第6話 テスト後
高校入って初めてのテストが終わり、クラスの皆は思い思いに体を伸ばしたり、友達と話したりしている。
俺も陽翔たちのところに行き、声をかける。
「お疲れ様、陽翔。どうだった?」
「まあまあ良さげ。そんなことより、週末は遊びに行くぞ」
俺の問いかけに陽翔はあっさりと答える。
まあ、けっこう勉強してるもんな。
「俺んち来るか? 猫アレルギーないなら」
「おお、いいの? 俺もちゅーるあげてみたいな」
「今家にめちゃくちゃあるからいいよ。80本ぐらい」
「どうしてそんなにあるんだ?」
「贈り物は常に揃えておかないと」
今日も猫教を布教することができた。また信者が一人増えたな。主も喜んでいることであろう。
今日のところは、ホームセンターに寄って帰ることにした。
最近テスト勉強で忙しくて、いつもよりきなこと遊んであげられなかったから、その分取り返そう。新しいおもちゃ、買って帰るか。
家に帰ったらきなこがいるのに、ついつい足を止めてペットショップの子猫を眺めてしまう。
ガラス越しに見える子猫たちは、自由気ままに寝ていたり、そっぽを向いたりしている。
そんなとこもまた可愛らしくて趣がある。
その様子を5分ぐらいは眺めていたことに気がついた。
神よ、罪深い俺をお赦しください。
「あ、猫村くん」
「……花野井さん」
これは浮気じゃないんだ、とか変なことを口走りそうになった。
「その、また相談があるんですけど……」
「ん、どうした?」
花野井さんは申し訳なさそうに、少し眉を下げて言う。気にすることないのに。
「最近、クロがカリカリのキャットフードを食べてくれなくて」
「なるほど。それなら……」
俺は花野井さんをキャットフードコーナーに連れて行く。
「こういう缶詰とかもあげてみたらいいかも。ずっと同じものばかりだと、クロも飽きちゃうと思うから」
「ありがとうございます。……たしかに、バラエティ豊かな方が良いですね」
「うん」
俺は頷いて、少し高い位置にある缶詰を取り、花野井さんに手渡す。
「じゃあ、俺はおもちゃ探してから帰ることにするよ。これは食べてくれるはずだけど、それでもなにかあったらまた」
「はい。ほんとに、ありがとうございます」
そう言って、なにか考え事をしているような花野井さんから少し離れて、猫のおもちゃコーナーを眺める。
この電動の虫みたいなおもちゃ、いいな。
買いだなあ。
俺が遊べないときのために、きなこだけで遊べるようなおもちゃをもう少し買っておこう。
「あー、でもこれ全部買ってたら今月分かなり厳しいな」
これだと、まだ6月が始まったばかりだというのに、半分以上使い果たしてしまう。
ちゅーるの貯蓄はあるからきなこのご飯の心配はいらないけど。俺のご飯の心配が必要になってくる。
「うーん。どうしよ……」
俺はレジに向かおうとしたが、立ち止まって頭を悩ませる。
とりあえず財布の中身を確認しよう。
「……猫村くん」
「あれ、花野井さん?」
さっき帰ったような……? あれ?
「今までのお礼として、1つプレゼントさせてください」
「ほんとに大丈夫だからね?」
お金が無いのがバレてるような気がして少し恥ずかしいな、と思いながら言う。
「猫村くんはそう言ってくれますが……少しモヤモヤしてしまうんです。……私のわがまま、聞いてもらえますか?」
花野井さん、頼み方めちゃくちゃ上手いな。そんなに可愛らしい頼み方をされてしまったら、断れるはずがない。
「そういうことなら、有り難く今日のところは頂こうかな」
そう言って俺たちはふたりでレジへと向かう。
結局、電動虫を買ってもらって、3つ入っているうちの2つを俺がもらうことにした。
レジを済ませて、最後にもう一度子猫がいるコーナーをふたりで眺める。
2回目は流石に浮気です。すぐ退散します、許して。
今度は、さっきまでと違って、子猫どうしで追いかけ合ったりして遊んでいる。
「キャットタワー、いいなあ」
「たしかに、あれがあったら猫も見てる側も楽しそうですね」
しかしあれ、結構値段が高くつくんだよなあ。猫は高いところ好きって言うし、あったほうがいいんだけどな。
「……作ってみようかな」
それこそここで木材とか買ってDIYしたら、世界で唯一のキャットタワーができてしまうのでは?
「私も手伝っていいですか?」
「え、いいの?」
俺は花野井さんの申し出に驚いて言う。
「はい。楽しそうですので」
「じゃあ、よろしく。そうだ、それでもう今後一切お礼のこと考えるのはなしってことで」
「分かりました」
花野井さんは、今度こそ満足いったみたいで納得してくれた。
「じゃあ、夏休みに入ったら作り始めようかな」
「楽しみにしてます」
まだ1ヶ月以上あるけれど、もう夏休みが待ちきれない。
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