第48話 公爵家との裏の繋がり
「ダミノ、あなたは狂ってなどいなかったんですね」
「狂ってるわよ。さぁあなたの手で殺してこの因果を終わらせるのよ。そしてあなたは公爵家に手柄として差し出すの」
「あなたは……」
「さぁ! 殺すのよ! 敵に情けは無用よ」
ダミノの声が辺りに響き渡る。
気が付くとダミノが召喚した上位悪魔の姿は消え、空気中の魔力へ変換され、いなくなっていた。
周りを見回すとダミノを除き、誰一人として怪我をしている人はいなかった。
「いつまでこうしているつもり。そんなんでは大切なものをまた守れなくなるわよ」
「どっちみち守れなかったんですね。シェリーはあの日に死ぬ運命だった。あそこであぁしなければシェリーは雪山に行ったことが原因でそのまま死んでいたんだ」
「違うわ。あなたも見たでしょ? あの女の心臓を私が貫いてやったのよ」
そう言い張るダミノに僕はかまをかけた。
「あなたは僕の祖母なんですね……」
「えっ……」
ダミノは予想通り驚いた顔をした。
僕はその顔を見て、僕の予想が正しいことを察した。
「あなたと僕には共通点があった。詳しいことはわからないですが、シェリーのお母さんも多分そのことを知っていたんだと思います。いったい何があったんですか? あなたがやろうとしていたことには何か意味があった気がしてならないんです」
「はぁ私の孫なだけあって、変なところに勘がよくて、そういうところ嫌いよ」
「なんであなたはこんなおおがかりなことを?」
「可愛い孫が幸せになるように行動するのは当たり前でしょ。それに失敗するってわかっているのに何もしないでただ見ていられないでしょ? あなたのおじいさんもこの場所で私に命をくれたのよ。自分の命を犠牲にしがちな家系なのかもね」
「えっ……?」
元々弱っていたダミノの身体は土人形のように肌が少しずつ崩れ落ちていく。
「私の最後の魔法よ。彼女を助けたいって願いも魔力も十分これで集まったし、あとはダレルがリードして踊ってやるのよ。彼女を起こしてあげて」
「まだ聞きたいことが……」
「ダレル、優先順位を間違っちゃダメ。あなたがやらなきゃいけないのは彼女をここにある魔力を使って助けること。早くしないと今度は本当に使ってしまうからね」
「わかったよ。それにしても、やっぱり魔力に込められた願いも必要だったのか」
「当たり前よ。魔法は人の願いを具現化したものなんだから。最後は人の願いが夢を叶えるのよ」
どんな願いも人の希望からでしか生まれないということか。
強い思いこそが願いを叶える原動力になる。
「高濃度の魔力だけでは失敗していたかもしれないのか」
「思いの力を人は馬鹿にするけどね。奇跡を起こすのにはやっぱり強い思いなのよ。あんたたちがしっかり戦ったおかげでここの魔力は助けたいって思いのこもった魔力だよ。さぁ王子様、行ってやりな」
僕たちの目の前で棺が開き、シェリーがゆっくりと空中へと浮かびあがった。
ダミノが魔法で開けてくれたようだ。
「シェリー!」
僕はシェリーへとかけよると思いっきり抱きしめる。
もう、身分の差とか、周りへの遠慮とか、世間の目とか関係ない。
僕はシェリーが好きなのだ。
シェリーの身体は月の光を浴びてキラキラと光っていた。
僕は優しく腰に手を回し、踊るようにシェリーの身体をゆっくりと揺らしながら魔法を解いていく。
そのままシェリーの顔を支え、優しく口づけするとシェリーはゆっくりと目を開けた
「へへっ寝ている私にいたずらするなんて勇気でてきたじゃない」
「シェリー! 生きてて良かった!」
「ダレルごめんね。あの日ダミノに眠らさせられちゃったんだ。死んだと思ったでしょ」
僕はシャリーの心臓の音が聞こえるくらい強く抱きしめた。
「うん。呼吸は?」
「だいぶ落ち着いているわ。でも今は抱きしめられて幸せで胸がいっぱいよ」
「守ってあげられなくてごめん」
「そんなことないわ。ダレルがいたから今こうしていられるのよ」
シェリーの顔色は未だに真っ白だけど、それでも徐々に赤みが増してきた。
「ずっと不思議な夢を見ていたわ。ダレル、ダミノにちょっと話があるのいい?」
「もちろん」
シェリーの手を支えながらダミノのところまで一緒にいく。
もう、僕はこの手をずっと離さない。
「ダミノ、私が寝ている間、あなたの夢を見たわ。公爵家が食糧難に襲われた時、海王イカを作ったり、ライグーンを育てたり、冷凍保存するために雪ん子たちを作ったり……。あれってあなたの過去よね?」
「魔法の感受性が強いのね。幻術をかけた時に私の記憶まで共有してしまったようで悪かったわね」
「ずっと辛い役をさせていてごめんなさい。」
シェリーがダミノの前に膝をついて頭を下げる。
「シェリーは優しい子だね。だけど、こんな私に頭を下げる必要はないんだよ。すべては幻術の森の魔女ダミノがやったことにすれば、すべて上手く回っていくの。それが公爵家との契約。それにこれは罰なの」
「罰?」
「そう。私の夫、ダレルのおじいちゃんは私を生かすためにこの場所で命をかけて今のダレルと同じ魔法を使ったのよ。だから、私は生きている限りあの子たちを生み出した責任を取って生きていくのが定めなの」
「でも、その時の食糧の食糧事情ならきっと私も同じことをしたわ。それに、あなたが作ったのは人のためであってあなたがその責任をすべて背負いこむ理由にはならないわ」
「ありがとう。あなたみたいな優しい子がダレルのお嫁さんになってくれたら嬉しいけど……」
「もちろんなるわ。ダレルが嫌って言ってもぜーったいなる」
シェリーが少し恥ずかしそうに笑顔を浮かべていた。
「ダレル、おばあちゃんがこんなんでごめんね。だけど、あなたは私とは関係ないし、これが終われば二度と絡むこともないわ。だから幸せになって」
「ダミノ……おばあちゃん。僕の名前はね、両親が偉大なる魔道具使いのおばあちゃんから一文字もらってつけられたものなんだよ。どうして両親が僕にこの名前をつけたのかやっと理解できたよ」
「ありがとう……私が生きていた証をあなたに受け継がれていたのね。でも、それはあなたにとってマイナスになるわ。私との関りはできるだけ知られない方がいいわ」
「そんなことないよ。その時、おばあちゃんのしたことが正しいことなのかはわからないし、もしかしたら他にもっといい手段があったかもしれないけど、それでも僕はおばあちゃんがいなければこの世界に生まれてくることもなかったし、おばあちゃんに助けられた人はきっと沢山いる。おばあちゃんは食糧難を救うために魔物を作ったけど、少し脳筋でやりすぎちゃうのは公爵家あるあるだと思うよ」
「たしかに一時は感謝されたの。だけど、食料があまると私のしたことは悪だと非難され、公爵様まで迷惑がかかるからって、私はこの国の敵役になったの」
「あの新聞にでていたテロの物資があったっていうのは……?」
「あれは逆よ。私は非合法にこの国の悪い奴を倒しているのよ。そいつらの持ち物を押収させたら、私のせいになっただけ」
「本当にうちの先祖のせいでごめんなさい」
シェリーがもう一度頭を下げる。
まさか、僕の家とシェリーの家が昔から繋がりがあったとは思わなかった。
だけど、それで公爵家のあんな近くに家があったことも納得できる。
「人間は誰かを憎まなければ生きていけない人もいるのよ。それを私は買って出ただけ。でも、ダレル、あなたは幸せになりなさい。幸せだと思える選択をして生きるのよ」
「おばあちゃん……」
「そろそろ痛みがなくなってきたわ。ダレルごめんなさいね。あなたにこんな重荷を背負わせることになって。最後にあなたに会えて幸せだったわ。シェリーのお母さんうちの孫をよろしくお願いします」
「もちろんです。元はうちの両親がしたことですから。任せてください」
「これで安心していけるわ……」
おばあちゃんの手から段々と力が抜けていく。
「ダミノ……あなた一人に責任を負わすことはしないわ。先祖の公爵家の不正は私が世間に公表すると約束するわ」
「そんなことする必要ないわ。あなたたちがそう思ってくれているだけで十分よ。どのみち悪魔の力を借りた私は……」
「おばあちゃん!」
おばあちゃんを優しく抱きしめる。
鼓動が段々と小さくなり、身体が冷たくなっていった。
僕は周りを気にすることなく、大きな声をあげて泣いた。
大粒の涙が地面を濡らしていく。
せっかく肉親と出会えたというのに。
雨が涙を隠してくれるようにシトシトと降っている。
そんな中、こんな場面にはまるで似つかわない、パチパチパチと大きな拍手がどこからか聞こえてきた。
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