手も見つかるさ』
これで僕には婚約者候補がいなくなった。
元候補者たちに説明するのに少し心が傷んだが、こんな僕よりも幸せにしてくれる相手がきっといるはずだ。
その時の会話を彼女に聞かれてしまった事には驚いたが・・・。
彼女との繋がりが切れたことで、彼女を見る度にあれほど緊張していたのに普通に会話をすることが出来た。
会話の途中、途中で彼女が何度も驚いているような表情をしてた。
"こんな顔もするんだな"たくさんの表情を見せてくれる彼女に、今までの僕の態度を謝れば、気にしてないと言ってくれた。
僕が最初にあんな言葉を吐かなかったら、彼女の隣りに居るのはアレクシスではなく、僕だったかもしれない。
・・・違うな。
あのままの僕なら、きっと今と同じで誰にでもいい顔をして、優柔不断な態度をとっていたんだろうね。
愛想笑いもしないアレクシスを不器用だと思っていた。
人目など気にせず、自分を貫いたアレクシスは強かったんだな。
その強さが羨ましいよ。
でも謝れてよかった。
ただ一つ心残りがあるとしたら、彼女の笑顔を僕にも向けて欲しかったことかな・・・
僕はこの先もずっと後悔するんだろうね。
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