暴風雨ガール 26
二十六
坂出ジャンクションで高松自動車道に乗り、五十キロほど走ると川之江ジャンクションで徳島自動車度へ入る。
東へ東へとさらに五十キロあまり、ブッ飛ばして三十分ほどで脇町出口となる。
そこから美馬郡穴吹町口山字宮内へは国道四百九十二号線を南へ下って行く。
下ると言っても実際は山道を登って行くのだ。
吉野川にかかる穴吹橋を渡って、緩やかな山道をグングン走る。
私の愛車とは比べものにならない性能だ。
そろそろ車を買い替えないといけないなと思うが、愛車には長年ともにした思いがあるから手放せない。
乗りなれた車をなかなか手放せないのは、強い安心感があるからだ。
それは男女関係でも同様である。
相手への安心感がこころの中にドカンと根をおろしている間は、その居心地の良さから抜け出せない。
次の相手の新鮮さが、今の相手との安心感や居心地良さを上回らない限り、ずっとそこにこころは滞在する。
そんなことを考えながら、穴吹川に沿って曲がりくねった道を登って行く。
宮内小学校近くに郵便局があり、車を止めて穴吹療育園の場所を訊く。
郵便局員は田舎の施設の場所など間違いなく知っている。
真鈴の父は、もしかすると療育園に姉と一緒にいるかも知れないと思うと、焦りと昂ぶりとが半々くらい混ざった気持ちになる。
「ああ、穴吹療育園ね。この道をもう少し走ってから右折して下さい。すると小さな橋があります。
それを渡ってさらに百メートルほど走ると大きな寺が見えますから、その横の道路を抜けたところに鉄筋の大きな建物があります。お寺の裏手になりますな」
親切に男性局員が教えてくれた。
車に戻ると真夏の熱射でシートが今にも燃えてしまいそうだ。
全身から汗が吹き出る。
汗の玉を振り飛ばしながら車を走らせると、寺の向こうにその建物が見えた。
「穴吹療育園」と、遠くからでも見えるように大きく書かれていた。
敷地内の広い駐車場に車を止めて、少し興奮しながら穴吹療育園の玄関を入ると、左手に受付とその向こうに事務所があった。
事務所は意外にも広く、大勢の職員が忙しそうに事務を執っていた。
中央には広いロビーのようなスペースがあって、ここも想像を絶する広さだった。
私は受付カウンターまで駆けつけてくれた若い女性職員に、沢井悦子がここにお世話になっているかを確認し、それから面会したい旨を伝えた。
まるで「時をかける少女」の女優にみたいに爽やかな印象の職員に思えた。
彼女は少し怪訝そうな顔をして「ご身内の方でしょうか?」と訊いた。
身内ではないが、昔、すごく懇意にしてもらった者だと伝えた。
彼女の胸の名札には「関」と職員名が書かれていた。
関さんは「少しお待ちください」と言って奥に退き、上司に何か相談をしていた。
それから再び駆けるように戻って来て、「それではどうぞ。靴はそちらの下駄箱に入れて、スリッパをご利用下さい」と優しく言った。
私は緊張しながら関さんのあとに続いた。
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