第10話 勇者の力
『リューライ、あとは任せろ。』
はぁ、はぁ、はぁ、はぁ
体の主導権が変わる。
それは体の細胞と自分の意識がリンクするかしないかで変わる。
だから当然、そのリンクが途絶えた今、俺は身体中の細胞が悲鳴をあげ、全身がギシギシとひしめく苦しみから逃れたことになる。
逆に、師匠は今、体とリンクしているので、その苦しみを味わっているはずだ。
それなのに、
『あー! 久しぶりに体動かせる!』
と、楽しんでいる。
全身の肉が抉られている。
何本も骨が折れている。
それなのに苦しそうなそぶりは1ミリもない……これが、勇者。
『魔力回復』
師匠がそう唱えると共に体の周りに魔力が集まってきているのが感覚で分かった。
『リューライ、これは魔法を使う上で大切な事だぞ。魔力の総量を増やすことは当たり前だが、それが尽きた時、魔力の補充ができなければこのようなピンチの時にすぐに死んでしまうからな。』
すごい!
空気中に漂っている魔力が俺の体の一点に集中している。
『これはまだ序の口だぞ。』
師匠はそう言うと目の前の何もない空間に手を伸ばして、唱えた。
『来い、ウォーターブレイド。』
師匠の発したその言葉と共に、手のひらの中に水の剣が現れていた。
師匠はそれを掴んで相手に向けた。
(すごい! 水なのに掴めてる!)
『極めた魔法に不可能は無い!』
師匠は満面の笑顔でそう言った。
多分攻撃魔法を使うのがとても久しぶりだったからだろう。
[グワァァォ!]
相手の威圧は相変わらずだな。
でも、体の主導権が無い分、相手のことを落ち着いて観察できる。
とにかくデカい。
そして、火が体から溢れているからか、近くにいてとても暑かった。
『おい、お前、中域のモンスターだろ。なんで広域にいるんだ?』
そうか、こいつ中域のモンスターだったのか。
それは強いわけだ。
でも、逆に考えれば中域にはあの強さのモンスターがたくさんいて、俺たちが目指している狭域にはもっと強いモンスターがいるのか。
(もっと強くならないと。)
『そうだぞ! 今のお前ではこいつは倒せない。だから俺の戦い、しっかり見とけ!』
『勇者の覇気発動』
(!?!?)
凄すぎる。
今、俺の体に黄金の覇気が纏わりついている。
体と意識のリンクが無くても感じられるその強さ。
一方、レッドワイルドウルフは口元に火を溜め込んでいる。
ブレスを撃つつもりだろう。
師匠は一歩も動かない。
そして、案の定相手はなんの躊躇もなくブレスを放った。
(師匠、危ない!)
この攻撃はやばい!
俺がさっきまで受けていた攻撃とは格が違う。
超高温の火の玉。
それこそ俺のファイアボールなんてこれに比べたら存在しないようなものだ。
これを受けたら確実に死ぬ。
それでも師匠は一歩も動かない。
『まぁまぁ、そんな喚くな。』
師匠がそう言うと同時に、ブレスが直撃した……のだが、
(あれ?)
当たったはずのブレスは目の前で消滅した。
すると師匠はニヤリと笑って、
『この程度の攻撃で、【勇者の覇気】を破れると思うな。』
と相手を煽った。
相手はキョトンとしていて、モンスターなのにもかかわらず、戸惑いを隠せないでいる。
これが、勇者の覇気。
『俺のターン!』
師匠はそう言うと、手に持っている水の剣をしっかりと構えた。
剣がなければ魔法で作ればいい。
そう俺に伝えたいのだと感じた。
『勇者術、三の型、蒼水の神水』
***
勇者術。
それは勇者サンドラが開発した、独自の技。
これを習得するには地獄のような鍛錬と、正確な指導が必要だ。
そして今現在も、勇者サンドラ以外に勇者術を習得している者は存在しない。
そんな特別な技をサンドラはいとも簡単に扱う。
この先、こんな化け物じみたことができるとするならばそれはリューライ1人だけだろう。
***
すーーっ
と、滑らかな音がしたかと思うと、レッドワイルドウルフは首から上が無くなり、だんだんと塵になっていっていた。
(す、すごい! 師匠、今のなんですか!?)
勇者術? で剣を構えた瞬間に相手は死んでいた。
それに、水の剣だ!
水は普通に考えて掴めない。
それは液体だからだ。
人間が掴めるものはほとんどが固体である。
それでも、水を固体化せずに、液体のまま掴むなんて、やはり凄すぎる。
《じゃあ体渡すから、気をつけろ。》
そうか、倒したから俺が体動かすんだな。
って、ん? 気をつけろって何に気をつけるんだ?
そう疑問に思いながら体を取り戻すと、
「うぐっ、ぁがはぁっ!」
身体中が痛い。
そうだ。師匠は戦ってはいたが、体の傷を何一つとして治してくれていない。
肉は抉られている。
骨は何本も折れている。
痛みというより、呼吸するのさえやっとだ。
《こんなの屁でもねぇ!》
まじか、この人。
《これは、中域へ行く前の最後の訓練だ。どうにかしてその傷を治せ。》
うわぁぁ! 鬼畜だ!
俺は2年前の初めてブラックベアと戦った時のことを思い出した。
たしか、怪我は光魔法、ヒールとか言ってたっけ?
そうか、光魔法の魔力を集めて、傷を治すイメージを立てればいいんだ。
そしてそれを実践しようとしたのだが、
「ぐっ、あがっ!」
怪我が痛すぎて全然集中出来ない。
集中しなければ魔力を集める事が出来ない。
そして、魔法が使えることもない。
どうする、どうする、どうする、どうする
痛みを和らげたらどうだ?
いや、どうやって痛みを和らげるんだ?
その時、一つ思いついた。
無属性魔法だ。
俺はもう2年間ぶっ続けで無属性魔法を使ってきたんだ。
これだけは集中せずとも無意識にできるはず。
痛みを感じないためには痛覚を感じ取る神経をシャットダウンさせればいい。
そんなイメージで、
「痛覚無効」
すごい!
痛みを感じない!
と言うか、触覚が存在しないような不思議な感覚だ。
そうか、外部からの干渉をも無くしてしまうのか。
痛覚無効は使い方によっては危ないかもしれない。
だが今は、最高だ!
光属性の魔力を集める。
黄色に輝くこれだな。
そして、治すイメージ。
「ヒール」
そう唱えると、俺の体にあった傷はみるみるうちに治っていった。
痛覚無効を解除しても痛みを感じない。
《すごいクオリティだ。あのくらいの傷だったら貴族は間違いなく、パーフェクトヒールという魔力を全て消耗する技か、一口何億円とする完治薬を使うだろうな。》
なんかすごい褒められた!
そんなこんなで俺たちはレッドワイルドウルフが落としたドロップアイテムを見た、
【レッドワイルドウルフの牙爪】
これ、なんかすごいオーラを感じる。
《おい! これはミスリルよりも硬いと言われている究極の武器素材だぞ! レッドワイルドウルフ自体そんなに数がいないのに、このアイテムは1%にも満たない確率でしか落とさないんだ。》
そんないいものだったのー!?
これは、大事にしよう!
それから数時後…….
俺たちはとうとう【中域】に足を踏み入れた。
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