第46話 発電天使相川彼方

 帰宅して、小説を書くことについて考えた。

 森口くんに勧められて書いてみることにしたが、わたしはそんなのやったことがない。

 彼は好きなように書けばいいと言ったけど、やっぱりむずかしそうだ。

 発電をテーマに、なにを書く?

 うーん……。


 なんとなく、書いてみたいお話は思い浮かんでいる。

 川尻唯ちゃんが感電死した。死ななければ、彼女はもっと高みに行けるはずだった。

 発電天使はもっといっぱい恋愛発電して、日本の発電をリードすることになったと思う。

 わたしも百人級でどんどん発電して、彼女みたいになりたかった。

 なんなら千人級だって装着してみたかった。

 そのわたしの欲望を誇張して、短編小説にできないだろうか。

 わたしはパソコンを起動し、ワープロソフトを開いて、『発電天使相川彼方』というタイトルを打ち込んだ。

 小説を書き始めてみた。

 稚拙だが、意外にも文章が湧き上がってきた。

 

 相川彼方は発電アイドルだ。発電天使とも呼ばれていて、百万人級恋愛発電ユニットを装着している。

 彼女は飛び抜けてすごい発電能力を持っていて、バリバリ発電する。

 彼方ひとりだけで日本の発電の50パーセントをまかなっているほどだ。

 超絶すごい恋愛発電力。彼女が登場して、日本は変わった。化石燃料発電所はすべて廃止された。

 歌って踊れて発電できる大人気アイドル。

 そんな彼女の恋人は森崎誠一。若手の小説家で、芥川賞作家だ。

 相川彼方と森崎誠一はラブラブ。

 ふたりの恋愛が日本の発電を支えている。彼女と彼は国の宝だ。

 某国が相川彼方を誘拐しようとしているという噂がある。

 日本にダメージを与え、自国の発電に彼方を利用しようとたくらんでいるのだ。

 その噂はかなり信憑性があり、実際、彼女は何者かにさらわれかけたことがある。

 相川彼方には知念風斗という超絶有能なボディガードがついている。

 彼の活躍で、彼方は誘拐されなくて済んだのだ。

 誘拐未遂事件があってから、彼方は知念風斗のことが気になるようになってしまった。

 森崎誠一のことが好きだけど、知念風斗のことも好き。

 ふたりを愛するようになって、彼方の発電力はさらに上がり、ついに日本の発電の70パーセントをまかなうようになった。

 世界一の発電天使、相川彼方。

 彼女は今日も歌って踊って恋愛発電している。

 恋愛発電は正義だ。

 彼方の発電力のおかげで、日本は繁栄している。

 そして彼女自身も幸福だ。

 森崎誠一とデートし、知念風斗に守られている。

 このしあわせがいつまでもつづけばいいと彼方は願っている。


 あれ、なんか一気に書けちゃったけど、これ、短編小説になっているのかな?

 ううむ、よくわからない。

 自分の欲望を表出しただけの文章だ。たぶん小説の体を成していない。

 でもわたしにはこんなものしか書けない。

 これを書いたら、もう満足しちゃったし、ほんの少しだけあった創作衝動はきれいになくなってしまった。

 まあいいや、とにかくわたしはチャレンジして、いちおう書いた。

 面倒なことはこれでおしまいだ。

 わたしは『発電天使相川彼方』をプリントアウトし、かばんの中に入れた。 

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