第10話 今日の目的は水着を買いに行って海にいきます
翌日、僕は早めに家からでて門の前で待っていた。
前に、家からでるのが遅くなったらサファリが家の中に乗り込んで来て起こしにやってきたことがあった。ドラゴンはさすがに連れていなかったが、あの殺意はシャレにならない。
僕がいないのがわかると、玄関ドアを蹴破るのに3秒、階段を駆け上がるのに5秒、2階の僕の部屋を見つけるのに10秒……30秒以内には、拘束され外に連れ出されシェリーの前に転がされていた。
最近では彼女との約束の時間30分前には自分の家の前で待っていることにしている。サファリが脳筋すぎて家には招待したくないからだ。
彼女はほぼ約束の時間通りに馬車に乗ってやってきた。
昨日は掃除のために少し地味目の服、もちろん一般的に見れば十分派手だが、今日は外出をするということもあり、白を基調とした派手なヒラヒラの服をきていた。
馬車の窓から僕のことを見つけると、嬉しそうに満面の笑みを浮かべて手を振ってくる。
それは、あの時から変わらない笑顔だった。
僕に会うたびに、あんな笑顔になるなんて頭の方も治療が必要に違いない。
馬車から飛び降りるように笑顔で降りて来た彼女に軽く手をあげると、そこにハイタッチをしてくる。
公爵家の令嬢が公道でハイタッチすることに異論を唱えるものはここにはいない。
元気があっていいことだ。
「ちゃんと家の前で待っていて偉いじゃない」
「もうさすがになれたよ」
「学習できて偉い、偉い」
「それで、今日はどこへお供しましょうか?」
「おっついに私の騎士になりたくなった?」
「あと10年くらい考えておきます」
彼女は少しおどけたような笑顔で僕の方を見てくるが、軽く騎士になるなんて言ってしまえば彼女はそれを実現する力がある。
ただ、それは彼女を守る騎士であって今の関係とはきっと変わってしまう気がする。
僕は彼女にとってやがて忘れていく友人の一人でいいのだ。
「10年も待たせたら私、死んじゃうんだからね!」
「笑えない冗談だね」
「お嬢様の冗談を笑わないなんて失礼なやつだ」
シェリーの背後でにらみをきかせるサファリがいる。
笑ったら笑ったで、お嬢様が死ぬというのかと言われ、同じ目にあうのは間違いない。
「ハハハ……それで今日は?」
「とりあえず、街中へ行って買い物します」
「街の中かぁ。あんまりいい思い出がないなー」
「じゃあ馬車に乗って」
サファリの剣がきらりと光るのが見えた。
「わかりました。喜んで」
僕は反抗することをすぐに諦めて、彼女が言う通りに馬車へと乗り込んだ。普通であれば僕のような下っ端が馬車に乗せてもらうことがありえないが、乗れと命令されれば乗るしかない。
ちなみにあそこで乗らないと剣が飛んでくることがあるので注意が必要だ。実際にあと少しで首が落ちそうになったことが何度かあって歯向かうことは諦めた。
馬車の中で対面に座っている彼女は、ニコニコしながら街の風景を眺めている。
何度も見慣れているはずの景色さえも彼女の中では新鮮なのだと思う。僕が見ている景色と同じ景色のはずなのに、彼女の中ではきっと違う。
僕にはいつの間にか当たり前の景色になってしまったものでも、新鮮に受け入れられる感性が僕には少しだけ羨ましかった。
街中に入りどんどん人が増えて行き、馬車のスピードが少しだけ落ちる。
あまり急ぐと、他の馬車が勝手にどんどん道を譲りだし、悪目立ちすぎる。
会話のない馬車の中で、僕は彼女の笑顔に見とれていたが、途中で僕の視線に気が付ついたのかはにかんだ笑顔を見せたので、今日の目的地を聞いてみた。
「それで何を買いにいくんだい?」
「今日の目的は水着を買いに行って海にいきます」
「実家へ帰らせて頂きます」
「夜には帰れるわよ。海だよ! 海! 白い砂浜に可愛い女の子が3人とハーレム状態だよ?」
「ちょっと待って。3人って誰?」
シェリーはゆっくりと自分を指さし、次にメイドのソラン、そして最後に天井を指さした。
そこにいるのは……。嘘だろ。サファリの水着姿なんて見たらよくて目をえぐられる未来しかない。
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